書店探訪記第15弾は京都銀閣寺から徒歩15分ほどの場所にある新刊書店「ガケ書房」(2011.5の記録)。
まとめ
まず、時間の無い方のために手短にまとめたものを書いておく。
- 品揃え:マニアックだけどセンスの感じられる本(特に絵本とコミックがオススメ)。先日の「三月書房」とは違った意味で、発見をさせてくれる店。
- 雰囲気:カフェ系の音楽が流れており居心地の良い読書空間といった感じ。
- 立地:正直、行きづらい(河原町からトータルで30分くらいかかるし)。自転車が多かったことを考えると近所の人が良く来ていそう。
- 備考リンク:
ホームページ
店内のレイアウトやテナントを貸している古本屋の紹介、イベントの紹介、ネット通販など盛り沢山なので覗いてみると良いかも?
「コンセプトとしては人のうちの本棚みたいな感じをめざしていますね」確かに人の本棚を覗き見しているかのような楽しさがある。恵文社一乗寺店の「お店探訪」
「一般誌もミニコミも区別なく並んでいるのがおもしろい」そのぐちゃぐちゃ感が素晴らしい!女子の本棚「京都が誇る名物書店、『ガケ書房』で喫茶体験」
営業時間12:00 ~ 22:00 元旦のみ休み(ライヴある日は通常営業は午後6時まで)
でんわ 075-724-0071 (ナニヨ オールナイト)
ファックス 075-722-9403 (ナニッ クルシイオッサン)
車…ちょ…くるま!?
新刊書店としたが店内には古書もあればCDや雑貨もあるお店。というか古書のスペースが割りと多いことを考えるともしかしたら古本屋といってもいいかもしれない。
さて、ガケ書房は京都の中心地からは遠く河原町からバスで20分ほど銀閣寺道というバス停で降り(僕は5系統のバスを使った)5分ほど歩いた場所にある。てくてくと歩いていると小石を積み上げたような外観の異様な建物が見えてくる。しかも、良く見てみると車が店に突っ込んでいるではないか。一体どんな店なんだ!? と思って覗いてみるとそこが「ガケ書房」だ。
秘密基地のような入り口を抜けると中は案外落着いた感じで結構広い。眺めているとなぜか平台に量りが置いてあったり左手には雑貨やCDが置いてあったり右手には絵本や雑誌と一緒に雑貨も置かれていたり。何がなにやら分からないがなんとなく面白そうだ。店舗の形は歪で凸型に近い。
レイアウトを書いていくと入って正面に平台がありレトロな量りに「本日のガケ本」と貼り紙がしてある。そして、その前に店主がセレクトしたのだろう品揃え本が平積みされている。そのまま平台の奥に棚が2列(棚6つ分)、通路を挟んで奥にまた2列(棚4つ分)だ。
ちょうど目の前にあることだしそこから見て回ることにした。
本を楽しみ尽くすコーナー
手前の2列の棚に挟まれた通路は「本を楽しみ尽くす」コーナーとでも言えば良いだろうか。ここのコーナーの品揃えは僕としてはかなり嬉しかった。
具体的に述べていくと森見登美彦、長野まゆみ、西加奈子、山本風太郎、穂村弘などの新刊文芸や詩、本についての本、日本語の本、製本の本、『本の雑誌』、『本の手帳』という冊子、『sanpo magazin』、『ウィスキーボイス』という冊子、『シュナの旅』などなど。小説や詩を中心に本についての本や雑誌、京都の歩き方的な本も置いてあった。
マニアックなコミックコーナー
さらに奥に進むとそこはコミックコーナーだ。奥の棚2列と取り囲む凸の出っ張り部分の壁が左の壁を除いて全てコミックコーナーになっている。しかも、品揃えはマニアック。
具体的に言うと五十嵐大介や諸星大二郎、山川直人などサブカル系の本がメインで、さらに、自費出版なのか小出版社の本なのか分からないが、葉山嘉樹という人やmakomoという人、セミ書房という出版社の漫画雑誌『架空』などが置かれている。
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五十嵐大介や諸星大二郎、山川直人などはビレバンでもよく見かけるのでそこまで珍しくはないがその後については全く見たことがない。お金と時間があれば読んでみたいような版画で作られたコミックもあった。
さて、店舗の一番奥まで来たのでこのまま左折して見ていくことにする。
絶版SFコーナー
すると、真ん中の棚の裏側は同じコミックだが店舗凸の出っ張ってる部分。一番左奥の壁棚には海外文学や絶版SFコーナーがある。この絶版SFコーナーはかなり好きなので知らない本ばかりのためワクワクしてしまった(もう少し懐に余裕があれば!!)。
デザイン・アートとマニアックCDと雑貨
そのまま店の入り口側に向かっていくと「本を楽しみ尽くす」コーナー棚の裏側にインテリアや絵などデザイン関係の本が雑誌も含めて飾られておりその正面にはCDコーナーが3列(棚6つ分)、凸の左肩の部分には映画や芸能、落語などのコーナーがある(ここにはDVDも一緒に置かれている)。
そして、聞いたことのないようなミュージシャンばかりのマニアックなCDコーナーを抜けるとCDコーナーの一番入り口側にポストカードが並べられており後は雑貨と古書コーナーだ。
雑貨は大きな平台の上にアクセサリーやバッグ、Tシャツ、クリアファイル、ポーチ、コケシ、カルタ、CDなど何でも置かれておりどれもが小さい事務所のオリジナルブランドのようなものばかりだ。
京都の世界的ミュージシャントクマルシューゴ
ここで一つ発見があった。
僕の好きなミュージシャンである「トクマルシューゴ」がボーカルをしていたバンドのCDが置いてあったのだ。名前を「GELLERS」と言い、僕は全く知らなかったが知る人ぞ知るバンドらしい。とりあえずそっと手を伸ばし購入を決めた。
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場所貸し古書屋さんと返本間近の本たち
古書については足元の段ボール箱とCDコーナー横の壁棚2段分に並べられており一つ一つの箱、棚一段一段を別の店舗が出しているらしい。段ボール一箱、棚一段につき一つのグループで「ねこのかい」、「読書部」、「古書コショコショ」といったグループが古書を販売していた。また、上を見上げると小劇場のフライヤーやTシャツが吊るされており足元を見るとデザイン関連の棚の横に段ボールが置かれている。
古本かと思って覗いてみると「返本間近の本たちです」と書いてある…マジっすか!? この置き方は斬新だ。何でもありの雰囲気だからこそ出来る荒業だろう。
さて、これで店の入り口に戻ってきた。
雑誌・絵本コーナー
店に入ってすぐ右手にはカウンターがあり周囲に小劇場やライブのフライヤーがみっしり置かれている。カウンターの中には可愛らしい女性の店主が中で何やら作業をしていた。
雑誌・絵本コーナーはカウンターの目の前である。天井まである面陳用の3段の棚が2列ありカウンターから見て左手の棚外側に京都特集の雑誌や本屋さん特集の雑誌が。真ん中の通路側にBRUTUSやpenなどオシャレ系雑誌が。振り返って右の棚にも同じような雑誌が並んでいた。
右手の棚外側は他の棚と違って主に絵本が置かれている。あまり見たことがないような(と言っても絵本はあまり見ないので知らないだけだと思うが)ものばかりが置かれていたのだがそこで気になった絵本があった。
字のない絵本『アライバル』
字のない絵本『アライバル』である。帯に「字がない」と書いてあるので、どんなものかと読んでみると
む…
むむむむむ…
気づいたら最後まで読み終えてしまった。この絵本、絵の綺麗さ、世界観、構成、何を取っても最高である。まず、字が全くないため絵ですべてを表現しないといけなくなる。それでいて何が起こっているか分かるのだ。すさまじい表現力である。しかも、舞台は全くの異世界で見たこともないような生物や植物、町、歴史が全く文字を使わないで表現されている!! 完全に一目惚れしたので購入。連れへのプレゼントとする。どんな反応をしてくれるのか楽しみだ(結果は良好だった)。
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雑貨とハードな古書
さて、雑誌・絵本はこれだけで凸の右側の下辺、カウンター右手の壁棚には手前から古書、旅・紀行、酒、食(食に特化した古書コーナーも)、手芸、宗教系、サブカルといった並びになっており適度にバッジやキーホルダーなどの雑貨も配されていた。
この中で特に気になったのが古書だ。
ここのコーナーの古書だけは高価なものを扱っており「古書ヴァレリイ」というところが8,000円の『虹男』という本や25000円もする『アンドロギュノスの裔』とい本があった。ライトな古本だけかと思ったらこういうのもあるとは侮れない…!
棚貸しの古本屋さん
最後に、また入り口まで戻ってきて入り口前の2列の棚の右手外側を見ることとする。
ここは本棚を使った一段貸しの古書コーナーとなっており「きりりん堂」や「風博士」といったところが思い思いの本を出品していた。その中で僕としては古書店に関する本が何冊かあった段(出品者は忘れてしまった)が、良かった。
贅沢なスペースの使い方
さあこれで店内を全て回ったことになるが見ていて驚いたことがある。ほとんどが面陳されていたことだ。
個人でやっているにしては広いとは思うが大型書店と比べようもない広さでこの決断は店の特色を強く打ち出すことに成功していると僕は思うし、主の気持ちを感じることが出来ると思う。英断だと言えるだろう。
これまでは品揃えとレイアウトを中心に書いてきたが「ガケ書房」の魅力はそれだけではない!
手づくり感の強い店
真っ黒な棚や壁に落書きや貼り紙がされているのである。コミックコーナーだったらキャラクターの絵が書かれていたり複製原画が飾られていたり。他の場所にはポスターやポストカード、さらには「やきめし新聞」という謎の手書き新聞が張られていたり。さらには雑誌・絵本コーナーの近く凸の右肩部分の壁にBBSと題して自由に書き込める模造紙(まさに掲示板だ)が貼られていたり。
とにかく手作り感の強い書店なのだ。
しかも、立ち読みなど含めて全部で一時間近くいたのだが店主に客が3人ほど来て商品の搬入のことや商品を置かせて欲しいといった依頼をしたり近くのイベントの話をデザイナーらしき人と話していたりと人とのつながりも多いことが分かる。きっとこの地域の文化の発信源として一定の機能を果たしているのだろう。
地域に根付いたアイデア本屋さん
僕が訪れた時は何もなかったが、ホームページなど色々検索してみるとちょこちょこイベント(オープンカフェをやってみたり店内ライブをしてみたりなど)を行っているみたいだし。そう考えると小出版社の本があったり手作りの雑貨が置かれていたり小劇場のフライヤーがあったりすることも納得できる。
また、棚などのスペースをテナントして貸し出すというサービスも新鮮だ。実はこの棚を貸すというアイデア。僕も考えていたりしたのだがガケ書房が当たり前のように先にやっていたわけで、やはり自分が考えるようなことは誰かがもうやっているものなんだなー、と少しだけ悔しさを感じた。
しかし、ガケ書房なら良いかも、と思ってしまえる驚きと発見に満ちた書店だった。