前回訪れた、たかさき絵本フェスティバルには幸福な時間が流れていた。だが、これはイベントだ。ずっとそこにあるような素敵な空間はないのか?
そういってグンマスター氏が教えてくれたのが「ふやふや堂」である。
まとめ
時間のない方のためにまとめです。
- 品揃え:カルチャー系の本が多め。
- 雰囲気:とにかく落ち着く。ずっと居たくなるような本屋。
- 立地:JR桐生駅・上電西桐生駅からは、2キロ弱。歩くと30分かからないくらい。
tel 0277-32-3407(マップデザイン研究室)
営業時間:毎週金曜日オープン お昼(12時)〜夜(6時頃)まで
URL:http://www.fuyafuya.jp/
Twitter:https://twitter.com/cosimio
とにかく落ち着く家のような本屋
おいおいこんなところにあるのか、という住宅街の真ん中にあるのだが入ってみると田舎のお爺ちゃん家のような雰囲気で素晴らしかった。
ふやふや堂はマップデザイナーの齋藤直己さんが株式会社アルテコ(マップデザイン研究室)の事務所の一部を改造してつくった本屋さん。仕事が疎かにならないように毎週金曜日だけ開けているそうだ。しかし、それなら何でわざわざ本屋をやっているのか?
聞いてみると、「デザインの仕事は性質上、外出しなくてもできるので、あえて事務所を外に向けて開きたかった」とのこと。さらに質問すると、紙面デザインの仕事が多いのだが、本が売れなくなってきている昨今、本当の出会いの場を少しでも作れたらという気持ちもあるという。
驚いたことに現在のような週1日というスタイルで始めたキッカケは「ミシマ社の本屋さん」との出会いだという。ミシマ社社長の三島さんにやりたいことを話して「良いんじゃないの」と言われたのがキッカケなのだそうだ。人間、やりたいことがなんとなくでも見えたら外に出ていろんなところに行っていろんな人に会えば、何かしらの進展が生まれるということだろう。
それにしても、それで開店するとは。副業とはいえ思い切ったものである。
近所の憩いの場になりたい
開店したときから現在でも近所の方に来て欲しいと言う齋藤さん。
だが、周囲に店が少なく、車社会ということもあり、あまり来てくれないようだ。その代わり、現時点では遠くから来て下さるお客様が多い。新聞などメディアに載ったためだという。1年間続けてきて嬉しいことに常連さんは来て下さるようになったが、これからはもっと近場の方に来てもらえるようにしていきたいとのこと。イベントや出店、メディア露出など本業に支障が出ない程度でやっていきたいそうだ。
今後の展開が楽しみである。
書斎のような部屋
さて、品揃えとレイアウトについて説明しよう。
「近所のひとに来て欲しい」と店主が考えていることは書いたが、正直な話し、一度行けば何度でも来たくなることは間違いない。というのも、とにかく居心地が良いのだ。
デザイン事務所とは言っても、青山や恵比寿にあるようなオシャレでハイソサイエティーなものではない。古い工場か何かをリノベーションして事務所として使用していると思うのだが、その一角が本屋になっているのだ。
田舎のお爺ちゃん家に帰ってきたかのような気分で中に入ると(もちろん靴は脱いで入る)、真ん中にテーブル、目の前にソファーセットである。そして、漂うあの石油ストーブの芳しい香り。もうそれだけで気分が高揚する。
もちろん本棚も相当数ある。壁面すべてを使っているわけではないが、ほとんどは本棚だ。面白かったのが、通常、個人で本屋を始める場合、仕入れや費用の関係から古本を多めにすることが多いかと思うが、ふやふや堂は新刊がメインなのである。
聞くと、店主が手がけた書籍をはじめ、仕事で関係している出版社の本や自分が気に入った小さめな出版社の本がほとんどだそうだ。店主自ら連絡をとって直接取引ができる出版社の本や子どもの文化普及協会で取り扱える本を売っているそうだ。最近は続けてきた成果か出版社から「置きませんか」と連絡があることも。
具体的に見ていこう。
京阪神エルマガジン社が結構多いのが特徴的で、ここの本はぼくも好きなのでコッソリ嬉しくなった。そのほか、ミシマ社や晶文社、夏葉社、『つるとはな』などがある。カルチャー系の品揃えで、立地を考えるとこの辺りでは貴重なラインナップかもしれない。
齋藤さんの好きな本
最後に店主・齋藤さんの好きな本を聞いてみた。
昔は小説ばかり読んでいたそうだが、いまは内田樹の街場シリーズや『ヘロヘロ』など、その人が何を考えているかわかるような本が好きなようだ。では、小説では? と聞くと、村上春樹が好きなようで『色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年』、『世界の終わりとハードボイルドワンダーランド』、『ダンスダンスダンス』を挙げて下さった。
とにかく居心地が良い本屋・ふやふや堂。週何日かしか開けないフレキシブルなやり方で近所の憩いの場所を目指すこんな店がもっといろんな街にできて欲しいと思った。
つづく