前編では店についてや北海道の古本屋事情を店主の話と資料から書いてきました。後編では店主についてや今回買った本について書いていきます。以下、本文です。
店主との話は続く……ここ札幌の地でも反町茂雄の話を聞くことが出来ました。医者を紹介した話などなど……自宅に戻って手元の資料を確認。すると『弘文荘 反町茂雄の人と仕事』(反町茂雄の追悼文集)に店主の名前が載っていることを確認。また、同書にて旭川の古書の店尚古堂店主が弘南堂店主の紹介で自宅に伺った旨の記載があることや、一定程度の交流関係があっただろうと推測できます。
札幌にて反町茂雄ら(おそらく文車の会の面々か?)を交えた交換会が開かれた際にも店主へ速達が届いているので、間違いないかと思います。反町茂雄のような人はもう二度と出てこないだろう、という話をしてもらったことを思い出します。ここまで交流があるのはなぜなのか。どうやら店主の父(南陽堂初代 高木庄蔵)宛に反町茂雄から手紙が度々来ていたとのこと。
『北の文庫 第71号』の「古書専門弘南堂書店高木庄治氏聞き書き」(以降『聞き書き』と記載)を確認すると、店主の父はどうやら「巌南堂西塚氏の紹介で反町さんと知り合った」ようです。以後手紙のやり取りが続いていたそうです。
ここの「巌南堂西塚氏」は巌南堂書店創業者の西塚定一でしょう(『紙魚の昔がたり 昭和篇』には記載なし)。「巌南堂」という店の名前を見ればわかると思いますが、巌松堂書店で修行し、独立したのが巌南堂です。店主の父と反町茂雄について、『聞き書き』では「私の親父は反町さんとかなり親しかったんです」とのこと。
さて、店主の話を思い出しながらふと疑問に思ったことがあります。「店主は神田で修行していたのか?」という疑問が。
ABAJ(日本古書籍商協会)の弘南堂を見ると、「高校卒業と同時に東京・神田の八木書店にて見習い修行」とあります。ここ以外にも、『弘文荘 反町茂雄の人と仕事』の中に「卒業後の修行先として父の友人"八木敏夫"さんあてへの面接、紹介状を私に持たせてくれた」という記述があります。
もう少し情報がほしいため、『聞き書き』を見てみます。そこにはたしかに八木書店での修行について記載がありました。また。修学旅行時に持っていった手紙の返事は八木福次郎が書いたとのこと。修行期間は1年。1952(昭和27)年4月~1953(昭和28)年3月まで。『紙魚の昔がたり 昭和篇』も参照すると、ちょうどこの頃は松坂屋の古書部最後の頃でした。店主は特価本仕入部の方にいたようです(『聞き書き』より)。
松坂屋古書部の閉鎖は店主の修行終了の時期と重なるのですが、店主がいた特価本仕入部は果たして同じ時期に終了したのか、それとももう少しあったのかは手元の資料からははっきりわかりません……。八木書店以外にも巌南堂にも手紙を出していたようですが、「たった一年くらいでは使い頃になったらいなくなるんでね、いやだったのでしょう、きっと」と書いてあったことから断られたのでしょう。
店主から自分に対して「将来的に本屋をやってみたいのか?」と質問されました。正直なところ、出版史(本屋・流通メイン)を専門としてやってみたいところです。色々回っていると踏ん切りがつかないのですが……そんな中「とにかく挑戦することが大事」とアドバイスをいただけたのは非常に嬉しい限りです。
今回買った本は、『田舎店主折ふしの記』、『北海道立図書館40年史』、『古本えぞの細道』の3冊。今回はかなりすごいものを掘り当てた感じがします。『田舎店主折ふしの記』の著者は能勢潔、多田屋に関する本です。自分はこの本を知らなかったので、まさかここで出会えるとは、という本でした。また、『北海道立図書館40年史』は、せっかく北海道に行ったので、何かご当地の本がほしい、というきっかけで購入。
ご当地の本なら北方関連資料を買うのがいいかもしれないですが、たまたま図書館に関する本を見かけたので……これに関連して店主の母が北海道庁立図書館の職員第一号だった、という話もしていただけました(こちらの話は『弘文荘 反町茂雄の人と仕事』に記載を確認済)。
『古本えぞの細道』も本当にたまたま見つけた書籍です。この本は250部しか出回っていないもののため、ここで見つけなければおそらく数年単位で見つけることができないであろう1冊でした。
また今回は目録をいただきました。今回もらったのは62号。調べてみると第1号は1958年の発刊とのこと。目録ついでに『組合史』を読んでいると一時的に目録作成を休止していた時期があったようです。その際反町茂雄に言葉をかけられ、ハッとして目録を再開した、という話がありました。弘南堂と反町茂雄、やはりかなり深い関係にありますね。ちなみにここの包装紙にはヤンソンの日本地図が描かれています。書皮集めをしている方にもいいかもしれません。
※資料として取り寄せた「古書専門弘南堂書店高木庄治氏聞き書き」ですが、『日本古書通信』に「札幌・一古書店主の歩み 弘南堂書店 高木庄治氏 聞き書き」として再録されています。ただし、2年近くかけて再録するとのことなので今回は原資料の方を使用しております。