『タルト・タタンの夢』からはじまる「ビストロ・パ・マル」シリーズの3作目である。
前からそうなんだけど一定以上疲れるとSNSやら異世界転生の世界に脳内が旅立ってしまうというか時間が盗まれてしまうというかそういう症状が自分にはあるのだけれども、本屋としてそれだけはまずいだろうということで、この症状を因数分解してみるとつまりは分かりやすい物語を摂取することでお気楽な快楽を摂取してストレスをどうにか脇に置いているということなのかなーと思い至った。
ということはである。読みやすい小説であれば良いのではないのか、である。って思い付いたので、我に返ることができたので、ようやく3作目ということである。長い。前置きが長い。
さて、今回は前作と違って全ての短編がウェイターの高築目線で語られる。2作目のあれは上手くいっていなかったという判断なのかなんなのか。ただまあぼくは水戸黄門的な気持ち良さを期待しているので「いつもの」スタイルなのは読みやすくて助かるけども。
そう「いつもの」なのである。いつもの通り、「ビストロ・パ・マル」にいろいろな客が来て、三舟シェフが客の悩みやまだ客自身も気が付いていない日常の謎を解いていく。トランスジェンダーの話が出てくるのも2020年7月刊行ということを考えるとちゃんと倫理観がアップデートされているように感じるし、142ページの「好き」に関する話も良い。
"同じように、音楽に興味をもつ人もいれば、旅に人生のすべてを捧げる人間もいる。音楽が嫌い、旅行が嫌い、という人はそれほど多くないと思うが、「好き」ということばは嫌い以上の大きな幅を持っている。"
本書142p
「〜を知らないのに〜好きというなんて」などそういう言説を時々見かけるがそういう独りよがりな物言いが苦手な自分としても、だから安心して楽しめた。
やー読んで良かった。ご馳走様でした。