書店探訪記第19弾は「FUTABA+京都マルイ店」。フタバ書房河原町店が閉店し、そこが新しく出来た京都マルイ店に新装開店したとのことで行ってみた(2011.6の記録)。
阪急河原町駅で降り駅と直結した京都マルイの地下からエスカレーターで上っていくと6Fにあるのが「FUTABA+京都マルイ店」だ。
まとめ
まず、時間の無い方のために手短にまとめたものを書いておく。
- 品揃え:デザインやアート、ビジュアルブックに強いイメージ。新刊や話題書はそこまで多くないが、雑誌の品揃えは多彩。
- 雰囲気:女性客重視な雰囲気。渋谷パルコのスミスや梅田ルクアの文房具店で本も売っているような感じ。
- 立地:河原町駅直結なので、立地は最高。
TEL(075)222−5528
FAX(075)222−5529
営業時間:午前10時30分〜午後8時30分
URL:http://kyofutabaplus.blog.fc2.com/blog-entry-1.html
Twitter:https://twitter.com/futaba_plusOIOI
Facebook:https://www.facebook.com/futabaplus.kyotomarui
スタバとコラボ
上りエスカレーターを降りて左手に回り込んだ場所から始まりフロアの半分の壁沿いが販売スペースとなっている。フロアの3分の一ほどを占めているので結構広い。
まず、上りエスカレーターの左手から見ていくのだが驚いたのが棚が少なくカフェのように座って読めるスペースが多く用意されていたことだ(座席が9にテーブル付のイス2つが3セット、電源、読書灯付きのカウンター席がエスカレーター沿いに12席あった)。
この業態(本屋+カフェ)、流行ってきた?
「広いからゆったりスペースを使えるとはいえ書店なのになあ」と思って奥の方を見ているとどうやらスタバが併設されておりブックカフェとなっているらしい。本棚にも良く見ると「この本は購入前でも座って読むことが出来ます」といった内容の注意書きがある。
スタンダードブックストアといいブックカフェというのが流行っているのだろうか。それとも海外では良く書店と併設しているというスタバがこの業態を日本でも広めようとしているということだろうか。
何にせよ読みたい本をゆっくり探せるというのは嬉しいので、このやり方は好きなのだが(実際、お客さんも寛いでいるようで、こちらの方が奥の棚だけの販売スペースより人が多かった)。
スタバに持ち込める本棚たち
さて、スタバに至るまでの棚(ここの本棚の本はスタバに持ち込める)を見ていこう。
レイアウトは、木箱と平積み台と棚を組み合わせたようなつくりで壁沿いに棚が4つ、他にも通路の中央に真ん中の盛り上がりに向かって凹んでいる大きなテーブルが二つあり、そこにも本が盛り上がりに立てかけてあったり、平積みしてあったりしている。テーブルをこうやって什器として使うというのは新鮮だ。
では、手前の棚から見ていくことにする。
海外の物語に関する棚
一つめの棚は海外文学がメインのようだ。白水社EXLIBRISや河出世界文学全集、中央公論新社の村上春樹翻訳ライブラリー、カレルチャペック15冊、早川書房の新書、白水社の新書などなど、さらには「翻訳文学ブックカフェ」という本や思想、詩、絵本も少しあり「海外の物語に関する棚」だと言える。
日本知識層の周辺
二つめの棚は、「日本の文学や思想、出版社がメインで、具体的には、みすず書房の「大人の本棚シリーズ」やあすなろ書房の『おかしい話』『お金物語』など「~物語」のシリーズ、勉誠出版の『日本の作家百人』10冊くらい、ちくまの日本文学が一段、ポプラ社の「百年文庫」、雑誌『真夜中』などがあり、作家でいくと池澤夏樹や外山滋比彦、池内紀、井上ひさしなどで、その他、本や出版に関する本(『ページと力』、『本の未来を作る仕事 仕事の未来をつくる本』(これ欲しい!など)や思想、社会についての本が並べられていた。ここは「日本知識層の周辺」という感じだろう。
ビジュアル中心の暮らしを豊かにする棚
三つめの棚は今までのテキスト主体の棚とは打って変わってビジュアル主体の棚となる。内訳は、ナガオカケンメイの本やファイドン株式会社のキリスト教絵画のフルカラー本、細谷巌の本、『メディア写真論』、角川春樹事務所の本20冊くらい、民芸の本(柳宗悦の本やとんぼの本『日本民芸館へいこう』)、魯山人の本、ソロー『孤独の愉しみ方』、雑誌『ワンダージャパン』などだ。ここのテーマは「暮らしを豊かに」ってところだろう。
音楽と映画の棚
四つめの棚は、「音楽と映画」の棚だ。
有名どころで。黒澤明やウディアレン、小津安二郎、村上春樹と和田誠『ポートレートインジャズ』、『ジョンレノン』(写真集)、マイケルジャクソン、コルトレーン、スティービーワンダー、『レッド・ツェッペリン』(写真集)、ジミヘンドリックス、『風とロックの写真』、ビルエバンス、ミックジャガーなどが並び、その他アーティストへのインタビュー本や気になったところを挙げると『ラップの言葉』、『イラン映画を見に行こう』などだ。
どうやら3つめの棚から「ビジュアル重視」を続けているのか写真集が多い気がした。
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これで、スタバの右端についたことになる。次はテーブルを見ていこう。
テーブル什器の上の本 スタバに持っていきたくなる本たち
テーブルでは、スタバから遠い方は、ドラッカーなどのビジネス本や内田樹などの社会学系、『僕には数字が風景に見える』などの科学系の本が多く、スタバに近い方では『スーパーバリスタブック』やスタバに関する本(当然かもしれないけどなんとなくあざとい 笑)などのコーヒーの本、坪内祐三『酒中日記』など作家のエッセイから『洋酒うんちく百科』などの雑学物を含めた酒の本、『文豪の食卓』などのエッセイ本から『イタリア料理教本』などのレシピ本までの食の本などスタバで飲み食いしたくなるような本が置かれていた。
消費金額を増やす上でもうまいことやっているなと感心。
ここまでが上りエスカレータを降りて左手に折れ曲がり、スタバに至るまでの販売スペースだ。ここからは、スタバを右手に横切り、本格的に「本屋」をしているスペースを見ていく。
スタバ隣の雑誌コーナーと女性向けコーナー
スタバに向かって左手下りエスカレーターの前は雑誌コーナーだ。手前の平積み台では女性誌が積まれ、奥の突き当りまで棚4つの列3列分が全て雑誌となっている(もちろん棚横のエンド台にも本が積まれている)。ジュンク堂とまではいかないがなかなかの品揃えだ。
雑誌コーナーを抜けると平積み台が置かれ雑誌『murmur』や雑誌『花椿』などが置かれ、突き当りの壁棚にはペットの本や、雑貨屋、文房具、装丁、料理、暮らし、ボタンが並べられている。ここは女性向けのコーナーだと言えるだろう。
「暮らしを豊かに」できるようなセレクトとなっており、一般的に女性が好むような(実は僕も結構好きだが)ジャンルの本が置かれている。そのことは、近くに、よくCDショップにあるような視聴機と共にジャズやラウンジなどカフェ系のCDが置かれていることや、すぐ近くの柱周りに取り付けられた棚に洋雑誌と絵本(日本、外国語問わず)が置かれていることからも分かる。明らかに女性をターゲットとしているような品揃えなのだ。
古今東西ジャンル融合の壁棚
そこから先は、壁棚をメインに胸の高さくらいまでの棚がいくつかある。ここで驚いたのが壁棚の本の並べ方だ。
今まで見た書店でも、文庫だけや小説だけ(さらには文庫新書ハードカバーの区別なし)、で「あいうえお順」という並べ方をしている場所は見たことがあるが、この「FUTABA+京都マルイ店」は全く違う。
文芸という括りは一応あるものの映画や俳優、食、酒と言ったジャンルの本が、文庫新書ハードカバー大判本、全く関係なくあいうえお順に(手前に「わ」で「あ」が一番奥)「置かれているのである。これほどまでのジャンル融合は、僕は見たことがない!
きっとフタバ書房にとっても実験的な意味合いが強いと思うのだがただ棚を見ていくだけでもジャンルを問わず色々な本があるので、いつも以上に発見が多く僕としてはこの棚は好きなやり方だと思った。
壁棚前の文庫やコミックコーナー
壁棚の前には、雑誌側に棚が二つあり、池上彰の本やドラッカーの本などの売れ筋本が文庫新書ハードカバーで、さらに、ちくま文庫や平凡社ライブラリーなどがエンド台に置かれていた。また、雑誌側から見て奥側にも、同じように胸くらいの高さの棚があって、ここにはコミックがある。基本的には、『ワンピース』や『テルマエ・ロマエ』など新刊がほとんどだった(知らない作家のサインが棚の上に飾ってあった)。
そして、近くには新刊や話題の文庫新書ハードカバーが平積み台一つ分(『謎解きはディナーの後で』や『超訳ニーチェの言葉』、『阪急電車』など)
何を置かないか
コミックや新刊の数が少ないことは「FUTABA+京都マルイ店」がどういう店なのか。雑貨やカフェなどが好きな層に向けた店であることを分からせる良い材料となった。そう「何を置かないか」というのも店作りの重要なポイントなのだ。
アート・デザイン→文房具売り場は鉄板の流れ
さて、文芸の壁棚の中央目の前にカウンターがあるのだが、カウンターの横、文芸棚の終点からは、アートやデザイン系の本が並ぶ。そして、そのまま文房具売り場へとなっていく。この流れは秀逸で、アートやデザイン形の本を見に来たお客さんが振り向くと(棚が壁にあるので)文房具売り場となっているのだ。
アートにしてもデザインにしても、「書くこと」は重要な要素を占める。さらに、PC全盛とは言ってもやはり手書きの方がアイデアが出やすいということを述べる人は多い。つまり、アート・デザイン系の本を買う人と手書きのために必要な道具=文房具は相性が良いのだ。
マーチャンダイジングってのは、こういうことを言うのだなーとまたも感心。
文房具というより書斎回りグッズ
そのまま文房具売り場を見ていくことにする。文房具売り場は、あまり販売スペース全体の6分の一くらいの大きさで約10畳ほどだろうか。十分なスペースを持って商品が並べられており、ガラスケースや平積み台を効果的に使用している。
置いてあるものは。文房具といっても、万年筆などのペン類や消しゴム、ノート、筆箱など筆記用具の他にもあり、 時計、ブックカバー、ガラスペン、便箋、砂時計、切手、ポストカード、ハンコ、スケッチブック、手ぬぐい、風鈴、うちわ、手帳、マスキングテープ、インクなどなど、「文房具」というよりも「書斎周りのグッズ」と言った方がイメージしやすいかもしれない。
具体的には、RHODIAやツバメノート、ラミー、デルフォニックス、モレスキン、トラベラーズノートブック、MUCU、STEADLERなどのブランドが置かれており、トラベラーズノートブックの近くには旅の本、デルフォニックスの近くにはデルフォニックス特集の本などが並べてあり、本と雑貨の融合が行われていた。
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「本屋」という空間を売る
さて、これで「FUTABA+京都マルイ店」を全て見て回ったことになるが、感じたことはこの店はあくまでも「女性客」をメインターゲットにしていることだ。
通常売れ筋であると考えられる新刊やコミックは少なめに、雑誌や海外文学やビジュアルが多い音楽や映画、デザインの本、料理や酒など暮らしに関する本を目立つ場所に置く。そして、通常の棚にも工夫を凝らし、ただ棚を眺めていくだけでも楽しいような仕掛けをする。
「目的買い」というよりも、ただ「楽しそうだから」という理由で訪れる客数を増やすことに力を入れているんだ。
これは、「「FUTABA+京都マルイ店」に来れば何か発見がある」「「FUTABA+京都マルイ店」何か楽しい気分になれる」という感情をお客さんに訴えることを「FUTABA+京都マルイ店」が目的としていることを指していると思う。つまり、「本や雑貨を売っている」というよりは「空間を売っている」に近いのではないか。
純粋な書店とは方向性が違うと思うし以前の河原町店とは全く違うけれど、こういったやり方は結構好きだし、これからも増えて欲しいなとフタバ書房のファンとしては思うのでした。
最後に、帰りにマルイから出ようと一階まで降りたら、フロアに6階という少し行きにくい場所にある「FUTABA+京都マルイ店」の導線となるミニ販売スペースが設けられていた。置いてあったのは、新刊と話題書。目的買いの人は、ここで事足りるだろうし、そうじゃない人も足を向けやすくなる。
「FUTABA+京都マルイ店」は挑戦的な店作りながらも、十分に戦略的であるのだと感じた。