本の利益率の低さをカバーするため、多くの個人書店が「本+α」というスタイルで店作りを行うなか、自分が選んだのはうつわ。READAN DEATという店名は、読む(READ)と食べる(EAT)を組み合わせた造語。気持ちとしては「+α」ではなく「50:50」で、本屋であると同時にうつわの店でもありたいと思っている。
どうしてうつわなのかと聞かれると、それは本もうつわも暮らしを豊かにする物であり、どちらも自分が好きだから。本が好きな人はうつわにも興味があり、それぞれに相性が良いのではないか。根拠はないけれど、そんな期待を抱きながら店づくりを進めていた。
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形・色・大きさが揃うプロダクト製品としてのうつわもあるけれど、手仕事のうつわは一点ごとに異なる魅力があります。食べ物を盛る。機能としてはとてもシンプルだけど、生きるうえで最も根幹的な行為を担う道具。人類の歴史のなかで、芸術性を求めたり、思想を見出したり、うつわの深淵さにたじろぐこともあれば、手ざわりや口あたりに心安まる親しみを感じたり。うつわは商品でありながら、言葉を手がかりに思考していきたい、個人的な興味対象でもあります。
店のスタイルは、本とうつわの二本柱として思い描いていましたが、店内にギャラリースペースを設けたことによって、「展示」というもう一つの柱が加わっていきました。絵本の原画や写真集のプリント作品展示など本をテーマにした展示、うつわ作家の個展、画家やイラストレーターの作品展、郷土玩具や民藝のうつわのポップアップなど、開店当初から現在に至るまで、月に1、2回のペースで展示を企画してきました。
本とうつわと展示。自分のなかでは三者がリンクすると思っていても、お客さんにとっての興味の対象は全く別で、来店目的もそれぞれ異なります。自分自身も続けていくなかで、それぞれの向き合い方が見えてきました。
店主の好みが反映された品揃えが個人の新刊書店の面白さではありますが、街の本屋としてお客さんのニーズを考えた「はずせない」本を揃えることも必要です。言い換えると、狭く深い品揃えだけでなく、広く浅い品揃えも街の本屋として求められる要素。その一方、うつわに関しては、店主の偏愛を貫き通す品揃えが、結果として魅力的な品揃えにつながります。そして展示は、店をフレキシブルにしてくれる空間づくりでもあり、お客さんとのコミュニケーションの場でもあります。
「10坪弱の店内で欲張りすぎている」という空間的な問題と、それぞれを上手くプレゼンテーションできていない自身の力不足を痛感しています。そんな状態でありながら、実のところ、さらに第4の要素の可能性に惹かれています。それは「学び場」。
実際にこれまで、金継ぎ、製本、写真など、何日か通ってもらう連続講座を開催してきました。驚くのは、県外からの参加者も少なくないということです。この5月に開催した写真家・藤岡亜弥さんの写真講座も、2名は県外からの参加で、メンバーは職業も年代もばらばらだったのですが、最終日には強い連帯感が生まれていることに心動かされました。
「カルチャー講座」と呼べば何も珍しいことでないのですが、本とうつわを扱い、幅広い展示を企画してきた店だからこそ、提供できる学びがあるのではないか。また、文化的な土壌を育てるための種まきになると感じています。
二兎ばかりか、三兎、そして四兎も求めはじめて、一体何の店?と思われるかもしれませんが、個人的には「広島で文化的な場所として機能したい」という、店を始める動機に帰結していると考えています。今はこの四本の柱をベースに考え、「店としてもう一つの場所をつくる」ことを目標にこれからの10年動いていきます。