僕にとって司会や文章面での師匠といえばこの方、河尻亨一さんである。本屋B&Bの働くキュレーターLABというゼミがキッカケなのだけれどもその後もイベントをご一緒させていただいたり、主催の読書会に参加したり、年一回のカンヌライオンズ勉強会のお手伝いをしたりと、お付き合いさせていただいた。
(コロナ禍もあり最近はお会いする機会がなく寂しい)
河尻さんは広告、僕は本屋と、まったく違う分野であり、一見すると「書く」ということ以外に共通点がないように見えるが、僕としてはひとつ、恐れ多いが勝手に共通していると思っていることがあってそれは仕事に対する態度である。
それはつまり、どう生き抜くかサバイブするか? ということだ。
インターネットをはじめとした技術革新、世界の移り変わりの中で広告クリエイターがどうサバイブできるか? が河尻さんの仕事のテーマのように思っていて、その河尻さんが何年も取り組んでいた本が出るというのなら、取り扱わないわけにはいかない! ということで、BOOKSHOP TRAVELLER で取り扱ったのだが、本の分厚さもあり僕が読むのには時間がかかってしまった。
(東京都現代美術館の展示は事前に観に行った。)
覚悟して長期休暇中に読んだわけなのだが、これが読みやすくて一気に読み終えてしまったのだった。
内容はというと、東京都現代美術館の展示をさらに詳しくしたものなのだけれども、やはりインタビューの名手だけあって取材相手の言葉が効果的に挿入されていて、それが文章に説得力を持たせている。付箋を付け忘れたので何ページが分からないがどこかに"主観と客観の間でうまく書き表すために"みたいなことが書いてあってそのバランス感がさすがのひとことなのである。
それに、広告のことを良く知らない僕でも知っている『花椿』の資生堂のことや、パルコのことなど1950-1970くらいの日本のデザイン業界のことも読んでいてなんとなく分かるのも面白い。戦後から現代にかけてのカルチャー全般に興味があるいまの僕としてはそういう意味でも面白く。
そして、何より河尻さんの言うサバイブは石岡瑛子から来ていると、本人から聞いたような気もするが、なんにせよその内訳が書かれているというところでも胸熱な一冊であった。
石岡瑛子のような天才ではまったくない僕だけれども、フリーランスとしてこれからどうするか? を考える上でも、「こうはなれない」なのか「こうなりたい!」なのかどう思うかで、指針のようにもなり得る一冊だと思った。
ちなみに僕自身は「こうはなれない」の方かな、と思っている。というか誰かみたいになりたいとか思ったことないし。
そうだ、最後に五里霧中なので今後の調査の参考になるようなワードや人物を列挙しておく。
- 1955年の日本橋高島屋での展覧会 グラフィック'55
- 伊藤憲治
- 大橋正
- 亀倉雄策
- 河野鷹思
- 原弘
- 山城隆一
- 早川良雄
- ライトパブリシティ
- 浅葉克己
- 桑沢デザイン研究所
- 1960年5月開催 世界デザイン会議
- ソール・バス
- ミューラー・ブロックマン
- ハーバード・バイヤー
- 資生堂書体は小村雪岱
- 横須賀功光
- 杉山登志
- 三宅一生
- 伊藤隆道
- 1965年のペルソナ展
- 田中一光
- 粟津清 メタボリズムの結成にも関わる
- 片山利弘
- 勝井三雄
- 永井一正
- 木村恒久
- 横尾忠則
- 宇野亜喜良
- 細谷巌
- 福田繁雄
- 中井幸一(アートディレクターを日本に取り入れたひと)
- 秋山晶
- 細江英公
- 寺山修司
- 唐十郎
- 日本アート・シアター・ギルド
- イサム・ノグチ
- 増田通ニ
- 十文字美信
- 長沢岳夫