前回の八勝堂に続いて今回も池袋の古本屋である。池袋の古本屋は少ないがアツい! まだ2店しか行っていないのにそんな考えが頭をよぎる程、2店目であるこの店もスゴイ。本屋探訪記第62弾は南池袋にある古本屋「古書 往来座」だ。
まとめ
時間のない方のためにまとめです。
- 品揃え:文芸からアート、暮らしなど幅広い品揃え。
- 雰囲気:クラシックな古書店ながらも入りやすい開かれた雰囲気。
- 立地:池袋駅より徒歩10分ほど。ジュンク堂池袋本店を超えてさらに南に行くと左手に見える。
電話・FAX 03-5951-3939
ouraiza■kosho.ne.jp (■を@に変えてください)
営業時間:12:00頃~22:00 日曜日 12:00頃~20:00 水曜日 定休
URL:http://www.kosho.ne.jp/~ouraiza/
blog:http://ouraiza.exblog.jp/
Twitter:https://twitter.com/ouraiza
駅から遠いよ往来座
そう往来座は駅から遠い。どれくらい遠いかというとジュンク堂池袋本店からさらに南側に歩いていき、そろそろお店が少なくなってきたなと思った頃にようやく着く。知っている人と地元の人でなければわざわざ来ないような立地である。
そこに「往来座」という名前を掲げているのだ。往来と言えばぼくが思いつくのは『人の往来』だ。駅前によくあるような人混みのイメージである。しかし、ここにそんな人混みはない。では店主が考える往来とはどういうものか。気になった。昼食を食べ忘れるくらいには気になった。
どんな本屋さんなんだろう。どんな『往来』がそこにあるんだろう。そう考えながら歩いていると既にそこは店舗の前だ。取材を始めよう。
レイアウト
まずは大まかなレイアウトを述べていく。
往来座には外側にある本棚が多い。買いやすい雰囲気を出すためだろうか。曲がり角にあるこの店の外側はほぼ全て本棚である。もちろん特価本ばかりだ。少し奥まった入口の前には黒板がありおすすめ本が書いてあるのも面白い。
中に入るとクラシックな古書店の雰囲気に驚く。前情報で若い店主だということは聞いていたのでもっと雑貨や食品も売るようないわゆる『イマドキの若者が開く本屋さん』ではないのだ。
広さはというと10畳くらいで広い。棚は中央に4本ともちろんレジ以外の壁沿い全てだ。形は右辺が垂直になった台形。入り口が左斜辺と長辺の交差角にある。レジカウンターはちょうど左斜辺の奥にある。
BGMはアコギの良い雰囲気のインストだ。音量も大きくなく本を読むのにちょうどよい。持ち込みのお客さんなどと店主が話している声が良く聞こえた。
店舗周囲の本棚
では、いったん外に出て店舗外の本棚を見ていこう。先に書いたように値段はほとんどが100円でそうでないとしても300円とか500円とかとにかく特価である。外の本棚は入り口を中心に向かって左側と右側に分かれるので、まず左側から見ていこう。
はじめにあるのが、文庫・新書の100円均一だ。司馬遼太郎『城塞』や松本清張、山崎豊子『運命の人』など分かりやすい有名どころが並んでいる。そこが3本ほどで、次に2本分、単行本の100円均一がある。『近現代史の真実は何か』や『歴史の黒白』、『キャサリン・ヘプバーン』、『探検家になるには』など掘り出し物があるだろうかちょっと面白い本棚だ。
次が、雑誌の特価本コーナーで『版画藝術』、『ハナコ』、『装苑』、『東京人』、『考える人』、『ダヴィンチ解体全書』、『芸術新潮』、『レコード・コレクターズ』など。なかなかの品揃え。
ここで入口前に至る。入り口前にも4,5本の小さな本棚がある。単行本の特価が多数で雑誌や絵本、マンガもある雑多なコーナーだ。『坂の上の雲』単行本セットや『代表作 時代小説』がたくさん、平岩弓枝、図録もの、小林信彦、吉行淳之介、江藤淳、『幼児民話絵本』全32巻揃い、『バキ』、『キャッツアイ』セット、『バナナフィッシュ』セット、『風のくすくす笑いのお話』などなどなど。八勝堂もそうだが、セット本が特価コーナーに置かれているのはニクイ演出だと思う。良い客引きなのだ。しかも、入口横には黒板もあり太田清『たくあん抄』の宣伝文句が書かれている。店舗に入れる気満々である。
さて、回り込んで右側にはまたもや文庫・新書の100円均一コーナーだ。こちら側にも置くのは大通り沿いではなく横道から来る人にはこちらが顔となるからだろう。並んでいたのは北杜夫や『秘本 三国志』6巻セット、『二都物語』、『サイエンスナウ』、ハヤカワSF文庫、『失われし書庫』、中公新書、岩波新書、講談社現代新書の古い方などだ。
フライヤーとジンとコミック
店内に入ると正面に東京出身の作家の本ばかりが置かれている。夏目漱石や永井荷風がメインだ。そのほかにぼくは知らない方だが矢島勝昭作のリーフレット『豊島区の鎌倉街道をたどる』がある。いわゆるミニコミだろうか。なんとなくブラタモリを彷彿とさせるタイトルである。さらに、足元には小箱の中に古いマッチがバラ売りされている。こういう紙モノはファンがいると聞いたことがある。真正面に持ってくるのは当然だろう。
しかし、この真正面の列はあえてスルーしていつも通り左回りで回っていくことにしようと左を向くと入口すぐ脇にフライヤーが多い。どうやら両脇がフライヤー置き場になっているようなのだ。聞いたこともない店やら劇のフライヤー。こういうものが店の立ち位置を何となく推測させることがある。つまり、この店はクラシックな装いでありながら若い人が良く来る店でもあるのだ。そうでなければフライヤーを置く意味もないというものだ。その証拠にすぐ隣にジンや小冊子が置かれている。『季刊マンガ史研究』や『耽美文藝誌薔薇窓』、『雲遊天下』、『オルフェの女』、『hb paper』、さらには有名フリーペーパーであり北九州市の広報誌である『雲のうえ』、『界遊』まで置いてある。尖がってます。尖がってますよ! 奥さん!
このジン・小冊子棚(幅にして20cmほど)の隣は奥にちょっと凹んでおり壁棚一面がマンガコーナーである。『この流れはまさか』と思ったが予想通りサブカル系漫画ばかりである。『漂流教室』の5巻セットや『初期のURASAWA』、『屍鬼』11巻セット、『アドフルに告ぐ』など手塚治虫、『未来ケンジくん』セット、『ギャグゲリラ大全集』など。そう言えば藤崎竜の『屍鬼』はまだ読んでいなかったなあと思いだした。
レジ回りに積まれた本の山と池袋モンパルナス
レジ回りにはおそらく店主が作業するものであろう本が積まれており、脇には『池袋モンパルナス関連の本』でまとめられていた。池袋モンパルナス。初めて聞く言葉である。何なのか。調べてみた。
池袋モンパルナス(いけぶくろモンパルナス)とは、大正の終わり頃から第二次世界大戦の終戦頃にかけて、東京都豊島区西池袋、椎名町、千早町、長崎、南長崎、要町周辺にいくつものアトリエ村(貸し住居付きアトリエ群)が存在し、多くの芸術家が暮らし芸術活動の拠点としていた地域の呼称。また、この地域に暮らした画家、音楽家、詩人などさまざまな種類の芸術家が行った芸術活動および熱く語った文化全体もさす。 ~wikipedia 池袋モンパルナスより~
wikipedia先生、ありがとうございます。なるほど。池袋周辺にそのような芸術的ゆかりがあったとは初耳である。もうちょっとこのワードで盛り上げても良い様な気もするがどうだろうか。いちおう豊島区で「芸術家の軌跡を辿る。池袋モンパルナスコース」なるものが散歩コースとして提唱されているが、果たしてどれだけの人が知っているのか勿体ない限りである。
- 芸術家の軌跡を辿る。池袋モンパルナスコース
文芸批評と日本文学、詩歌句、古典、海外文学、文庫、新書のある文学コーナー
何とも言えないもったいない感を頭に感じながらレジを通り過ぎ、一番左奥。台形の店舗から言うと上辺もあたる壁棚に至る。このゾーンは2列×2行の棚に遮られてかなり狭い通路となっている。古書店らしい感じだ。これだよこれ。
壁棚にあるのは文芸批評と日本の文学があいうえお順で並べられている。ここにあるのは『あ〜く』までだ。
まず、文芸批評であるが、小林秀雄、佐々木基一、加藤典洋、柄谷行人、加藤周一、『幻影城の時代』、『百年の文学』など。さらに、本の本も混ざって置かれており、『出版現実論』や『日本の出版社』、『大正出版事情』、『日本ペンクラブ五十年史』、『筑摩書房それそれの四十年』、『出版社大全』など。
日本の文学についてはあいうえお順なので目についたもののみを箇条書きにしていこう。なんとあ~わまでで振り返った本棚の裏まで続いている。長いのでこれの記録は骨が折れた。
あ→芥川龍之介、阿部昭、嵐山光三郎、安部公房、伊藤整、五木寛之、井伏鱒二、色川武大、石坂洋次郎、井上光晴、伊藤桂一、宇野浩二、梅崎春生、遠藤周作、江戸川乱歩、尾崎一雄.大江健三郎、大西巨人、大岡昇平、赤瀬川原平など。
か→開高健、笠井潔、川端康成、角田光代、梶井基次郎、川上弘美、北杜夫、串田孫一、貴志祐介など。
く→車谷長吉、黒井千次、耕治人、玄侑宗久、河野多恵子、後藤明生など。
さ→獅子文六、佐藤春夫、佐藤洋二郎、里見淳、島田雅彦、澁澤龍彦など。
す→杉浦明平、住井すえ、須賀敦子などを
た→太宰治、田村恭次郎、高見順、竹西寛子、武田泰淳、種村季弘、高橋源一郎、多和田葉子、高井有一など。
つ→津村節子、辻邦生、辻井喬、出久根達郎など。
な→中島らも、中上健次、中村光夫、永山則夫など。
ぬ→野間宏、野坂昭など。
は→埴谷雄高、萩原葉子、橋本治、東野圭吾など。
ふ→富士正晴、深沢七郎、保坂和志、堀田前衛など。
ま→町田康、丸山健二、舞城王太郎、松本清張、虫明亜呂無、三島由紀夫など。
む→村上春樹、村上龍、本谷由紀子、森鴎外など。
や→安岡章太郎、山口瞳、山田風太郎、横光利一、吉本隆明、吉行淳之介、リービ英雄など。
わ→和田芳恵、和田博など。
詩歌句と古典、文庫
日本文学ここで終わりで、この棚は入口から見て奥の列の奥の行の本棚にあたるのだが、ここには詩歌句と古典がある。2行目(奥)の最後にある。
詩歌句は長田弘、飯島耕一、金田弘、金子光晴、西條八十、高村光太郎、谷川俊太郎、ねじめ正一、田村隆一、鮎川信夫、宮沢賢治、小林一茶などほか個人歌集。
古典は徒然草、平家物語、紫式部などである。
振り返るとそこは文庫コーナーである。入口から見て手前の列の奥の本棚。奥から海外の詩、海外文学が出版社ごとにアイウエオ順に。日本文学はそのままあいうえお順に並んでいる。
まず、海外の詩だが、『唐詩選』や李白、ヴァレリー、ランボーなど少なめである。詩歌に関しては扱いが少ないのだろう。とはいえ詩歌が多い古本屋を知らなかったりすのだが。
海外文学はまず新書やサンリオSFなど珍しい出版社の本が冒頭にある。ディックの『死の迷宮』や『ステンレス・スチール・ラットシリーズ』が6000円で売られていたりする。ここからがアイウエオ順である。
ア→カズオ・イシグロ、ポールオースターなど。
カ→カフカ、ケルアック、コールドウェル、コクトーなど。
サ→サド、スタンダール、ジョイス、スタインベック、ソルジェニーツィンなど。
タ→ダンテ、ディケンズ、コナンドイル、ドストエフスキー、トルストイ、マークトウェインなど。
ハ→バルザック、ハイスミス、バロウズ、『古地図に魅せられた男』、プルースト、ヘッセ、ヘミングウェイなど。
マ→トーマスマン、ミッチェル『風と共に去りぬ』5巻セット1250円、モームなど。
ヤ→『山猫』など少数。
ラ→ローリングズなど少数。
ワ→ワイズマンなど少数。
アイウエオ順の後は創元推理文庫とハヤカワ文庫と続き、それが終わると同時に入口から見て手前の列も終わりだ。
入口から見て一番手前の列のには日本人作家の文庫である。あいうえお順の後に選・編もの、時代歴史小説と続く。
あ→阿川弘之、赤江瀑、井伏鱒二、伊藤整、遠藤周作、大岡昇平、奥田英朗など。
か→開高健、川端康成、梶井基次郎、梶山季之、北杜夫、倉橋由美子、小林恭二など。
さ→坂口安吾、佐々木丸美、志賀直哉、澁澤龍彦、島田雅彦など。
た→谷崎潤一郎、檀一雄、太宰治、武田泰淳、高橋治などを
な→永井龍男、中上健次、中島らもなど。
は→埴谷雄高、橋本治、東野圭吾、星新一、保坂和志など。
ま→丸谷才一、丸山健二、水上勉、宮部みゆき、森鴎外など。
や→山口瞳、山田風太郎、夢野久作、吉行淳之介、吉村昭など。
ら→少数。
わ→渡辺容子ほか少数。
選・編→アンソロジーや傑作選のこと。
時代・歴史小説→池波正太郎、岡本綺堂、司馬遼太郎、陳舜臣、藤沢周平、『銭形平次捕物控』全10巻3800円など。
店舗一番奥の壁棚には歴史と思想哲学、海外文学
さて、これで左奥の壁棚と手前2列の文芸コーナーは見終わった。入口真正面の本棚の横まで来てしまったので店舗の左奥に行くことにする。一番左奥の隅にある壁棚だ。
ここは世界史、日本史、戦記である。
世界史は『スターリン』や『西洋中世の愛と人』格など。
日本史は『都市図の歴史』、平賀源内、山岡鉄舟、『江戸の暮らし』、『明治はいから物語』など。
戦記は山本五十六、『戦争の記憶』、『吉田茂とその時代』など。さらに、大判の歴史本と宗教の本もある。
この左奥隅を見終えて右に視線をずらすと店舗の突き当たりである。台形の店舗のちょうど右辺にあたる場所だ。向かって左から思想哲学、アジア、海外文学がアイウエオ順に並ぶ。
思想哲学は『プラトン全集』、デリダ、雑誌『現代思想』、ネグリ、ニーチェ、ガタリ、ドゥルーズ、雑誌『重力』、『いきの構造』、『戦後日本スタディーズ』、浅田彰、『笑いのエクリチュール』、『老師伝』など西洋から東洋まで幅広い。
アジアは『孔子の空中曲芸』など少数だ。
海外文学はまずアフリカン・アメリカンの文学があり、次にドイツ文学回遊、『スペイン内戦と文学』など文学論となり、そのあとにアイウエオ順の作家となる。
ア→アンデルセン、カズオ・イシグロ、コリン・ウィルソン、ボリス・ヴィアン、オーウェル、オースターなど。
カ→カサノヴァ、カポーティ、ギンズバーグ、ゲーテ、コクトーなど。
サ→サガン、オリヴァーサックス、ジョイスなど。
タ→ツヴァイク、マークトウェインなど。
ナ→ノヴァーリスなど少数。
ハ→バタイユ、バラード、アンドレ・ブルトン、ハックスレイ、ボードレールなど。
マ→アンドレマルローなど。
ラ→ロレンスなも少数。
平台には洋書が置かれているのが意外性もあり良いところだ。
折れ曲がりのアートコーナー
突き当たりの壁棚を終えると台形の長辺の前でいったん折れ曲がる角がある。
ここから、マンレイ、『キャパになれなかったカメラマン、』森山大道、アラーキー、土門拳、篠山紀信、『鈴木理策最新写真集』などの写真コーナーや横尾忠則などの画集があり、その先ににはそのまま『ムンクの時代』、『平山郁夫の真実』、岸田劉生、『美術史の哲学』、『カンディンスキー研究』、アンディウォーホールなどアートコーナーとなる。ここがちょうど台形の形をしたこの店舗の右辺と下辺の交点である。
入口から見て右にある直線 美術から趣味本まで
やっと台形の一番長い辺。下辺まで来た。入口から見ると向かって右側の直線部分にあたる。ここを今来た通り奥から入口に向かって見て行こう。
奥から手前に向かって古本屋では珍しく立て札でジャンル分けがされており、工芸美術、建築・デザイン、陶芸工芸版画ほか、書道茶道華道、趣味健康、暮らし一部の作家、料理、猫の本となっている。以下、箇条書きで挙げていこう。
工芸美術:デザインの未来像やピカソ、デザインの歴史など。
建築・デザイン:紙のフォルム、20世紀ボックスなど。
陶芸・工芸・版画ほか:銅版画ノート、ガラスの手芸など。
書道・茶道・華道:実用細字のすすめや水墨画の流れなど。
工芸美術からここまでが芸術新潮など雑誌も含め大判本である。
ここから先は、単行本や文庫・新書で以下の通り。
趣味・健康:『囲碁の民話学』、『鉄道のわかる本』、『四柱推命学』、『天文不思議集』、『植物図譜集』、『武蔵野の記録』、『京都の不思議事典』、『三丁目の夕日の時代』など。
暮らし:宇野千代や幸田文、森茉莉、カラーブックス、雑誌『染織の美』など。
料理:魯山人、平野レミ、『食育のすすめ』、『料理人誕生』、『美味礼讃』、『おやつストーリー』、『ワイン賛歌』、『ためしてガッテン』ほか料理書多数。
猫の本:『のら猫トラトラ』、『日本ねこ』、『猫と暮らそう』
なぜか猫の本のコーナーの最上段に夏葉社の『冬の本』があったのが面白かった。
入口すぐ右横の絵本と児童書
ここで入口のある辺に突き当る。この入口すぐ右横の棚には絵本と児童書だ。『西遊記』や『鹿よ おれの兄弟よ』、『かわせみのまるたん』などである。奥から手前に向かってライトになっていくこの流れは秀逸と言って良いだろう。きっと子持ちのお母さんが探しやすいように入り口付近に配置されているのだろうな。
入口正面の1列本棚 左側の映画本
入口まで戻ってきたのでようやくはじめに見た正面にある一列の本棚を見て行こう。左側からだ。
ここには映画の本が一面全て使って並べられている。森達也や黒澤明、小津安二郎、淀川長治、インド映画、『ラジオ黄金時代』、蓮實重彦、『ジェームズ・ディーン』、『キッドのもと』、森繁久彌『わたしの自由席』、小林信彦のコラム本など。映画と言ってしまったが芸能の本と捉えた方が正しいかもしれない。ちなみに、平台には早稲田古本屋目録や『古本暮らし』の署名本、『古本海ねこ目録』、さらに映画パンフレットもあり、マニアックな品ぞろえも外さないのだ。やってくれるぜ往来座。
左奥の文芸コーナーには新入荷本コーナーが
ここで謝らなければいけないことがある。『左奥(台形上辺)の壁棚と2列×2行の文芸コーナーはすべて見終わった』という意味のことを先に書いたが、実はこれは間違いだった。まだ、1番入口側の面が残っていたのである。お恥ずかしい限りである。
それもこれもこのボリュームたっぷりの店舗がいけないのだ。見るべき場所が多過ぎる!
言い訳はさておき、映画あらため芸能本コーナーの真正面にあたるこの本棚には新入荷本コーナーと文芸以外の文庫が置かれている。
新入荷本コーナーには『戦後日本英語論』、『能役者』、『夢幻の山旅』、『出版の意気地』、『古書の来歴』、『マイバックページ』など。
奥の文芸以外の文庫コーナーにはちくま文庫やちくま学芸文庫、講談社学術文庫、岩波現代文庫、岩波文庫、岩波文庫(戦前)、教養朝日河出ほか、ノンフィクションときて最後に新書がある。
これで今度こそ『左奥(台形上辺)の壁棚と2列×2行の文芸コーナーはすべて見終わった』と言えよう。いや正確には文芸コーナーではなく文芸と新入荷本とノンフィクションコーナーかもしれないがそこは分かりやすく文芸コーナーと言っておくことにしよう。
入口正面の1列本棚の右側には古典芸能に演劇、音楽が
気を取り直して、ついでに入口までいったん戻って、入口正面の本棚をまた見ることにする。今度は右側である。ここにあるのは古典芸能、演劇、音楽。
古典芸能が『海老蔵そして團十郎』、『井原西鶴』、『歌舞伎ちょっといい話』、『浮かれ三亀松』など。
演劇が『東京セブンローズ』、『土方巽とともに』、『演劇の歴史』など。
音楽が『このオペラを聴け!』、『世紀末の音楽』、『世界の指揮者』、『バッハへの旅』、『ドクターjazz』、『ピンク・フロイド』、『ビートルズ革命』、『演歌の達人』、僅かにライブビデオとCDといった構成だ。
ここまで見て来て分かるようにこの入口正面の棚は広く見た場合の『芸能』の棚と言えるだろう。何でも芸に通じるものは入口正面の本棚を見れば良いという訳だ。
全体の構成
これで往来座の中を見て回ったわけだが、入口正面の本棚と同じように大きく店内の本棚を分類分けしてみようと思う。
まず、先に上げたように入り口正面は広く見た場合の「芸能」の本棚である。
次に入り口の左周辺はジンや小冊子、コミックなどサブカル本棚と言って良いと思う。
その次が、店内左奥、台形の上辺とその前2列の本棚である。ここは何度も言っているように「文芸」の本棚だ。一番手前だけ新入荷本などイレギュラーなものも混じっているが文芸と大きく分けて差し支えないと思う。読みモノが欲しい場合は左奥やこの2列の本棚に行けば良いわけだ。
一番奥まった台形上辺と右辺の交点から右辺の半分くらいは歴史と思想哲学である。海外文学もあるが、近くの文芸と絡めているのだろう。ここはあえて無視することとする。あくまで大きく分けるのが目的なのだ。小難しいことを考えたければ店舗の一番奥に進めば良いのだ。静かだしゆっくり吟味することができるだろう。
次が台形右辺の半分と台形下辺の半分。ここは大きく見た場合の「アート」のコーナーと言える。美術、写真、工芸。ものづくりに興味があるのなら入口から入って真直ぐ進めば間違いないということだ。
最後に台形下辺の残り半分。入口に至るまでで、ここは趣味と子どもである。女性向けの本棚だ。子持ちの奥さんや園芸が好きな方は手ぽに入ったらすぐ右を向けば良いということだ。
こうやって見て行くと広い店内。多い本棚を良く整理しているものである。クラシックな古本屋のような装いとはいえしっかり整理されており、店主の努力が伺われる。すごいよ!
『古書 往来座』は街の古本屋である!
さて、店舗の構成もまとめたところで、「古書 往来座」はどんな店だろうとあらためて考えてみよう。ぼくは一言で表すなら「街の古本屋」であると思う。
文学やアートの品揃えが多く、かと言って気負うことのない店内には、多くはないが常に誰かしら居て何となく和らいだ雰囲気がある。クラシカルな古書店のいかめしさはどこにもない。古本屋にしては若い店主や店員も活気良く作業しているのがこの雰囲気の元だろうか。取材のために長時間店内にいたのだがお客さんと楽しそうに話していたこともあった。
街の本好きに受け入れられているということだろう。新刊を置いていなくても「街の本屋」になることはできるのだと感じた。