オープンから2週間。当初の不安をよそに「Facebookページを見て」とか「(近くのお店においてもらった)DMを見て」という方、shunshunさんの展示や口コミをきっかけに知ってくれた方、友人知人を含め、途切れることなくお客さんが来てくれていた。
B&Bでお世話になった内沼さんが駆けつけてくれて店内で初めてのトークイベントを開催したり、地元テレビ局の情報番組に取材されたり。平日午前のローカル番組は主婦層を中心に効果は絶大で、その後もお客さんは途絶えなかった。
店だけではなく自分自身にもスポットライトが当たっているような気分で、注目されているんだと高揚していた。その一方で、本の売れ行きは少しずつ下がっていたが、大して気にしていなかった。その頃は広島がどんな街なのか、ほとんど何も知らなかった。
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写真集やアートブックを取り扱っていきたいという想いは理想として抱いていて、デザインや美術に興味のある学生のニーズに応えられるような店にしたいと、当初から考えていました。ですがオープンしてすぐ気づいたのは、広島市内の大学は中心地になく、郊外に多いということ。芸術学部のある大学から市内までバスでおよそ1時間。その時間と距離のハードルは思いのほか高く、大学生のお客さんは割合として非常に少なめです。また、価格も含め、写真集やアートブックを買ってもらうこと自体の難しさを日々痛感しています。
本が売れないと品揃えも変わらないし、品揃えを増やさないと本も売れません。オンラインショップでの販売はもちろん、SNSで紹介したり、デザイン事務所に持ち込んだり、ブックフェアで動向をチェックしたり、海外仕入れを行ったりと、アートブックに関して言えば、意識的に動いて品揃えの幅も広げてきました。
アートブックにこだわる理由。一つは自分の興味もありますが、リアルに存在する「物体」として、本の魅力を最大限発揮することができるジャンルだと思っているからです。
現在、オーディオブックの需要が増えているなか、もしかすると将来、活字主体の本は「読む」ものから「聞く」ものへと置き換わるのではないかと思っています。それはタイムパフォーマンスという考え方だけではありません。ヒトの成長過程からみても、文字を学習して読解するより、耳で聞いて理解する方が早く身に付く能力であり、朗読を聞くという体験は、本能的な部分で活字を読むより心地よいのではないか。もちろん朗読に不向きのジャンルもありますが、AIの技術革新も手伝って、オーディオブックは電子書籍以上に一般普及するデジタル商品になるのではと考えています。
時代を問わず、リアルな本にしかできないこと。その可能性と奥深い魅力を教えてくれたのが、作家自らが手がける手製本のアートブックでした。オープンして約1ヶ月経ったころ、ふらりとお店に立ち寄ってくれたのは、アーティストの立花文穂さんでした。広島出身の立花さんはREADAN DEATから徒歩数分の場所に作業場を構え、東京から月1ぐらいのペースで帰ってきていて、近所のお店に置いてもらったショップカードをきっかけに来店してくれました。立花さんのお仕事は雑誌や装丁で見ていたので、ただただ嬉しかったのですが、後に店内のギャラリースペースで展示してもらう機会をいただきました。
立花さんが手がける自身の作品集は、製本所を営んでいたお父さんの製本機械を使用し、一冊ずつ手作業で制作されています。本のサイズや紙の種類だけでなく、コンセプトに合わせて綴じ方や印刷も変え、時間をかけて作られる一冊の本。作家の表現と本というフォーマットが密接な関係を持っています。
本に触れ、重みを感じ、ページをめくるということは、ひとつの作品を体験すること。限られた部数の本を物として所有するコレクター的な喜びも味わえますが、それ以上に、作家の思いが注ぎ込まれた本の存在そのものに、敬意と愛情を感じることができます。そんな体験を与えてくれるアートブックは、商品としてだけでなく、この先の時代にも、国境も軽々と超えて求められ続けるものだと信じています。
理想像として抱くのは気軽さと奥深さのある品揃え。新刊をチェックしにフラりと立ち寄ってもらう人にも、個性的なアートブックを求めている人にも響く棚作りを追い求めていきたいです。