7/7(土)に国際ブックフェアでの京極夏彦さんの講演「世界の半分は書物の中にある」のルポです。
好きな作家の一人である京極夏彦さんがこの目で見られるということで、見つけた瞬間に参加を決めました。読書推進セミナーという題名からあまり期待していなかったのですが、さすが京極先生!面白かったので、以下にまとめていきます。
約3千人もの聴衆に少し驚いている氏ですが、「全員が納得する話はできない」と保険を掛けた上で、京極堂と同じように一見、読書とは全く関係のないところから話を始めます。以下、京極夏彦さんの言葉を要約していきます。
時間について
- 時間は説明できない。
- 人間は時間を考えるために現在・過去・未来というように分割している。
- デジタル=分割すること、アナログ=連続していること。
- 動物と人間の違いが始めてできたのはこの昨日と今日と明日を分けるデジタル思考ができたときである
言葉について
- 言葉はデジタルである。
- アレとコレを分割していくことで言葉はできた。
- 不立文字=文字では表せないことがある。月は地球の衛星を指すが、それはそういうルールだからだ。
- 時間を説明するために現在・過去・未来を分けたように分割しなければ認識できない。
- つまり、言葉がなければ世界は認識できない。
- 言い換えれば語彙力をつければ世界は広がる。
- 語彙力をつけるためには豊富な語彙が収められた本が必要。
- 文化が枯れるとは言葉がなくなるということ
- 言葉がなくても世界はあるが、人間は言葉で世界を認識している
- これが「世界の半分は書物(=言葉)の中にある」ということだ
本について
- 読書は全て誤読である。
- 作家の意図が100%伝わることは絶対ない。
- なぜなら人によって持っている語彙が違うから(馬鹿と書いても人によって対応している語彙=意味が違う)。
- 本は作家だけじゃないデザイナーや印刷屋、編集者など様々な人たちの努力の結晶であり、その代表者として作家の名が記載される。
- しかし、それだけでは本は完成しない。読者が最後に参加することで本は完成する。
- 人それぞれによって無限の解釈が存在する本。無限の解釈を生む読者によって本は完成するのだ。
- 今、僕たちが生きている世界の他にも、僕たちは読書によって無限の世界に飛び立つことができる。
- これが「世界の半分は書物の中にある」のもう一つの意味だ。
- 「本は高い」とよく言われるが、そういうことを言う輩には、出版社の人は「むしろこんなに価値のあるものをここまで安くしてあげてるんだ」くらいの対応をして欲しい
- 「この世に面白くない本はない」
以上です。講演内容自体は特に新鮮味がないのですが、本当に話の展開が上手い!全く関係のなさそうな話を聞いていると、いつのまにか狙い通り納得させられている。本当に京極堂のような話し方でした。小説も面白いですが、話させても面白いなんて、うーん、なんなんだこの人は。
ところで、印象に残ったのは文章力についての話。本筋からすると余談でしたので、上記まとめからは省きましたが、京極夏彦さんはこう言ってました。
文章が下手だということは頭が整理されてないからだ。それでも、下手な場合は、語彙が足りないからだ。講座なんてものは必要ないのだ。頭を整理して語彙を増やせば自ずと人が読める文章になる。
その通りですね。SPBSの作家・ライター養成講座を受けていたときに、うまくいかなかった文章は大抵、推敲が甘く頭が整理されてなかったときでした。頭が整理されてこそ、「読者への説得をどうするか」など狙いが活きてくるのですから。
その他、語彙と世界認識の話については1984年と絡めていろいろ考えたり、細部が本当に巧みで、満足な講演会だったのでした。