ヴィレッジヴァンガードの決算書を分析してみた

色んな書店を見てきて思うのは、雑貨を売るのが常態化してきているということであり、その雑貨が、今までは文具周りだったのがそれ以外も含まれてきているようだということ。そこで、今日、取り上げたいのは、本+雑貨の業態で「一世を風靡した」と言っても過言ではない「ヴィレッジヴァンガード」(以下、ビレバン)について。

とはいえ、取り上げるのは個別の店舗ではない。決算書である。

なぜ決算書というと、ビレバンが全国規模のチェーンであり、かつ今まで行った東京の店舗と梅田や京都の店舗を見ていると、大体同じ商品構成だからである。見せ方も店舗それぞれで違うには違うのだが、大枠は同じであり、特に目新しさがないからである。だから、店舗ごとではなく、決算書からビレバンそのものについて迫ってみようと考えたのだ。

さて、ホームページからは、2002年から見れるのだけれど、開示の形式が違って面倒なので、今回は2004年から見ることにした。

本と私の世界-ビレバン利益
まず、粗利益(売上総利益)・営業利益・経常利益・純利益を見てみると、順調に右肩上がりで成長しており、何の問題もなさそうだ。
本と私の世界-ビレバン利益率
売上高経常利益率も、売上高純利益率も、2005年度をピークに5%強で推移している。気になるのは、粗利益率の伸びに対して、営業利益率以下の伸び率が低いことだが、これは、売上原価がスケールメリットで小さく出来るのに対して、賃金や賃借料は店舗拡大に伴って多くなるせいだろう(有価証券報告書を見てみると、販売費及び一般管理費はほぼ「給与・手当」と「賃借料」で占められている)。

次に、売上高構成比を見てみる。
本と私の世界-ビレバン売上構成比
すると、SPICEの売上が最も多いことが分かる(SPICEとはビレバン独自の雑貨の定義で、SELECT、POP、INTELLIGENCE、CULTURE、ENTERTAINMENTの頭文字をとったもののことだ)。

ここで気づくのが、SPICEの売上高比率は70%前後で安定的に推移しているのに対して、書籍の売上高構成比が2004年度と比べると半分以下に低下していることだ。・・・ん?ちょっと待てよ?ビレバンって「遊べる本屋」じゃなかったっけ?

しかも、有価証券報告書の【対処すべき課題】を見ると、(2)に「書籍構成比の低下」とある
同じ文章で「書籍をリピーター確保のための重要な商品と考えている」こと、「今後書籍の売上を伸ばす人材を育成していくことが重要な課題」であることが記載されていることも合わせて考えると、以下のようには考えられないだろうか。

書籍は売上的には重要な商品ではないが、リピーター確保のためにも、SPICEなど他の商品を売るためにも重要な商品である。しかし、書籍そのものを売ることは難しく、人材の育成も難しい。よって、書籍の売上を伸ばす人材を育成することが重要である。ここで、大事なのが、「書籍が他の商品を売るために必要である」ということだ。

有価証券報告書では、「リピーター確保のため」とだけあるが、僕はそれだけではないと考える。書籍はビレバンの目指す「モノを買うという行為そのものの楽しさ」を提供する上で重要な商品だと言えないだろうか。

では、ここでいう「モノを買うという行為そのものの楽しさ」とは何だろうか。

有価証券報告書では定義されていなかったが、僕は「店舗の提供する世界に関わること」だと思う。色んな場所で提供される、似たような商品。その商品をわざわざその店で買う理由。それは、「その店がわざわざ足を運びたい店であること」が第一番にあると思う。

「自分が関わりたいと思うような世界であるかどうか」

ビレバンだったら、それは「遊べる本屋」というフレーズから分かるように、来るだけで「遊べる本屋」であること。そして、何よりあのごちゃごちゃしたサブカル的な雰囲気。あの空気感に触れるために僕はビレバンに行くのであり、「ビレバンに行けば他の店にはない面白い商品との出会いがあるのでは」と期待するのだ。

この出会いの演出こそ商品の展示による文脈を作ることであり、ジャンルを超越した商品展開をするビレバンの真骨頂である。この真骨頂を発揮する上で書籍はとても使えるツールなのだ。何せ書籍自体が文脈の塊だし。

その文脈に沿って、周辺の商品を展開していけば、「周辺商品(コーヒーの本の近くにコーヒー豆を置くとか)は何度でも買うことが出来るが書籍は一度買ったら終わりであるという点」で、書籍以上の売上を出すことが可能なのだ。

しかも、書籍は消費に時間がかかるが、雑貨は大体が買った後の時間をつかうことは少ない。消費者にとって雑貨は書籍よりも買いやすい商品なのだ(これは当たり前か)。だが、そうは言っても売ることが難しい商品である書籍は、上述したように「遊べる本屋」で「モノを買うという行為そのものの楽しさ」を提供するビレバンにとっては力を入れなければならない商品である。

書籍を中心に文脈が発生しているからこれはもう自明だ。だが、同時に、書籍は売上構成比上の数字だけ見ると足を引っ張る存在でもある。実際、「本屋なのにごちゃごちゃしていて宝探しみたいで面白いから」「ただの本屋じゃないから」こそ、行っているという面は大きいと思うが、本を買う人はそんなに多くないのではないだろうか(僕の場合、ビレバンで本を買うことはほぼなく、買うとしたらCDか雑貨だ)。

今後、「遊べる本屋」として、あくまで書籍を置くことにこだわるか、それともよりSPICEに特化し書籍に依存しないでPOPなどで商品間の文脈を形作ることにするのか。まだまだ成長しそうな勢いのビレバン。今後の事業展開において、書籍をどのように扱っていくのか。僕としてはどうにかして書籍の売上アップをして欲しいが、楽しみである。

さて、その他でビレバンの成長に関係しそうなことを見ていく。

結論から言ってビレバンの成長は「人材育成の成功」によって支えられていると思う。説明していくと(有価証券報告書はこちらからどうぞ)。

ビレバンのおもちゃ箱のような魅力的な店作りは、全て「店長によって商品構成等が決められること」と「店員によるPOP作り」によるものと思うが、ビレバンはそれらを行う人材を採用するにあたって特徴的な方法を取っている。すなわち、「アルバイト→正社員」が通常ルートであることだ。

「4【事業等のリスク】の(3)人材の採用及び育成方法について」をまとめると以下のようになる。

 「お客様の中から強く希望する人をアルバイトとして採用し、OJTで教育を行っていき、充分に成熟した者を正社員候補と認定し、その中から実績を残したものを正社員とする。登用までの期間は平均で4年」
「これも店長に仕入や商品構成などを店舗運営に関わる大部分の権限を委譲しているからで、そのために、OJTが非常に重要で、その分、人材育成の失敗は店舗の失敗に直接つながる」

つまり、人材育成戦略の良し悪しで会社そのものの行く末が決まるといっても過言ではないのだ。ところが、ここに面白いネタがある。何とビレバンのアルバイトの時給は概ねその地域の最低賃金だというのだ。

え?これで人材とか育つの?やる気出るの?

正直、疑問に思ったが、よくよく考えてみると、なかなかうまい方法なのかもしれない。有価証券報告書によると、アルバイトに採用するのは「お客様の中から強く希望する人」としている。この「強く希望する」度合いを判定するのに最低賃金を使っているのだ。「安い給料だけどそれでもいいの?」って話だ。デザイナーやクリエイター関係の人が搾取されるのと同じ構造だ。

まあ経営者からすれば、小売において最も費用を食う人件費を減らす上でも、「最低賃金」で人材をフィルタリングできるという点でも良いことばかりなので、合理的選択だといえる(賃金上げて、「そこまで好きじゃないけど家から近いから来た」程度の認識の人材が来たときに人材育成がキーであるビレバンの場合、費用対効果が悪すぎることになるので仕方ないとは思うが)。

だが、これも拡大中だからこそ有り得る選択肢のわけで、万が一成熟したときには同じことは出来ないだろう。最低賃金でもあの良質なPOPや商品構成が可能なのは、ビレバンが「楽しそうで自分もやってみたい」と思わせる店作りをしているからだ。

これが店舗の拡大余地がなくなり、客に飽きられた時、どうなるか。香港にも進出しているし、しばらくは拡大傾向のままだとは思うが、「店舗ごとに違う」とは言いながらも、「違うのは商品の見せ方だけで中身はほぼ同じだ」という感が僕は否めず、そういう傾向が続いたときに、ビレバンの尖った感じが無くなり、飽きられてしまうのではないかと懸念している(実際、僕は最近飽きてきてあまり行っていない)。

ところで、ビレバンの人材育成の方針が2004年度の決算とそれ以降の決算で違うことが分かった。2004年度では「会議の場を増やし積極的な人事異動を行うことで社内の購入と多様な経験の蓄積」を志向していたのが、2005年度以降は「人事異動」という文言が消え「「トップマネジメント体制」になり、マネージャーの店舗視察と会議の場を増やすことによる情報交換」になった。

さらに、2010年度になると「会議の場」という文言が消え、「エリアマネージャー制を刷新し、営業推進部の2チーム制を導入。「きめ細かな指導と商品開発競争の加速」」を志向するようになった。

以上のことは、店舗の拡大により人材マネジメントのやり方を変えてきたということを示しているが、面白いのが2004年度から2005年度にかけて売上高が急に伸びたことだ。これは、つまり、「トップマネジメント制」の成功であり、人事異動よりもトップダウンの指導がビレバンにおいては有効であったことを示している。

このトップマネジメント制のせいでどの店舗に行っても「ビレバンっぽさ」があるという統一性が生まれたのだと思うが、どこに行っても同じような商品構成というのは同時にビレバンらしさの一つである「店舗ごとの個性」を相殺している面もあり、ファンだった者(今も好きだけど)からするとやはり寂しい。

とはいえ数字では成功しているようなので、この方針は変えることはないだろうから、僕は2010年度からの商品開発の加速に期待していたりする。新しい商品が増えれば今、僕が感じている「飽き」も軽減されると思うのだが…どうだろうか。

結論として、僕はビレバンが長期的に生き残るためには、もっと店舗ごとの特徴を押し出すべきであり、店舗ごとに売り出すオススメ商品ももっと変えていったほうが良いと思う。

上述したようにこういうお店は飽きられたらおしまいなので、どの時点で「店舗ごとの差別化をより進めるか」僕はそこに期待したい。ただ、しばらくは人材戦略を規模によって変えつつも今のままだろう。なんせまだまだ成長中なわけだし。

きっと日本国内での拡大余地が少なくなってきた時にどう出るのかが次の壁になるんだろうな。あ、ちなみに「僕がこうなって欲しい」という願望が入っているので、冷静に見たらただ成長途上というだけかも。ただ、これからは地域ごとに個性化をかなりしないと無理だと僕は思うんだ。

ネットがあれば事足りる時代になりつつあるんだし。特に都会では町ごとに変えていかないと「あそこのと一緒だよ?」と思われちゃうと思うんだが、どうなるかはこれからのお楽しみということで。

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