息抜きでもあるが同時にお仕事でもある読書である。「まえとあと」の望月大作さんが4月に著者ととトークイベントを開催してくださるとのことで予習なのである。
息抜き、だとしたのはタイトルがあまりに素晴らしいのでどこかで読みたかったからだし、実際エッセイでもあるので息抜きにはなった。
さて、著者とは一度だけお会いしたことがある。もう何年も前のことだ。リトルプレス『dm vol.1』の出版記念パーティーということで池袋のクラブ? みたいな場所で執筆陣と関係者が集まって騒いでいた。
中心部の騒がしさから逃れて少し静かな場所にいたところ、たまたますぐ近くにいたのが著者だった。
僕はプロフィールでは本屋ライターと名乗っていながらも、ライターという意識より独立書店を応援する人という意識が強く通りが良いから「ライター」と名乗っているだけで、あまり一般的なライター(そんなものが存在すればだが仮に存在するとして)としての仕事はほとんどしていないように思っている。
新聞記者やどこかの雑誌編集部にいたこともないのでライターとしての訓練を受けているわけでもない。だから、ライターとして様々な雑誌やウェブメディアに寄稿したり本を出されたりしている著者の話を聴いたのは面白かったことを覚えている。
当時の僕からするとライターとして何歩も前に進んでいる人だと思っていた著者だが、本書を読むとそれがギリギリのいろいろな何がしかとの戦いの上で保たれていたのが感慨深い。
さらに著者はその戦いに負けている。戦っていたのはライターとして生きていくプレッシャーや自分の理想のようなものだとは見受けるが、著者の場合、それはアルコール依存症と私生活の破綻として表面に出てきた。
本書はそうして追い込まれた著者がどうやって立ち直って自分の弱さを受け入れたかを描いた1章「ぼくは強くなれなかった」から始まり、2章「わからないことだらけの世界で生きている」、3章「弱き者たちのパレード」、4章「弱くある贅沢」と著者が日常の中で感じた些細な出来事を古典や現代文学など様々な本を引用しつつ綴ったエッセイとなっている。
一番好きだったのは1章の最後のエッセイ「ぼくは平熱のまま熱狂したい」で、「常に正気でい続けることの狂気」というワードにはとても共感した。
不確実性の海の中に、できうる限りの準備を、当たり前のように済ませてから、飛び込むこと。
近頃、僕が自分を生き抜く上で大事にしていることだ(まだまだ精進が必要だけれども)。1章はそのことをまた別の人生から、別の角度から、捉えて言葉にしてくれていて、だから共感したのだと思う。
そのほか「35歳問題」のことは不勉強ながら初めて知ったし、よく引用される吉田健一については以前読んだ『金沢酒宴』もおもしろかったしもっと読んでみたくなった。