さてさて、この連載も三回目です。前回は下北沢の本屋「B&B」でのインターンの話でした。今回は何の話でしょう? 広島で本屋を開く男の話。彼の軌跡を御覧ください。
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怒涛のエキナカ書店
「地元で本屋やろうと思ってます!」
B&B以外でも経験を積みたいと思って臨んだバイト面接。熱意が逆効果なのか年齢のせいなのかなかなか決まりません。三度目の正直でなんとか受かったのが某ターミナル駅構内にあるエキナカ書店でした。
小売店でのバイト経験はほんの数ヶ月。不安を抱えつつ初日を迎えました。挨拶を済ませると、「それじゃあレジ行きましょうか」と言われ早くも緊張度MAXに。それでも指導を受けながらレジ打ちをしていると「時間がないから早くして」とお客さんは明らかにイライラしています。駅の中という立地上、スピードが非常に求められるんです。そして夕方、帰宅ラッシュの時刻になると50坪程度の店内は混みはじめ五台のレジはフル稼働。この状態が閉店時間まで続きます。苦手だったレジ業務もすぐに慣れていきました。
そのほかの主な業務は品出し、本の返品作業、問合わせの対応です。「女性誌」や「文芸書」など売場を担当するようになれば本の発注やフェアの企画を行います。「この本ありますか?」という問い合わせを受けるとパソコンで在庫を検索するのですが「当店に無いのでお取り寄せとなります」ということもしばしば。大抵のお客さんは「それならいいです」と去っていきますがやはり申し訳ない気持ちになります。
段ボール箱の山
働きはじめて驚いたのが毎日届く段ボール箱の山。中身は新刊書で一杯です。出版不況とはいっても毎日多くの本が出版され書店に届きます。そしてエキナカという立地もありとにかく本が売れます。ビジネス街が近いため「政治・経済」や「英会話」など自己投資をする人も多いのですがそれ以上に多いのがコミックやライトノベルを買って帰るサラリーマン。ある日50代ぐらいのダンディな紳士が『俺の妹がこんなに可愛いわけがない』を買っていったときはさすがに衝撃的でした……。また、「本屋大賞」に選ばれた『海賊とよばれた男』は受賞後一年経っても売れ続け本屋大賞の影響力を感じました。
エキナカ書店で得たこと
自分の店と方向性は違いますが出版流通のことや売れ筋について現場で学ぶことができました。また、一日中パソコンに向かっていた以前の仕事とは違い目の前のお客さんとやりとりする楽しさにも気付くことができました。もちろん嫌なこともありますが、「ありがとう」と言ってもらえると嬉しくなり元気が出ます。
B&Bとエキナカ書店での修業も半年を過ぎた頃「こんなのあるよ」と友人に教えてもらったのが本屋開業についての講座、その名も「いつか自分だけの本屋を持つのもいい」でした。(つづく)