『本の雑誌』での連載「本屋の旅人」取材こぼれ話を書くブログ連載「本屋の旅人B面」。第2回目(紙の連載では3回目)は空葉堂書店さんです。
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本屋とボードゲーム?
その意外な組み合わせは双子のライオン堂か書泉神保町(最近取り扱いをやめたらしい)くらいでしか聞いたことがなく、しかも幼少期に遊んだせせらぎの里公園のすぐ近く、つまりは下落合の住宅街の中にあるということで、取材先に選んだのだった。
空葉堂書店は新目白通りを一本目白側に外れた路地にある。
主要な紹介は『本の雑誌』に書いたので良いとして、取材していておもしろかったことがあったのでそれを書いておきたい。
空葉堂書店はファシリテーションが軸となった本屋だ。組織やチームを円滑に目的に向かって推進させるための潤滑油のようなスキルなのだが、元の考えが心理学にあるという。
そういえば僕も学生時代は臨床心理士を目指していたこともあってある程度の療法は知っている(とはいえもう10年以上前だからだいぶ古い知識だが)のでさらに聴いてみるとロジャーズの来談者中心療法が考え方の基礎にあるらしい。つまり積極的傾聴である。
簡単にまとめると相手(クライエント)の話すことを否定も肯定もせずただそのままのものとして受け止めて共感を見せるというものだ。
https://kokoro.mhlw.go.jp/listen/listen001/
人は自分の話を聴いてくれる人の話を聞くものだしチームの一員として認められていると感じられれば能力も発揮しやすいというものだろう。
しかし、傾聴をしているリーダーには相応の負担がかかるわけで、じゃあリーダーのための場所はないのか、本がそれにあたるのではないか? ということで空葉堂書店か生まれたわけだ。
(カウンセラーの世界でもクライエントの話を聞いているうちに引っ張られてしまって心身に不調をきたす人がいるという。これを防ぐためにスーパーバイザーという役割がある)
本は否定も肯定もせず、ただそこに書かれていることを読者に差し出すだけだ。それを受け止めた読者が何を思いどうするのか。自分のペースで考えることができる。チームメンバーや外部環境に対応して乱れた自分のテンポを自分の手に取り戻すような行為でもある、というようなことを共同経営者の小寺さん(本誌に出てくる後藤さんは店主)は話していた。
表現は違うが、本屋Titleの辻山良雄さんが「自分を取り戻す場所」と本屋のことを仰っていたが、それをビジネスの世界から逆照射するような言葉で僕にはとても面白く感じられた。
と言うのも、本屋、特に独立書店というとカルチャーの文脈で語られることが多い中、ビジネスの世界でも本屋の役割があるのではないかと思うことができたからだ。
まあ冷静になってみればイトーキが随分前に本社の一階をライブラリーにしていたし、やず本ややわかさ生活書店の例もある。さらに言えば内沼晋太郎さんや幅允孝さんをはじめとした選書業の世界でも企業ライブラリーを作る仕事はあるだろう。
なので、ビジネスの世界においても本屋の役割があるというのはそんなに変わったことではないのかもしれないが、あらためて小さな規模の独立書店でその言葉が聞けたことは、年始に書いた「2021年、独立書店事情」でも書いた異業種からの参入という点でも示唆深いことなのであった。
というわけで本屋自体の紹介は本誌にちゃんと書いてありますのでぜひぜひお買い上げくださいませ〜。