箱根の玄関口。かまぼこ、提灯、総構え。小田原北条氏による統治の後、東海道の宿場町となった小田原。神奈川県西部主要都市である小田原の古本屋、高野書店へ行ってきました。貸本屋としての創業は1956年、その後1962年から古本屋を開始しています。小田原で65年営業している本屋です。
店の戸を開けて右側から棚を眺める。どうやら自分の癖なのか、古本屋に入ると右側から棚を見るようです……右利きだからなのかもしれないです、根拠はないです。皆さんは古本屋に入ったら左右どちらの棚から見ていくのでしょうか?
閑話休題。店内右側の棚は文庫、出版系の本がメインでした。古本屋に行くとどのくらい出版系、特に本屋関係の本がどれくらいあるかよくチェックしてしまいます。お目当ての本を1冊発見した後、左側の棚へ移動。左側は神奈川の郷土資料がたっぷり。左奥には出版関係の専門書も。店舗中央には貴重な史料の入っているガラスケースがありました。
『貸本屋、古本屋、高野書店』や店のホームページを事前に眺めており、神奈川の郷土資料がかなり多い古本屋であるということは把握していましたが、目の前にすると改めて壮観でした。神奈川の郷土史関連を調べなければならない場合はここを使うことがよさそうです。
もう1冊の本も探し、会計のついでに店主にお話を伺うことに。店主曰く、やはり本屋は減っているとのこと。小田原以西の本屋は、湯河原に新刊書店があるくらい。『貸本屋、古本屋、高野書店』を読んでここに来た旨話すと、神奈川の貸本屋の話をしていただきました。
神奈川県内には当時800軒以上の貸本屋があり、小田原でも48軒ほどがあったという。小田原地区の貸本屋の蔵書数は、小田原市の図書館よりも蔵書数が多かったらしいです。
図書館については手が回っていないですが、話の中では「貸本屋の方がハードルが低かったのではないか」という話が出てきました。会員になる保証金と本を借りる代金を払えば済むため、図書館よりは本を借りるハードルが低かったのかもしれません。貸本のメインとなるのは小説や漫画。楽しむための本を借りる場は貸本屋の役割だったのかもしれません。
また、現在は貸本漫画などは非常に高い古書価となっていますが(調べてみると1冊30万や50万を超す漫画がありました)、当時は売れるものではなかったようです。カバーがない、函がないなど、様々な点で売ることができなかったのでしょう。
また、おそらく貸本として出回っていた本自体の数が多く、当時売ったところでよくても二束三文だったのではないでしょうか。当時大量にあったが、現在残っている数が非常に少ないため、かなり高額な古書価になったが貸本漫画などかもしれません。
本屋に行く際、事前にその地域の本屋の話や行く店の本を読んで行くのですが、しばらく回っていると、どうも古本屋と新刊書店の話だけだと片手落ちではないかと思っていました。話の中でこのことを聞いてみると、「貸本屋も見る方がいい」とアドバイスをいただきました。
江戸時代から貸本屋は存在するので、近世の出版史も見るのがなお良いとも。鈴木俊幸の『書籍流通史料論序説』(勉誠出版)は必読と伺いました。この本は以前神保町の一誠堂で購入していたので、まずはこの本を読んで流れを掴んでみます。
話ながら棚をチラチラと見ていると、長友千代治『近世貸本屋の研究』(東京堂出版)が。探していた本であり、非常に欲しかった本ですが、今回はお財布の事情で断念。自分の見つけ方が悪かったのかもしれませんが、ここで初めて見ました。
終わり際、貸本関係の資料を出している版元の話になり、どこかどこかと話をしていましたが、金沢文圃閣でした。金沢文圃閣、出版関係に詳しい本屋での話にはよく出てきます。非常に欲しい資料が多い版元です。
あっという間に時間が流れ、箱根湯本に戻らなければならない時間に。仙石原の本喫茶わかばへ本を搬入した後、箱根湯本に荷物を預け、大平台~宮ノ下をちょっと歩いてみた後に行ったため、荷物を回収しなければならず……名残惜しかったですが、購入した本とたくさんのお話を抱え、店を後にしました。
今回買った本は2冊。山田淳夫『消える本屋』(アルメディア)と長友千代治『江戸時代の書物と読書』(東京堂出版)です。前者はかなり長い間探していた本だったため、店内右側の棚で発見して即キープとなりました。後者は江戸時代の出版に関する本も少々欲しかったため、特に意識せずに手元にありました。『近世貸本屋の研究』とトレードした方が良かったかもしれませんが、この本がきっと呼んでいたのでしょう。そう思います。
今回行った高野書店のHPは↓
https://booktakano.shop-pro.jp/
『貸本屋、古本屋、高野書店』の情報は↓
https://bit.ly/3gjBdWl