本書は「愛書家」「書痴」「書狂」いわゆる「ビブリオマニア」たちの織りなす奇譚集である。いち本好き、本屋好きとして気になって買ったのであるが、本書を読むと自分がそう自称していたことが恥ずかしくなってくる。
もちろんフィクションではあるが本書を読んでいると納得させられることが非常に多く、「自分はここまでできないな」と思ってしまうのである。
「せどり」とは「古書店等で安く売っている本を買い、他の古書店等に高く売って利ざやを稼ぐ(転売)」こと、またはそれをする人を指す。本書の舞台は昭和初期に「せどり男爵」として業界で名を馳せたと言われる笠井菊哉氏の話である。
笠井氏が、本書の主人公である作家に「せどり男爵」として活動していた頃の話を語るという形で話は進む。第一話から第六話まで、それぞれ一つのお話を笠井氏がされるのである。目次を挙げよう。
- 第一話 色模様一気通貫
- 第二話 半狂乱三色同順
- 第三話 春朧夜嶺上開花
- 第四話 桜満開十三不塔
- 第五話 五月晴九連宝燈
- 第六話 水無月十三幺九(十三幺九の「幺」という字は正しくは「公」の左上のちょんが無い字です)。
ご覧の通り、麻雀の訳名が必ず付いていて、後の話になるほど難しい役になっている(ちなみに十三幺九とは国士無双の別名らしい)。話の内容も、笠井氏が「なぜ「せどり男爵」と呼ばれるようになったのか」から「古書残っていた蔵書票から宝探しをする話」、「装丁に取り憑かれた男の話」など話が進むほどにディープにマニアックな話になっていく。
特に第五話の「ビブリオクレプト(書盗)の話」や第六話の「装丁に取り憑かれた男の話」などは幻想文学の様相さえ呈してきてドキッとする。その他、古書の情報本としても本書は重宝できる。
「ワ印」や「浮世絵の真贋の見極め方」、「ふらんす物語」、「シェークスピアの初版本「フォリオ」」、「キリシタン版」、「人皮装丁本」などなどなど。知らないことばかりである。僕は「本の本」が好きなので、割とよく読む方だとは思うが、まだまだ知らないことばかりであるということを思い知らせてくれる本であった。