ジュンク堂池袋本店で平積みになっていたので買ってみた。こういう衝動買いは珍しいのだけれどタイトルが良いのもあってなんとなく手が伸びたのだった。
それで読んでみたらこれがまた思いの外良くて、何が良いかって文章指南術的な本についてはあまり読みたくないと思っているのだけれどそれは読んでいてあまり真似したくない文章だよなあと当のその指南本を読んでいて感じることが多いからであって、本書についてはそれがまったくなくて、というか真似したい、この近藤康太郎さんのような文章を書けるものなら書いてみたいと思わせるものだったのだ。
ライター、といっても専門ライターだけれども、まあともかく物書きの端くれとして読んで損はなかったと思うのである。
逆にそれくらい良いとこういう場所に感想を書くのが難しく、ずいぶん読んでからこの文章を書くまでに時間が空いてしまった。
ので、読んでいた当時の感覚は正直覚えていないのだがドッグイヤーと付箋がたくさん付いているので覚書として以下に抜書きしておく。
p.82
転② 東西に広げるーー全集を武器にする
起承転結の転にこそライターの腕が現れるのだ、ということでその技術指南のその②である。文中で読者の「世界に揺さぶりをかける」ために①として時間軸を使い、②のここでは空間軸を使うという。具体的には全集を使う。柳田國男、南方熊楠、折口信雄、岩波書店版の漱石全集、さらに余裕があれば明治文学全集(筑摩書房)が良いとのこと。
4/20にオンラインイベントで宮崎智之さんと話したけれども、他の文章も読んでいて思ったのは、文章を書く時に引く元ネタの量が圧倒的に多いこと。今回のイベントでは万葉集や吉田健一など日本文学の知識があることが分かったがおそらくカルチャー全般に強そうなので、やはり一も二もなく読書量を増やそうと思ったのだった。本書で紹介された本も読もう。少なくとも買おう。
p.90
起承転結の結の話。考え抜かれた転によって結びが導かれるとのこと。いま書いている原稿でもこれはあらためて思い知った。簡単に言うと失敗したのだがまだまだ勉強不足である。
p.98 要約
エピソードを書くときに大切なことは、「見て、そして、正確に書くこと」だという。常套句も擬態語も使わず、見たまま感じたままを書くこと。ということは、取材時は語彙力と感覚を研ぎ澄まさねばいけないということで考えてみれば当たり前のことだけれどそれがまた難しいのだから仕方ない。
p.109 要約
ライターの心得としてのトレーニング。ひとつめは完成の力を高めるトレーニングだとのこと。無理して、努力して、おもしろがるのが大事だというがこれはあれだな量が必要だということで僕にとってはイコール体力が必要ということで、体力づくり、というか回復力づくりだな。
p.116 要約
取材を依頼するときの文章について。これ、僕はとても苦手なのでどうにかしたいけれども、手紙とか手書きとか苦手なんだよなあ。や、やりたいことなんだから苦手苦手言っていても始まらないけども。少なくともメールくらいはしっかりした依頼文が書けるようになりたいな。
p.132 引用
"世界の万人が理解し、感動し、牢記するべき文章を、自分は書いている。書くつもりだ。また、そうした確信がなければ、なぜ文章など書くのか。"
文章に対してじゃないけれど自分の活動については割と本気で思っている。別に声高には言わないけれど。この社会に絶対に必要なことだと確信はしている。世界の方がどう思っているかは知らないけれど。
p.150 要約
好きな作家を見つけて、その作品を全て読み繰り返し読み、憑依されるくらいまで読む。で真似する。失敗する。その繰り返しで語彙は増えていくという。僕にはここまでのことを思う人は見当たらないし文章そのものにそこまでのめり込めない。これは性格の問題なのかな。それでも何か増やす方法論を自分なりの手練手管を見つけないと。
p.154 要約
「なになに的」を使わない方が良いという話。まったくもってその通りすぎる。とりあえず「独立系書店」の〜系というのは使わないようにしている。でもまだまだ「〜的」は使っちゃってるな。
p.161 要約
一年ぐらいでいいから主義を変えると文体の練習になるという。いままでスルーしたものばかり読んだり観たり聴いたりする。たしかに集中してやると分かることは多そう。文章がいろいろなものをリミックスして伝える行為だとしたらその通りだ。
p.178 要約
企画作りについて。最低で5紙の新聞の読書面を毎週隅から隅まで読むこと。それとひとつかふたつの本屋を定点観測すること。これをすると良いってその通りだよなあどうやってやろうかという話である。特に新聞。契約は正直しんどいしな。いまならネットかー。まあーうんーどうしようかな。
p.184 要約
p.178で気になった本を図書館で借りて、書評で気になった部分を探して前後数ページを読み、必要であればコピー。自分の企画ファイルに保存すると良いみたい。さらに本自体が必要なら買う。うん、アイデアと知識の構造化をするための前準備ってやつですな。大事。うん。大事だけれど、、この時間を捻出しないとな。時間泥棒に負けてるぜえ。
p.188 要約
ナラティブ。語り口の話。とても僕は下手、というか物語を摂取したときにそれのどこが面白くてどう感じたかを伝えるのがまだまだ苦手というか。出来事とか体験であればそれを伝えるのは得意と言って良いと思うのだけれども、物語はどうも苦手。長らく男らしさの呪縛の支配下にいたせいだとは思うのだけれども。それとも摂取量が少ないせいかなあ。そういえば以前、同年代の取材相手に落語を聴けって言われたことがあるけれどそういことかw 練習しよう。
p.23 要約
推敲の話。紙に印刷して、音読して、ながめて、整える。これも基本よね。でも、やっていたりやっていなかったり。なんかそういうのができる時間管理の話な気がしてきた。
p.248 要約
原稿を書く時間と場所を決めること。創作の女神に自分の居所を通知しているのだという。脳みそは同じことが好きと聞くし創作以外のことをなるべくルーティン化した方が良いというのは理にかなっているよな。僕ならもう少し早起きして午前中かなあ。
p.252 要約
毎日2時間読めってさ。マジか。いやしかし、文章の仕事しているんだもん、それはしないとだよな。1時間は課題図書で日本文学か海外文学の古典、社会科学・自然科学も古いものから、詩集を15分ずつ読み、あとの1時間は自由に読むと良いとある。うーん、どこで時間を見つけるか。基本的に日常生活にルールを決めるのが苦手なんだよなあ。むむむむむむ。
古典リストは『必読書150』(太田出版)、『科学的、あまりに私学的な』(ひつじ書房)の巻末リスト、京都大学文学部「西洋文学この百冊」のサイト、桑原武夫『文学入門』(岩波新書)の巻末リストだそうだ。
p.266 要約
抜き書き帳が一番大事という話。摂取した情報を体系化して肉体化する作業である。本に線を引いて、特に重要な場所はドッグイヤー、1ヶ月くらい置いて再読しそれでも良ければ抜き書きする。忘れっぽい僕には難しいがだからこそ大事なことだよなあ。
p.288
自分の力ではないものに勝手に書かされていると感じるくらいの書くことの肉体化が大事という話。考えてから書くのではなく書いてみて考えていることを発見する順番。これはすごく納得感がある。そういえば蓮沼執太が『Earphone & Headphone in my head』の歌詞で"まだ知らないイメージ話してみる"と書いているがこの感覚だよね。話していうちに思い付いたり自分の感じていることがわかっていく感覚。
p.295から 要約
言葉では決して埋め合わせられない感情を人は言葉にしてきたし歌ってきた。言葉にすれば感情から距離を置けるから。臨床心理学でも言語化はとても大事なことだと学んだことがあるしその通りだよなあ。それにしても"だから、悲しみがやってきたら、急いでうたわなければならない。悲しみは、そう長続きしない感情だから。"ってカッコ良い。
p.300 抜粋と感想と
"短い一生を賭して挑む、われとわが身を〈企投〉する営みとして、書く。"
文書に対しては思わないけれど話す言葉や自分の事業(というほど大きなことではないけれど)に対しては思う。完全な、あるいは往々にして不完全な準備をして不確実な事象に自分を賭けること。と書くと大それて見えるけど個人事業主や経営者はみんなおんなじようなことを思っているんじゃないかな。
ここまで書いていて思った。全然だ。自分は全然だ。これからやらなきゃいけないことを思うと気が遠くなるような気がするけれど同時にずっとやることがあるというのは楽しいことに違いないとも思う。
どうしようもなくマイペースな僕だけれどもカタツムリみたいに少しでもヌルヌルと進んでいきたい。