長期休暇の帰り、上田にある本屋未満あらため「本と茶 NABO」に池上さんを訪ねに行ったときに買う。小川洋子とクラフト・エヴィング商會のコラボとか間違いないでしょう!
今回のは『ないもの、あります』の流れに沿うもので、小説と関連するものについて発注者(小川洋子の文章によるもの)と受注者(クラフト・エヴィング商會)が「注文書」「納品書」「受領書」の体でやり取りをするものとなっている。
いつものように、こう、上質な空想、とでも表現したくなるようなファンタジーと現実の境目みたいな世界を綴ってくれていて、その浮遊感が堪らなく好きで、いつの間に固くなっていた心の中の柔らかい毛玉みたいな部分をふさふさに戻してくれるのだ。表現も本当に素敵で、気取っていない、すっと染み込んでくる感じが素晴らしい。
"サリンジャーの作品は何度読み返しても飽きることはありません。私共ら五十年間、手の中にある限られた数の宝石を、ずっと磨き続けてまいりました。"
p.58
"もしも私の治療院が弟子丸さんにとって、神経を静め英気を養うための、渡り鳥の寝床のような場所であったとしたら、指圧師としてこれほど光栄なことはありません。"
p.136
そのほかたくさんあるのだけれど、本人にとっての素晴らしい瞬間や体験や栄光をこうもうまく表現できるのだなあ、と嬉しくなってしまうのである。
嬉しくなってしまうと言えば解説が平松洋子さんなのだけれど、いきなりベラスケスの話から始めるとかこちらも流石過ぎるなあとこんな文章を書いてみたいよなあと思わせてくれる。
本編も両著者の対談も解説も、そしていつもながらの装幀も、文章を読む喜びを味あわせてくれる一冊なのであった。