「忙しい日々の隙間に」。July Books店主は生活に追われる多忙な現代人にそっと寄り添うような本棚をつくってくれた。旅や動物など非日常の世界を垣間見ることで少しでも生活の潤いになってくれればという思いを感じることができた25冊だった。
ワクワクするインタビューだったが、となるとやはり店主が「どうして今の店「July Books」をつくったのか」「これからお店をどうしたいのか」ということが気になってくる。個人経営のお店というのは店主の好みや主張がそのまま表れるものだからだ。「July Books」という切り口から店主の人柄に迫ってみた。
以下、具体的には「July booksができるまで」「好きな本棚」「July Booksの目指す場所」という順番で聞いていく。
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July Booksのできるまで
なぜ4月でも11月でもなく「July Books/七月書房」なのか
筆者:「本棚あそび」のインタビューに続いて、「July books」を含めて店主についてお聞きしたいのですが、オープンされたのってけっこう最近ですよね?
店主:そうですね。一年と3カ月くらいですね。2011年の11月25日にオープンしたので。
筆者:11月なのに「July books/七月書房」なんですね(笑)
なんでこの店名にされたんですか?
店主:意味はなくて、かつ、季節感のある名前にしたかったんです。だから、月の名前にしようって思ったんですよ。
筆者:11月開店なのでNovember booksにはしなかったですね。やっぱり長いからですか?
店主:そうですねー。4月とも迷ったのですがわたしが冬生まれなので夏への憧れもありJuly Booksに決めました。
筆者:ぼくはてっきり京都の「三月書房」さんから影響を受けたのかと思いました。
店主:あまり他の店は意識していませんでしたね。
ちなみに、当初は「July books」だけにしようかと思ったんです。でも、母親に店名を言ったら分からなかったんです。それくらいの年齢層のお客さんも視野に入れていたこともあって「七月書房」を併記することにしました。
筆者:なるほど。でも、月の名前を付けている本屋さんって面白いですよね。ぼくは三つ知っているんですけど「July books」さんと「三月書房」。それと、鳥取に「一月と六月」って本屋さんがあって。全部かぶっていないんですよね(笑)
店主:やっぱりみんな調べるんですね。わたしは「十二月文庫」さんを見つけましたよ。
筆者:これは空いている月の名前で自分の本屋さんつくろうかな。ぼくは9月生まれなのでSeptember booksとか(笑)
店主の来歴
筆者:以前は何をされてらしたんですか?
店主:ずっと新刊書店の書店員で、やっているうちに「自分でもやろうかな」って思ったんですよね。でも、新刊は取次さんとの契約とか金額面でのハードルが高くて今の業態をやろうと決めました。
SHIBUYA PUBLISHING BOOKSELLERS(以下、SPBS)で働いていたことがあって、そのときにあそこは古本も一部取り扱いがありました。それを見て「こういう感じなら自分でもやれるかな」って思ったんです。
筆者:SPBSはスゴいですよね。July booksさんも含めてSPBSに関わった方は本の世界で面白いことされている方が多いように思うんですよ。
店主:SPBSは外とのつながりを大事にしているところがあるんですよ。もともと代表が編集者ということもあって人と人とのつながりが本当に多いですね。
筆者:SPBSの輪ですね(笑)
店主:わたしはもともとTSUTAYA TOKYO ROPPONGIで働いていました。そこはBACHの幅さんが棚を作っていたんです。SPBSのオープン時の選書も幅さんが手がけていて、そういう繋がりもありました。
筆者:幅さんと言えば、ぼくは芸術学舎という学校の「いつか自分だけの本屋を持つのもいい」って講義を受けていたんですけど、その第一回目の講師が幅さんだったんですよね。そこでSPBSは途中で品揃えを変えていくことでうまくいったって話を聞いたことがあります。
筆者:話を戻しますと、ではTSUTAYA TOKYO ROPONGI、SPBSの次にすぐJuly Booksを開いたんですか?
デスクワークは向いていない(笑)
店主:いや違います。TSUTAYA TOKYO ROPONGIのあとに編集アシスタントをやっていたことがあります。本屋は体力仕事なので歳のこととかも考えて今度は作る側に回ろうと思ったんです。でも、働いたはいいもののデスクワークが全然向いていなくて(笑)
本屋って立ち仕事です。しかも本当に体力仕事。そのことに慣れていたので逆にデスクワークが辛くて仕方なかったんですよ。しかも、編集は買ってくれる人の顔が見えないんですよね。それで、本屋に戻ったときに「やっぱり本屋が好きだからずっと本屋をやろう」って思ったんです。
開店には勢いが大事である
筆者:ネットで古本屋はしなかったんですか?
店主:しなかったんですよねえ。それで30くらいのときに「3年後に本屋を開こう」って思ったんです。
その3年間は準備をしようって思って「古本屋で働こうか」とか「ネットでまずやろうか」とか考えているときに、予算を考えるために物件を調べていたんです。すると「なんかここ良いぞ」ってのが見つかったんですよ。それで「後々のために見学しよう」となって見学して「やっぱり良いな」と思って調べたら頭金も安くて2,3カ月分くらいだったんです。これなら条件も良いし自分の体力を考えると「今、やっちゃおうかな」ってなったんですよ。
筆者:準備期間はどこにいった(笑)
店主:準備期間は消えました(笑) それで7,8月くらいに悩んで9月に契約して11月に借りることにして25日にオープンしたんですよ。
筆者:勢いですね(笑)
店主:はい。勢いは大事です(笑) 最後の一カ月はもう寝ないで準備しましたけど(笑)
筆者:開店のために古本を集めたりはしなかったんですか?
店主:特別に何かしていた訳ではないですが、具体的な準備をする前にいつか自分で開く本屋のためにと思って自分で集めていたんですよね。だから、最初は今よりももっと本は少なかったんです。でも、空いたスペースは雑貨を仕入れば棚を埋められるかなと思って。
開店のために大事なこと
筆者:雑貨の仕入れのあてはあったんですね?
店主:以前、書店で雑貨担当をやっていた時期もあったので、どういう卸があるのかとかは知っていたので、気になるところには直接メールしたりして仕入れました。
筆者:ぼくも本屋をやりたいので勉強になりますね。
店主:私の場合はまず、直接メールをしてみることからしています。
筆者:なるほど。つまり、必要なことは「お金」と「本を集めておくこと」。で、意外と「雑貨は意外とメールすれば仕入られるし、探せば良い物件はあるってことですね。
July Booksは「ライトな本好きに向けたお店」である
筆者:やりたい古本屋のイメージってあるんですか?
店主:最初のコンセプトを考えたときに、入りやすくてクリーンな感じのお店にしようと思ったんですよね。
例えば、雑貨屋さんとかカフェとかそういうイメージで作りました。あまり女性向けというのは考えていなかったですけど、友達同士で散歩していて「ちょっと見てみようか」って寄れるようなお店にしたいって考えたんです。
それというのも「古本屋さんは本好きの人が入るお店」ってイメージがあるじゃないですか。でもTSUTAYA TOKYO ROPONGIとかSPBSとか、そういう本屋さんで働いていると深い部分を求めていない本好きの方もたくさんいることを感じるんですよね。だから、そういう深い部分を求めない本好きな人でも入れるお店にしようと思って。
筆者:「ライトな本好きに向けたお店」にしたいということですね。
でも、そう考えると立地が良いですね。下北沢の一番街ってレトロな雑貨屋さんがあって駄菓子屋さんとかあって水たばこの店があって。ちょうどJuly booksって今の場所にハマっているように思うんです。
下北沢の北口側で開きたかった
店主:そう言われると嬉しいですね。一番街はわたしも好きでして、もともと下北沢の南口より北口に開きたいっていうのがあったんですよね。南口はザ・スズナリがあったりしてお店の雰囲気が濃いじゃないですか。飲み屋さんが多くて密集度も高いですし。やりたいお店が今お話ししたようにもふわっとしたイメージだったので、北口で探していたんですよ。
それに、一番街はだんだんお店が増えてきていますし、これからも増えそうだというのもあって今の場所にしたんですよね。さらに、私が好きなベアポンドさんという有名な立ち飲みコーヒー屋さんもあって、「コーヒー好きと本好きはカブる」って思ったこともありますね。
筆者:お店って一人でやってらっしゃるんですか?
店主:基本は一人ですね。ときどき手伝ってくれる方もいるんですけどだいたい自分ひとりです。なのであまり外に出れないんですよね。開店前にもっと外に出てイベントとか行っておけば良かったです(笑)
しかも、普通の書店と比べて時間があるのでデスクワークが多いんですよ。「わたしデスクワーク苦手なはず…」って(笑)
July Books店主の好きな本棚
筆者:ここで話を変えます。作って頂いた25冊の本棚「忙しい日々の隙間に」についてはお話し頂きましたが、逆に自分の本棚以外で好きな本棚ってありますか?
店主:代官山の頃のユトレヒトは好きでしたね。
筆者:今の青山のユトレヒトは行ったことありますが、代官山の頃は行ったことないですね(ユトレヒトは代官山から現在まで2回店舗を変えている。現在は3店目)。
店主:代官山の頃は今よりもっと古本が多くて、古いマンションの一室に海外のも日本のもいろいろあったんです。行くたびに窓のところに100%オレンジさんの絵とかいろんなイラストレーターさんの絵があって、和気あいあいとしていて面白かったんですよね。まだミッフィーが流行る前にディック・ブルーナの昔のペーパーバックとか置いてあったりして。
筆者:なるほど。作って頂いた25冊の本棚「忙しい日々の隙間に」でもそうでしたが暖かい柔らかい感じのデザインが好きなんですね。
July Booksの目指す場所
筆者:お店の話に戻しますが、これからJuly booksをどうしていきたいと考えていますか? 何やら溜め息が漏れていますが(笑)
店主:そうですね。イベントをやらなきゃって長いこと思っていたんですけど本当はイベントとか苦手なんですよね(笑)
筆者:前に「朝まで本屋さん」ってイベントやっていましたよね?
店主:やりました。一回目は大阪の「Folk oldbook & cafe」だったみたいですね。
筆者:行ったことあります。良いですよね。
店主:Folk oldbook & cafeは川沿いにあるんですよね。ネットに上がっているイベントの写真を見るんですけどスゴイ良い感じだなと思っていて。
筆者:行くと本屋さんというよりは本がいっぱい散らばっている他人の家って感じなんですよ(本屋探訪記vol.51:大阪天満橋駅にある近くに欲しいブックカフェ「FOLK old book store」を参照)。
店主:良いですね。そういうゆったりしたのは好きです。憧れます。
筆者:なぜかファミコンが置いてあるんですよ。プレイできないんですけど(笑)
展示について
店主:イベントとはまた少し異なりますが、前から展示は時々していて、雑貨の作家さんのものをやったりしています。そうすると、展示のお客さんがついでに本も見てくれるというのがあるので、そんなに大きなスペースではないですがやっていきたいです。募集中です!
筆者:なるほど。平台を貸したりお店での展示も増やしていきたいと。
店主:そうですね。そういうことをやっていきたいです。
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如何だったろうか。本棚あそびインタビューで作って頂いた「忙しい日々の隙間に」。こんな豊かで優しい本棚を作れるJuly Books店主はどんな人なのか。「July Books」という切り口で迫ってみたが、店主の人柄が伺い知れただろうか。
ぼくが思うにJuly Books店主は「ふかふかのクッション」のような人だと思った。包み込むような優しさを持ちながら勢いで開店を決めてしまう羽のような軽さが同居している。もちろん本への情熱には溢れている。ただそれは押しつけがましくない。インタビュー後にも下北沢に行くたびに足を運んでお話をさせて頂くのだが、その度に癒される。特に忙しい時に寄ってみたときなどどことなくホッとする。お店にもきっと店主の人柄が表れているのだろう。
ぼくもJuly Books店主と同じように自分の店を持ちたい。あいにくとぼくには書店員の経験はないが、本屋好きとして多くの本屋を回ってきた自身はある。本屋を巡っていると2010年ごろからだろうか。ここのところ若い人がクラシックな古書店の様でないオシャレな古本屋を開くことが多くなっているように思える。スノーショベリングやFolk oldbook & cafeなどだ。その中でも、July Booksほど「癒される」と感じたことはない。
だから、ぼくはこう思う。下北沢散歩に疲れたときはJuly Booksで本を買って近くのカフェで読もう。きっと一日の締めくくりにこれ以上のものはないと思う。
(2013年7月25日に一部内容を訂正いたしました。)