松本駅前からまっすぐ東へ。そのままずっと進むと松本市美術館、更に進めば旧制松本高等学校の建物が残るあがたの森公園。そんなあがたの森通りを進んでから1本裏手に入ったところに、今回伺った松信堂書店があります。
大体松本駅から歩いても15分くらい。近くには栞日もあるようです(今回は未訪)。この通り、かつては松本駅から浅間温泉を結ぶ松本電気鉄道浅間線が通っていました。今も通っていたら、路面電車撮影に夢中になれたのかも、と思ってしまいました……。
さて、普段ならアポ無し突撃スタイルですが、今回は事前に連絡を入れ(この前月、長野市の善光洞山崎書店に松信堂を紹介していただきました)、開いている時間を確認しました。
早速店内、の前に店の外に積まれている本を確認。大体古本屋だと外は均一棚ですがここはブックタワー。いや、ブックタワーというよりも「本の山」。「岳都」とも言われる松本で、新しい山を見つけました。多分初見で入るのはなかなか難易度が高い本屋です。本屋巡り始めたての頃の自分だったら躊躇して帰っています……。大体積まれているのは大型本でした。郷土資料も積まれており、『長野県史』はちょっと欲しかったかも……。
そして店の中へ。店は3本の通路で、中央は文学関連。右は郷土資料。左は……ちょっと見ることができませんでした。より正確にいうと、全ての通路には本が積まれており、6割くらい見れるくらいでした。棚の眼の前にも本が積まれているので、本を取るのはかなり苦労します。ただこういうところほどお宝はあると思ってしまうのです。根拠はない。あくまでも個人的経験からです。
本を選んで会計、の前に連絡を入れた人物であることを明かし、話を伺うことができました。今回ここを訪れたのは、松本の古本屋の調査が目的でした。ヤマトヤ。松本に大正時代からあった本屋。調査対象はこの本屋です。この前月に長野に行ったのも、善光洞の初代店主がヤマトヤの出身であったためです(本当は鉄道開業150周年JR東日本パスの消化も理由です)。
店主からは「しばらくして東京に出てしまって、戻ってきたらヤマトヤがなくなってたからあまり話せることはないんだけど……」と言われましたが、ヤマトヤについては「うちの2軒隣、古物屋やっているとこがヤマトヤだよ」と教えていただきました。そしてまだ当時の建物を使っている、とのことでした。このヤマトヤの位置については、翌日想雲堂にあった『松本の本 創刊号』(見本誌)の地図にて確認が取れました。
と、ヤマトヤについて事実確認ができた後(目下調査中)、ここ松信堂について。創業は1940(昭和15)年。今ある場所へは1994(平成6)年に移ったとのこと。自分が古本屋周りのネタ帳として持ってきていた『新版 古書店地図帖(1979年版)』(図書新聞)を見せたところ、「移転前の場所だ」と教えていただきました。
「最初にあった場所は「今井京染」という看板がある物件のところ(書肆秋櫻舎の近く)、その次に昭和21(1946)年に中町に移転して、その後平成6(1994)年にここに来た」とお話していただきました。1946年移転時の場所は、蔵造りの建物が多く残る中町通りの入り口部分で、今は休憩できる公園のような場所となっています。
また、『新版 古書店地図帖(1979年版)』を見ながら、「今松本で残っているのはうちとアガタくらい。三洋堂はあるけど古本はやめたはず」とも。松本でも昔からある古本屋はどんどん減っていったことがわかります。
松本の古本屋について、国会図書館で『古書店地図帖』(図書新聞)の1967年版を確認すると、ヤマトヤ、大塚書店の存在が確認でき、アガタ書房の位置が現在と異なって、中町にあったことがわかりました。
話は前後して、『新版 古書店地図帖(1979年版)』以外にもネタ帳として『長野県書店商業組合八十五年のあゆみ』に収録されている「復刻 信濃書籍雑誌商組合30年史」の名簿を見せ、店主と同じ苗字の方がいることについて聞いてみたら、「うちとは違う」という返答でした。2人くらいいたのですが、この2名についても今後できるなら調査をしていきたいところです。
松信堂書店訪問後、国会図書館にて調査を軽くしていたら、「全連ニュース」にて、松信堂先代草間貞一が1968年4月に全古書連から20周年感謝状を贈呈されていることがわかりました。また、1970年5月に長野古書組合の会計を担当、その後1972年から2年間副組合長を担当していたことがわかりました。
今回買った本は『松本のあめ市』(高美書店)と『信濃教育会編 昭和4年版 尋常小學理科學習帳 第六學年』(光風館書店)の2冊。前者は松本の郷土資料が欲しかったので購入。白っぽいと言われるとたしかに白っぽいのですが、高美書店発行の本はなかなか出回らないので、ここで確保しました。
後者については、光風館書店は上原才一郎の営む版元で、この上原は高美書店入店後に上京し独立、上原書店を開いた後に屋号を光風館へ改め、東京書籍商組合の会長までなる人物です。この人も松本に関係ある人物なので、購入しました。