こんにちは。文学堂美容室retri 生田目です。
このところ気温が急に上がって、一気に初夏といった気候の日も増えてきました。ゴールデンウィークで賑わっていた下北沢の街は、日常が戻ってきて少し落ち着いた雰囲気になってきているように思います。おかげさまで連休中にもたくさんの方に髪を切りに来ていただき、いろいろなお話を聞きながら本の話もできて、読みたい本が増えて楽しい毎日です。
三月と四月は年度末、年度初めということもあって、忙しかったり環境が変わったりしてあまり本が読めていないという方が多いような印象でしたが、お仕事や生活も落ち着いてきて、連休では少しゆっくり本も読めたでしょうか。
一般的な意味での仕事に限らず、家事など生活のための「しごと」というのは、人生の中でかなりの時間を占めると思うので、本を読む時間のためにはいろいろと調整が必要だったり限りがあったりして、そのぶん読書できるときは存分に楽しみたいですね。
逆に考えると、生活の大半を占める「しごと」をしているときに経験してきたことというのは、読書する上で影響の大きい要素なのではないかなと思います。
どんな「しごと」をしているかというのは、どのような登場人物に感情移入するか、どういった目線で読むかなど、どう本を読むのかにつながってくるのかもしれません。職種や職場、各家庭によってさまざまな「しごと」にまつわる物語があるなと。
そこで今回は、いわゆる「お仕事小説」をご紹介してみようと思います。
『この世にたやすい仕事はない』(津村記久子、新潮文庫)
長く続けた仕事を辞めた女性が、いろいろな仕事を巡っていく一年を描いた小説。職業安定所で紹介される、
- 見張りのしごと
- おかきの袋のしごと
- 大きな森の小屋での簡単なしごと
など、聞いただけではよくわからないフィクションのような、でも本当にありそうな「仕事」がリアルに描かれていて、不思議な感覚を覚える物語です。世の中は本当にいろいろな仕事でできているなと。
主人公は自宅から通える職場で働くので、全く知らない場所ではないのに職業が変わると視点が変わって、同じ街でも見え方が変わってくるということが描かれていたのが印象的でした。
どんな仕事にも外からではわからないことがあって、
「信じた仕事から逃げ出したくなって、道からずり落ちてしまうことがあるのかもしれない」
という主人公に共感しました。どういう仕事をするかというのは、どうやって人と関わって生きていくのかということとつながっていて、その仕事ならではの経験と、もともと持っているその人の性質の両方が影響しあって、生き方というものになっていくのかもしれないなと思いました。
『大変、申し訳ありませんでした』(保坂祐希、講談社タイガ)
謝罪コンサルに持ち込まれるさまざまな案件を解決していきながら、その裏にある人間関係や心情を描くお話。
傲慢不遜な上司に振り回される主人公の目線を通して、テンポよく展開していく物語がエンタメとして読みやすく、探偵要素や温かいエピソードを織り交ぜながら「謝罪」という山場を迎える展開に引き込まれます。
「口先だけの謝罪など意味がない」
「許されない土下座には一円の価値もない」
「誠意を感じるか感じないかは受け取る側が決めること」
と言い切るドライな視点は、いざ自分が謝る立場になるとなかなか持てないなと思うのですが、「自分の胸の内をうまく伝えられない人たち」のために、見えないものをどう伝えて、誤解や非難から守るのかという第三者としての視点を入れるというのは、日常生活を送る上でも必要かもしれないなと。
そういった視点というのは、もしかしたら現実にあるいろいろな仕事が持っている側面の一つなのかもしれません。誰に向けて、何のために、というのは、謝罪に限らず人間関係と仕事のテーマだなと。
謝罪というのは、どれほどの距離感の相手に対して、何を目的にどう伝えるのかという高度なコミュニケーションなんだなと思いました。
美容師の仕事は技術職でもあるので、できないことができるようになるのが面白かったりするのですが、本も、最初に読んだ時によくわからなかったものが、時間が経ってから読むとちょっとわかるようになっていたり、自分の経験にどこかでつながった、と思えたりする瞬間が面白くて、それも読書する楽しみの一つであるなと。
お客様といろいろなお話をしていると、知らない本を教えてもらえることや、今までとは違う視点で本を読むことなどを知る機会があって、視界や自分の世界が広がってるな、という感覚があります。
髪に関しても、悩み事を解消したいと思ったり、こうしてほしいという要望に応えたいという思いなど、目の前のお客様との関わりで一つひとつ自分の得意なことや好きなことが広がっていった感じがありました。そして、そうやって広がっていく、ということが好きなんだなと思います。
そんなことを繰り返して、できることやわかることが増えていった先に、自分にとってまた新しい「しごと」があるのかもしれないなと。
美容室でも、何かほんの少しだけ、“わかる“とか“知る“とか“つながる“をお客様が持って、お店から出て次の場所へ向かえるような時間になったらいいなと思いながら、今日もまた読書日和です。
最後に、文学堂美容室retriとは
サロン名:文学堂美容室 Retri(レトリ)
住所:〒151-0031 東京都世田谷区北沢2-27-6 エルブーデ2F
TEL:03-6407-0375
営業時間:平日 11:00~21:00 土日祝 10:00~20:00
定休日:毎週月曜日、第1・第3火曜日
URL:https://www.retri-bungakudo.com/
ご予約について:ご予約はお電話、ネット予約、メール予約にて承っております。ネット予約は24時間受付が可能ですので是非ご利用ください。