以前紹介した天野屋書店の近く、いわゆる並木坂エリアにあるのが古書汽水社です。熊本市内の古本屋では比較的新しい本屋です。また、汽水社のある並木坂エリアは、西南戦争後に創業した店が多く、空襲に遭わなかったことから比較的長く営業続けている店があります。先程挙げた天野屋書店や、熊本市で最も長く営業をしている、夏目漱石や三島由紀夫も通った舒文堂河島書店が並木坂にあります。
入ってみると中央線にあるような古本屋な雰囲気、も感じましたが個人的に一番感じたのは、ちょっと神保町のボヘミアンズ・ギルドのような感じ。おそらく暖色系の照明のせいなのかもしれません。扱っている本は漫画から建築、アート、文学まで非常に幅が広いです。いわゆる郷土資料も取り扱っています。本だけでなく中古レコードも販売しており、本好きだけでなくレコード好きの方にもオススメできるかもしれません。もっとも、自分はレコードについてあまりわからないのですが……
話を聞いてみると本稿執筆時で5年。本当に新しい古本屋です。店主は首都圏から熊本へ移住してきたとのこと。古本屋の話で、自分が感じていた「中央線っぽい」という話をすると、どうやら店主は西荻窪の音羽館で働いていたとのこと。なるほどだから「中央線っぽい」と思ったのか、と納得。これまで地方都市の古本屋を回っていて、神田で修行した方をお見かけすることはありましたが、西荻窪は今回が初めてです。音羽館、近くにあったら通ってしまうような古本屋ですね……また、レコードについて自分は古本屋や本屋みたいに店舗などの知識がないため、ほんの少し調べてみると、熊本に移住する前に高田馬場にあったタイムで働いていたとのこと。ここがどのようなお店かは存じ上げないので、よく通っていた方々にご教示いただければと思います。
さて店主、首都圏から移住と書きましたが実際は神奈川県。神奈川から来た旨話す。地名を出す。東京とかの人でも示さない反応。これはかなり解像度が高い、つまり近くに住んでいた、と思ったら、自分が住んでいるところの近くに住んでいたことが判明。昔あった古本屋であるぽんぽん船や閉店してしまった高原書店の話など、熊本で神奈川近辺の話でやや盛り上がってました。おそらくこれまでで一番近隣の場所の話で盛り上がれた方です。いやはや、世界は狭いですね……居住地近く以外の本屋で共通の話題が見つかると、非常に話が盛り上がってしまいますね。
話題の感染症の話について少々聞いてみる。どうやら汽水社は店売りのみ行っているらしく、ネット販売はしていない。他の古本屋はネット販売に力を入れている(日本の古本屋も結構点数が上がっていたらし)ようですが、こちらは「そのうちやらないとな」という感じでした。店売りのみの店舗にとっては昨今の情勢はかなりしんどいのではないか……と考えてしまいます。また、一時的に店を休業するという判断もなさったようで、「地域で店をやる」ことの難しさのようなものを感じました。
市の開始状況について伺うと、どうやら現段階では熊本での交換会は実施されているようです。一時は全国的に市の開催がない時期もありましたので、かなり仕入れが大変になっていたのは想像に難くありません。熊本を再び訪れた際に、また行きたい本屋でした。立地は非常によく、他の本屋を回りながら一緒に行くことができるので、おそらく熊本に行ったらほぼ確実に訪れるような本屋でした。
今回買った本は。『本の街 神田村・兵六亭』(理想出版社)、『2000年版 全国古本屋地図』(日本古書通信社)の2冊。『本の街 神田村・兵六亭』は、神田村とタイトルについていたので購入。よくよく見ると、あれ、兵六って三省堂神保町本店のところにある居酒屋では……神保町にはかなり行ってたのに兵六、行ったことがありません。あと放心亭もランチョンも行ったことがなく、ほとんど食事はまんてんでした。
『2000年版 全国古本屋地図』は個人的に欲しかった本のため購入。この中でどれくらいの古本屋が残っているのか、当時はどこにどれくらい古本屋があったのか知るためには結構いい本だと思います。