職業としての“本屋さん”
こんにちは! BOOKSHOP LOVER主催の和氣です!
今週も掲載いたします。根津に来年1月オープンするひるねこBOOKS・店主の小張隆さんによる連載「職業としての“本屋さん”」。
前回は物件探しの話でした。
今回は、一番肝心な「ひるねこBOOKS」さんのコンセプトについて書いてくださっています。
どうぞ〜。
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今回はお店のこと、本屋として考えていることなどを書きたいと思います。
店名は「ひるねこBOOKS」
開店するにあたり、「暮らしのなかのゆたかな時間」をキーワードとして考えました。忙しい日々の暮らしのなかで、ほっと一息つける時間・空間になればと考えたからです。
そのイメージとして、のんびりと昼寝をしている猫の絵が浮かんできました。私自身が猫好きなのはもちろんですが、谷根千の町、そして文学との親和性もあり、猫をつかうことに決めました。憶えていただきやすいよう、ひらがなを使うことも決めていましたので、「ねこのひるね」⇒「ひるねこ」と相成ったわけです。
ロゴについては、知り合いの方にお願いしました。コンセプトを伝えた上で、何度もやり取りし、満足のいくものに仕上がりました。きっとこの猫がいろいろなところで活躍してくれると思います。
私が「ひるねこBOOKS」でしたいと考えていることは、大きく分けると以下の3つです。
1、人と本とのつながりをつくる
いま本を取り巻く環境は厳しさを増しています。ですが、そこで立ち止まるのではなく、これからも本の文化をつなげていくためにできることをしたい。私は他の方と一緒に「本屋さん」を増やしていきたいのです。 場所としての「書店」を含んだ、“本を生業にする人”という意味です。
大型店やネットの伸長にともない、○○屋さんが減っています。だからこそ“本屋”を増やしたい。特別なものではなく「当たり前に職業として本屋を選ぶことができること」。それが目標であり願いです。
どういったやり方ならば、本屋が職業として成り立つのか?
「ひるねこBOOKS」はその実験でもあります。この店は決して私の趣味でもなければ長年の夢でもありません。チャレンジの場所だと考えています。そしてそれが(良くも悪くも)後に続く人の参考になればと思っています。
これまでの出版流通については既に限界が来ていると言われます。今はまさに転換期で、最近では出版社と小さな書店の直取引も当たり前になっています。これは自然な流れですし、これからも進んでいくでしょう。
書店の利益率がもっと改善しなければ、売る場所・売る人が増えなければ、良い作品があっても結局は先細りになってしまうでしょう。このあたりのことについても小さな力になれればと思います。
そして、普段は本を読まない方にとっての“きっかけ”となる店でありたいとも考えています。雑貨を扱うのは、いろいろな方に間口を広げたいからでもあります。人が本と出会うきっかけは、何も本そのものだけにあるのではありません。
ちなみに当店のメイン商品は古書ですが、特に「古本屋」とは名乗っていません。新刊書であっても古書であっても「本」であることに変わりはありません。それぞれの良さがある中で、その配分の問題だと考えています。
現状、個人で書店をオープンする場合には、仕入れや粗利の面で古書の方がハードルも低く現実的です。ただし私は新刊の世界で生きてきましたし、現在の書き手・作り手を応援したいという気持ちから、できる限り新刊の扱いを増やしたいと思っています。
2、人と人とのつながりをつくる
「ひるねこBOOKS」は小さな店ですが、展示やイベントなども行っていきたいと考えています。普段は出会わないような人と人とのつながりをつくりたいからです。この店を通じて多くの人が出会い、そこから新しいものが生まれていくのを楽しみにしています。そして地域の方々とつながる場になれば嬉しいです。
展示やイベントなどをやってみたいという方は、ぜひお声掛けください。
3、平和な社会をつくる
上の2つのことは、このためにあると思っています。どうすれば争いや諍いがなくなるのか。
その答えは一つではありませんし、そんなに簡単なことではありません。私が考えているのは「毎日の暮らしが充実すれば、誰も争いなんかしたくないし、他人に優しくなるだろう」ということです。そしてそれを世界に広げたいのです。とても単純で、笑われるかもしれません。ですが私はそのことを信じています。
『暮らしの手帖』初代編集長の花森安治の、こんな言葉があります。
「戦争に反対するというには、反対する側に、守るに足るものがなくちゃいかんのじゃないか」
私はこの言葉をとても大切に思っています。だからこそ本を通じて、暮らしをゆたかにしたいと考えています。そしてそれができるのは、もしかすると雑貨や一杯のコーヒー、ビールであるかもしれません。
決して本屋だけが特別な場所なのではありません。ですが本屋は大きな可能性をもっていると確信しています。大きな声をあげるのは苦手な私ですが、自分の店でできることをやっていきたいと思っています。
多くの人がつながり、新しいことが生まれる場所。それを増やしていきたいと考えています。
連載最終回となる次回は、開店直前の店内や棚の紹介をする予定です。 (つづく)