こんにちは。文学堂美容室retri 生田目です。
夏が始まりました。このところ猛暑日が続き、本格的に夏が来たなという気候ですね。熱中症や夏バテには十分注意しつつ、涼しいところで夏の読書を楽しんでいけたらと思います。
個人的に夏という季節は「始まる」という感覚があって、毎年この時期は「夏が来た」「夏が始まった」というようなことをよく呟いてしまうのですが、もちろん他の季節もその到来を感じる瞬間はあって、それでも夏は特に「始まり」を意識することで暑さに負けないように自分に小さく気合を入れているのかもしれません。
一度しっかり汗をかいて暑さを感じるというのが自分なりの夏に対する準備なのですが、夏に限らず、季節に馴染むというか気候や環境の方に身体を合わせていくと、なんとなく体調も良くなる感じがします。特に食べ物は直接身体をつくるものなので影響が大きいのではないかなと思うのですが、気持ち的にも旬のものを食べるとその季節を実感できる気がして良いですね。
昔ながらの行事や季節のイベントなどで定番の食べ物というのは、食べる人や作る人などいろいろな関わりをつないで、気候や目的に合わせて心と身体のチューニングをするものでもあるのかもしれないなと。小説やエッセイに食べ物が書かれることが多いのは、そこからさまざまな事柄や想いにつながっていくからかもしれません。
今回は「食べ物小説」をご紹介します。
『みかんとひよどり』(近藤史恵、角川書店)
フレンチレストランのシェフと、山で狩猟しながら生活するハンターという二人の登場人物の交流を通して、生きることや人との関わりを描く小説。猪や鹿など、普段あまり食べ慣れないものが食材としていろいろな調理の仕方で美味しそうに描かれていて、ジビエ料理を食べたくなります。
主に描かれるのは秋から春にかけての季節なのですが、気候や何を食べているかによってそれぞれの個体ごとに味が変わるというのが印象的で、あらためて食べ物というのは「命」だったということを正面から見るような物語です。
ジビエというテーマを中心に、レストラン経営や害獣駆除といった問題や二人を取り巻く人間関係が描かれていて、一人一人の生活のありように大きく関わっている「食べて生きる」という根本的なことやいろいろな物事を少し大きな視点でみることは、自分が何に納得して人生を歩んでいくかということにつながるのかもしれないなと。
何をどうやって食べるかということは、どんな価値観でどう生きていくかということとやはり深く関わっているのではないかと思いました。
『菜の花食堂のささやかな事件簿』(碧野圭、だいわ文庫)
食堂を営む傍ら料理教室で近所の人たちに料理を教えている「先生」が、ちょっとした会話や振る舞いをヒントに謎を解いて、登場人物たちがそれぞれに抱えている悩みや問題に向き合っていく物語。
先生が教えてくれるのは、家庭料理や定番のおかずなど日常の料理で特別なものではないのですが、だからこそそれを美味しくつくることができれば「自分を幸せにできる」という先生の姿勢に人への優しさを感じます。
思い込みがあったり一つだけの視点からでは見えてこないことも、「料理」や「食事」という観点から見ることで気づくこともあって、人に対して理解したりそれぞれ納得できる答えにつながったりするということに思い至る小説でした。
料理するときの、素材一つ一つの個性や組み合わせ、自分の状態や時期の違いに向き合って、感謝するという心構えや心の持ちようというのは、人と接するときにも通じるもので、目の前の人をちゃんと見るためには想像力も必要なのかもしれないなと。
「ちゃんと食べないというのは、自分を大事にしないということ」
という、食べることを大事にすることは自分を大事にすること、という考え方にハッとして、少し丁寧に食事をしてみようかなと思えるお話でした。
東日本の震災前、夏休みに同期の里帰りについて行って、宮城県の気仙沼に遊びに行ったことがありました。自分で釣った魚を捌いてもらって食べたり、庭先から採ってきたばかりのネギが入った味噌汁など、その食べ物がどんな流れを辿って目の前にあるかということを知って食べるというのは、普段していた慌ただしい食事とは少し違ってより美味しく、ありがたいものだなと思ったことを覚えています。
そして震災の時、実際に行ったことがあるその場所を知っているということが、自分が感じることに大きな影響を与えていて、もし知らなかったらやはり全く違う感覚だったかもしれないと思いました。
人も物事も、見えているもの以外の前後関係や背景を知ったり直接関わったりすることで受ける印象や意味が変わってきて、様々な側面から見ることができる、ということが自分のバランスをとっていく上ではいいのかもしれないなと。
読書もまた、何も情報を入れずその世界観を楽しんでもいいし、時代背景やその本が書かれた前後関係を知って読むのも面白かったりして、その時の気分や、季節や状況ごとに受け取るものや感じることが違うかもしれないと思えることが、より楽しみを増やしてくれる感じがします。
食べ物のように、読んだ本で自分ができているという感覚があるので、その本が辿ってきた流れを想像しながら最初のページをめくる瞬間に感謝しつつ、今日もまた読書日和です。
最後に、文学堂美容室retriとは
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