電子雑誌トルタル第3号に書かせてもらいました!
本ブログでたびたび出てくる「働くキュレーターLAB」。これは下北沢の素敵本屋B&Bにて約2ヶ月間にわたって開かれたゼミでした。広告批評最後の編集長・河尻亨一所長が思うキュレーター的活動を行っているゲストを招き、活動内容や思いを聞いていくというものでしたが、聞くだけではなく毎回出される課題でキュレーター的スキルを身につけ、さらには、キュレーターとはどんなものか? どうやって仕事に繋げていけば良いのか? を考えていく。最後には行動に繋げていくというものでした。
6万円という高額の受講料にもかかわらず20人弱の年齢経歴全く違うメンバーが集まり、毎回B&Bでその後の飲み会で自分の興味のあることこれからやってみたいことはたまた馬鹿話を話しました。すでにゼミの期間は終わっているのですが、繋がりは途絶えずむしろこれから働くキュレーターLABがスタートするかのような。まるで今までのゼミが長い研修期間だったかのような次につながる有意義なゼミでした。
前置きが長くなりましたが、このLABの1回目の授業でインタビューをした古田靖さんが編集長をしている電子雑誌トルタルにその時のご縁もあって書かせて頂くことになりました。その名も「本屋好き!」。本ブログでの本屋探訪記を元に本屋に関して書いていく予定です。公開から既に3カ月が経とうとしているので本ブログでも公開することにしました。僕がなぜ本ブログを運営しているのかを書いています。執念にも似たこの書き方をするのはなかなか骨が折れることなのですが、そんな作業をなぜやっているのか。その理由がこれで分かります。良ければ読んでやって下さい。ついでにDLしてくれると嬉しいです。
本屋好き!
小さい本屋を回っている。立地、レイアウト、BGM、店主、本棚の構成、品揃え。執拗に舐めるようにその店のことをメモに取ってブログにまとめる。広かったり好きになったりした店だと2時間は店内でメモを書いているから、店側からすると余程変な客に見えるだろう。恥ずかしい気持ちもなくはないが気にしないことにしている。
「棚の配置はなぜこうなのか」
「BGMはなぜこの曲なのか」
以前に見た店と比較しながら考えていく。すると、そのうちに答が分かったような気がして嬉しくなる。本屋に勤めたことなんて一度もないから本当のところはどうだか分からないけれど。
真夏のうだるような暑い日にビルの3階とかに入った目立たない小さい本屋を探して歩いているとふと立ち止まってしまうことがある。自分はなぜこんなことをしているのか。クーラーのきいた部屋で読書でもしていれば、こんなに惨めな気分になることなんてないのに。いったいぜんたい何だってこんなことを。だいたい自分が書いている零細ブログなんて見ている人なんてほとんどいない。そんなことは大手検索会社の分析システムがまざまざと見せつけてくれる。イチイチ確認してるのはもちろん自分だけども、それにしても憎たらしいほどのリアルな数字だ。
そもそもなぜこんなことをしようと思ったのか。話せば長くなるから出来るだけ短く説明してみよう。事の次第はこうだ。
小さい頃から読書が好きだった。でも、出版関係の仕事をしようだなんて考えたことはなかった。はじめは臨床心理士になりたかったのだ。研究者になれば本に囲まれて暮らせるというのが理由だ。研究の中身はどうでも良かった。別に歴史学者でも物理学者でも知ることが仕事で、本がたくさん必要な仕事なら本当に何だって良かったのだ。ところが、気付いたらしがないメーカーの総務になっていた。そんなこと一体誰が予想できただろう。しかも、就職してから本の世界に行きたかったことに気づいてしまった。いやまったく。人生とはままならないものだ。
大学院試験に落ちて周囲を冷静に見たとき、就職活動以外の選択肢はなかった。安定した収入がなければ、近い将来、袋小路のような状況に追い込まれると確信したのだ。でも、これは予定外だった。両親が自営業者だったせいかサラリーマンになるなんて考えたこともなかったのだ。そんな考えだものだから就職活動はなかなか厳しかったのだけれどなんとか今の会社に滑り込むことができた。繊維メーカーである。本とは全く関係のない会社だ。ところが、就職活動がひと段落して自分のやりたいことに気づいてしまった。僕は本に囲まれて暮らしたかったのではないのか。そもそもなぜ出版業界を選ばなかったのか。なんでこんなこと。
「そんなこと就職活動の最中に考えろよ」
そう言われれば言い返すことなどできないのだが、なにせ時間がなかった。大学院試験に落ちたのが12月。就職活動を始めたのも12月である。自己分析なんてものは後から考えればいいと思ってとりあえずいろんな業界を志望したのだ。今でも不思議で仕方がないことに、このとき出版業界は志望から外していた。「しんどそう」というのが理由の一つだったのだが、素直に志望しておけば良かったと今は心の底から思う。
だからといって内定を辞退してもう一度就活をやり直す気にはなれなかった。這々の体で就職活動を終えたのである。満身創痍なのである。「もうあんなことはごめんだ」というのが正直なところだった。根性無しとはまさにこのことである。
それでも、本の世界には関わりたい。できれば本に囲まれた仕事をしたい。本屋になりたい。しかしうかつに転職なんてすると袋小路が待ち構えているんじゃないか。何を隠そうノミの心臓を持つ男とは僕のことである。
話がそれた。とにかく、そうやっていろいろ考えて今できることは何かと始めたのが本屋を回ることだった。本屋探訪と呼んでいるが、名前は何だっていい。今は無理でも将来、お金が貯まったときに本屋を開業したい。そのためには早いうちから情報収集が必要だと思ったのである。だから、できるだけ執拗に舐めるように回った先のことをメモしたのだが、なにせ細かくメモしたものだから量が膨大になってしまった。もちろん情報収集が一番の目的なのでそのまま貯めておくのも良いが、それは勿体ないのでせっかくだからとブログにまとめることにした。
そうやって何店も回っていくうちに本屋探訪自体が楽しくなってきた。最初は恥ずかしかったけれど、店主に話しかけることもできるようになった。運が良ければ店内の写真も撮らせてくれる。始めは古本屋だけだったが、そのうち新刊書店も回るようになった。本当に色んな本屋が世の中にはある。どうやって成り立っているのか分からないところや、従来の「本屋」という括りには収まりきらないところ。四畳半に満たない極小本屋やフロアと呼んで良いくらい広い本屋。面白くて仕方がない。もっと多くの本屋を見たくなった。教えてもらって、自分で探して、面白そうな本屋を片っ端から回る。手段と目的が入れ換わっている気がするが、とくに問題はない。楽しいのだからこれで良いのだ。
検索やフライヤー、伝手で知った本屋には基本的に行くようにしている。ただしブログに載せない店もある。紀伊国屋やジュンク堂書店など大手チェーン店だ。理由は簡単。自分でやれない本屋だからである。そもそもの目的は「本屋開業のための情報収集」なのだ。紀伊国屋やジュンク堂書店などという大きな本屋は自分でやることはできない。よしんばチャンスがあったとしてもやろうとは思わない。僕はできるかぎり自分の意思が行き届いた本屋がしたいのだ。関係者が増えればそれだけ調整事は増える。それはそれでできることはあるのだろうけれど、僕はもっと好きなようにやりたい。
だから、できるだけ小さい本屋を回ることにしている。店主の意思が隅々まで行き届いていたり個性がにじみ出ていたり。懐が広かったり深く掘り下げられていたり。ブログに書くのはそういう店だけだ。人間と同じでひと筋縄ではいかないけれど、そこが魅力なのだ。そんな魅力的な本屋を僕も作りたい。
縁あってトルタルに寄稿させて頂くこととなった。本屋探訪記を書き始めて早4年。ブログ以外の場所に記事を書けるだなんて嬉しい限りである。本来は依頼どおり本屋について色々と書くべきなのだろうが、今回のテーマは「+」ということで、トルタルに「+」された自分について書いてみた。次回からはちゃんと独断と偏見に基づいた好きな本屋について書いていきたいと思う。