下北沢本屋事情
下北沢に本屋が増えていることを知っているだろうか。
つい2年前にできたばかりのB&Bや同じ頃にできたJuly Books、気流舎などここ何年かで独立系本屋が下北沢に増えてきている(ピリカタント書店やフィクショネスのようにその陰で閉店するお店ももちろん多い)。
今回、お邪魔した「クラリスブックス」はそんな中、去年の12月に開店した店である(これは2014.5.4の記録)。
まとめ
時間のない方のためにまとめです。
- 品揃え:幅広い品揃え。思想・文学、写真集、映画、SFが強め。
- 雰囲気:ラフなギャラリーの壁に本棚を置いたらこんな感じかなという雰囲気。
- 立地:下北沢駅から徒歩5分程度
電話:03-6407-8506
営業時間:平日12:00-20:00、日曜祝日19:00 定休日:月曜日(月曜日が祝日の場合は営業いたします)
URL:http://clarisbooks.com/
Twitter:https://twitter.com/clarisbooks
Facebook:https://www.facebook.com/clarisbooks
スリーマンセル古本屋
クラリスブックスは3人体制で本屋をやっている。アルバイトではなく全員がクラリスブックスの開店メンバーだ。
この「3人でやる」ということが店の品揃えにちょうど良いバランス感覚を生み出している。担当がそれぞれ分かれており幅広い品揃えながら深さもある。クラリスブックスの良いところだ。
神保町→下北沢
面白いのが店主・店員の来歴である。話を聞いてみると以前は神保町の某古書店で働いていたらしい。そこで一念発起し先輩後輩を誘って開いたのがクラリスブックスというわけだ。
元神保町というだけあって時折、オシャレな店内と比べると不似合いな古書が並んでいたりするのが面白い。
レイアウトとアドレス
レイアウトを説明しよう。クラリスブックスは下北沢一番街にあるギャラリーHANAの2階にある。通りから外れた場所に見える「本」の文字に誘われてビル横の階段を昇ると到着だ。
店舗の外にまではみ出た本棚。入り口は狭いが奥に向かって開けており突き当たりの窓が気持ち良い。壁はほぼ本棚で一部テーブルなど違う什器を使うことで飽きさせない工夫をしている。店舗中央にも1列の本棚。レジは入り口すぐの通路が開けた際に右脇にある。つまり、入り口からしばらくの壁で隠された右の空間が作業空間というわけだ。
品揃え
さて、品揃えの紹介に移る。まず、クラリスブックスには特に均一棚はない。2階のちょっと通りから外れた場所にあること。さらにそんなに広くないことから値段ではなくオシャレな雰囲気と単価で勝負してるとのこと。とはいえ、意外とお買い得な本も多いのが素敵だ。
入口前の階段棚
階段上がって突き当たりにはノンジャンルの本棚。伊坂幸太郎や歌野晶午、安岡章太郎、宮城谷昌光、新田次郎、旅行雑誌『ことりっぷ』、福田和也など小説を多めに何でもある。
入り口すぐの通路
雑誌と文庫、なんでもあり
店舗に入ってクラシックを聞きながら落ち着いた気分で棚を見ていく。右手はすぐ壁で一部本棚となっておりしばらく続いたあとレジカウンターとなって終わる。一部本棚には雑誌だ。『スタジオボイス』、『暮しの手帖』、『SWITCH』、『BRUTUS』、『芸術新潮』、『映画秘宝』などである。
左手は一直線に突き当たりの窓まで本棚と途中から机を置いてリズムのあるディスプレイとなっている。手前から5本は外の本棚と同様にほぼノンジャンルだ。雑誌も若干あるが岩波文庫、ちくま文庫、講談社学術文庫、光文社古典新訳文庫など文庫が多い。最下段に図録が混ざるくらいである。
『民族の世界地図』、『日本映画 ぼくの300本』、『ロビンソン・クルーソー』、チェーホフ、カポーティ、『おっぱいバレー』、堂場瞬一などなどなど何でもありだ。
デザイン、写真集、図録
6本目に大判本のデザイン書や写真集、図録で7本目がガラスケースである。中にはサイン本の展示だ。アラーキーや鈴木心、栗津潔、川内倫子、ホンマタカシなど新旧取り揃えているのがさすが元神保町勤めである。
開けた空間 左辺本棚は続く
左辺の本棚はまだまだ続くが8本目あたりから空間が開ける。今までの通路が狭かったので開放感が気持ちいい。
ファッション、現代アート
8本目9本目はジャンル分けを示す仕切りがある。ジャンル名はファッションと現代アート。
ファッションは『20世紀のファッション』や『VOGUE』などで、現代アートは『世界の、アーティスト・イン・レジデンスから』、『芸術家起業論』、横尾忠則などだ。
机で外光を確保
この奥は机を什器としている。窓を邪魔しないような配慮なのだろう。やはり陽の光が入ってくると嬉しい。
洋書、zine、絵本
机の上に乗っているのは洋書やzine、雑誌『spoon』、絵本である。見たことのない本だったので一度見て欲しい。
店舗突き当り
店舗の突き当りにももちろん本棚だが、ここのは少し背が低い。机と同じで窓のためだろう。先程より大きめの窓が気持ちいい。
自然・冒険・探検、出版・メディア
ここには「自然・冒険・探検」コーナーと出版・メディア関係の本である。
自然・冒険・探検は『イニュニック』、『虫の宇宙誌』、チャイルド科学絵本館シリーズ、『Free & Easy』などで、出版・メディアは『Get back SUB!』や『平凡パンチの時代』、『貸本マンガ史研究』、『SFマガジン』、『恥知らずのパープルヘイズ』などだ。
映画と幻想小説
窓のすぐ隣には「もう我慢しなくていいんだ!」とばかりに大きな本棚だ。面陳を多用して映画の本や古い幻想小説、ロレンスの詩集セットなどが展示されている。
店舗右辺
店舗右辺には壁沿いに本棚が4本ある。
日本文学、海外文学、キリスト教、文化史・人類学、哲学・思想、本の本
ジャンルはこういったところだ。
日本文学で種村季弘、金井美恵子、荒川洋治、中上健次、司馬遼太郎、平野啓一郎、澁澤龍彦、稲垣足穂など。
海外文学ではボードレール、バルザック、ロレンス、『ユリシーズ』、マーク・トウェインなど。
キリスト教は『異邦の身体』、『アレゴリーとシンボル』、『聖書』など。
文化史・人類学には『イタリア現代思想への招待』、『神秘哲学』、吉本隆明など。
哲学・思想は法政大学出版、シリーズ現代思想ガイドブック、『現代思想の冒険者たち』、『夜戦と永遠(ハードカバー)』、『群島-世界論』、『孤独の哲学』など。『夜戦と永遠』のハードカバー版があるのが少し嬉しい。3年くらい前に読んだんだよなあ。全く理解できなかった(笑)
本の本は『古書彷徨』、『書物憂楽帖』、『ブタペストの本屋』、『菊池君の本屋』など。
右辺はこれで終わり。すぐ隣はレジカウンターである。
店舗中央の本棚
最後に中央の本棚を見よう。高さは腰くらいで2本を背中合わせに計4本。両端にも1本ずつ並べている。ここでひとつの島が形成されているのだ。
持ち込み作品、ディズニー、村上春樹、料理、ドストエフスキー、パリ、音楽、映画
以上のようにここのジャンルは多様だ。一番目立つ位置には持ち込みであろうCDに美術手帖。左回りにディズニー関係書、村上春樹、料理の本(200円〜)。一番奥の棚にはドストエフスキー関係書とパリの本。入り口から見て右側には『グレン・グールド論』など音楽本と『キューブリック映画の音楽的世界』や『キャサリン・ヘプバーン自伝』など映画本である。
本を売って生きていく
これでクラリスブックスはすべて見終わった。いかがだったろうか。
神保町出身だからといって昔ながらの古書店のように頑固一徹というわけではない。まさに「古書」と呼べるようなマニアックなものは少なくむしろ新し目の本が多い。お客さんから持ち込みも置いているようだし読書会やトークショーなど店にひとりでも多くのお客さんが来るような仕掛けも用意する。SNSの活用も熱心だ。神保町とはお客さんの種類が全く違うから試行錯誤しながら下北沢という街と向き合っている。そうやってクラリスブックスは「面白い本を読んでもらいたい」という気持ちを柔軟に伝えようとしている。
「本を売って生きていく」
店主の言だがまじめにこの思いを実現するために商売をしているのだ。読書会などイベントもあくまで「本を売るため」なのである。もちろん他の本屋も同じことを思っているだろうけど、自分の耳で直にそういうことを聞けたことは嬉しかった。ファンになってしまいそうである。クラリスブックス。かっこいい古本屋だった。