『独学大全』の読書猿さんが執筆陣にいるということだし内容も今の悩みにピッタリだしで即購入(したし店でも仕入れた)。
というのも、実は僕はひとつの物事についてがっつり書いたことがそんなにないのである。本は何冊か出しているし新聞連載もしたことがあるが、大体は本屋の紹介なので一店につき80w〜1500wくらいが最大で、あとはまあこのブログに書いているのが何千字か時々いっているのと、学生時代の卒論やレポートくらいである。
そんな僕であるが、この春から夏にかけてブログでも紹介している通り『本の雑誌』や『ひとり出版社という働き方 増補改訂版』で2000w〜4000w程度の文章を書くことができた。
専門分野であるとはいえ自分の意見を紙媒体に書くのは初めてだったので緊張したがなんとか脱稿し、本の雑誌の「独立書店年表」では好評を賜ることができた。
しかしである。今後、「独立書店考」的な文章を書いていきたい自分としては、もっと長い、一万字くらいの文章を書けるようになっていきたい。そこで本書、というわけである。
冒頭の読書猿さんの他に、千葉雅也さんや山内朋樹さん、瀬下翔太さんなどによる座談会「挫折と苦しみの執筆論」とその成果を受けて実践したそれぞれの原稿、そして原稿を読み終えた後に再度開かれた座談会「快方と解放への執筆論」で構成されている。
途中に出てくるが、世の執筆論が既に書ける人がより研磨するためのものばかりであるのに対して、本書は「書けない人のための方法論」が書かれているのが素晴らしく(ってタイトル通りだから当たり前なのだけれど)、書くこと自体が苦じゃない僕のような人間でも参考になることばかりだった。
この感覚、借金玉さんの『発達障害の僕が「食える人」に変わった すごい仕事術』や『発達障害サバイバルガイド――「あたりまえ」がやれない僕らがどうにか生きていくコツ47』を読んだ時の感覚に近くて、どういうことかというと、忙しかったり疲れたり、さらにいえば新しいことに取り組んでいるときって普段できていないことが出来なくなってしまいがちで、そういうときの防波堤として役立つということである。
と書きつつも、ここに出てくる作家の方々は当然僕なんかよりアウトプットの量も質も多いので、むしろ本書に一貫している「書かないで書く」とか「書こうと思わないで書く」とか「クリエイティブを自動化する」とかの真髄みたいなことをもっと身体化していかないといけないなーということでもある。
つまり、僕はもしかしたら「書けない悩みのための執筆論」の入門はクリアしているかもしれないけれど、まだまだ先は長く、先程書いたことはまあ少しイキってしまったな、ということである。
とりあえず書けることと、ちゃんと読んでもらえる文章を書けるかどうかは別であり、意識的に書かないとちゃんと書けない場合と意識しない方が上手く場合はそれはもう自分が居る段階が違うのであり、自分はまだまだ意識的に書かないといけない部分が多いよなとあらためて思うのだった。
というわけで、長文は本当にまだまだなので、まずはWorkFlowlyでも入れて書いてみたいことのメモを貯めていくことから始めようかな。いまはSimplenoteを使っているけど、アイデアの倉庫としては少し使いにくいしな。
その他、本文中から気になったところを。
紹介されている『アウトライナー実践入門』。読もう。
"中毒というか依存によって書く"
山内朋樹さんの発言 p.62
(これだなあ)
"ハイデガーの死への存在というのは、あれは結局人間は常に死という有限性を意識するって、要するに〆切ってことなんじゃないかって解釈したんですよ。"
千葉雅也さんの発言 p.86
そう言われると説得力あるな。
"ヒトとしての成熟が、「自分はきっと何者かになれるはず」と無根拠に信じていなければやってられない思春期を抜け出し、「自分は確かに何者にもなれないのだ」という事実を受け入れるところからはじまるように(地に足のついた努力はここから始まる)、書き手として立つことは、「自分はいつかすばらしい何かを書く(書ける)はず」という妄執から覚め、「これはまったく満足のいくものではないが、私は今ここでこの文章を最後まで書くのだ」と引き受けることから始まる。"
p.137
(読書猿さんの文章は本当に素晴らしいと思うのだよなあ。僕は同じことを「絶望を知る」みたいな簡単な言葉にしてしまう。文章に起こす解像度と語彙が足りないのだきっと。)
"いまマナー講師ってえりもしない規範をつくってお金を稼いでいると批判されてますけど、文章のマナー本って基本的に「●●してはいけない」というべからず集なんですよ。正しい「文章」があるものとして、それを規範の形で説明するもの。でも、その規範に則ったものだけが文章ではないはずなんです。いろんな書き方や文章がある"
p.247
(マナーと名のつくものは須く好きではないのだけれど、だから文章術系の本って苦手なのだと我が意を得たのだった。)