東北の100万都市、杜の都と呼ばれる仙台。一番町というエリアに、今回訪れた昭文堂書店(以降、昭文堂と記す)はあります。一番町、というと広いのでもう少し場所の詳細を書くと、地下鉄の青葉通一番町駅からサンモール一番町を南に行った辺りとなります。
サンモール一番町には仙台の老舗新刊書店である金港堂があります。こちらは元々は明治期に創業した版元金港堂から暖簾分けで開店した本屋です。店内に入ると左側は社会科学、歴史系の専門書。右側は自然科学系の専門書。正面には郷土資料といったレイアウトでした。出版関連の本は見つからなかったので、郷土史の棚から1冊取って会計へ。
仙台の古本屋について
さて、店主との話の前に仙台市街地の古本屋について軽く書いておきましょう。ここでは比較的新しい古本屋である火星の庭や書本&cafe magellan、古書水の森、古本あらえみし、仙台で最も新しい古本屋である阿武隈書房仙台店などは除外します。
今回訪れた昭文堂の近隣には栄光社、好古堂、熊谷書店(2017年閉店)、新燈社書店の4軒がありました。現在はこの4軒は閉店しており、残るは昭文堂のみとなっています。近隣に4軒古本屋があったのは、この近くに東北大学のキャンパスがあったからでしょう。
『東北の古本屋』(日本古書通信社)には先に上げた4軒の名前があったのですが、1967年版の『新板 古書店地図帖』(図書新聞)や「仙台・福島・郡山古書店地図」(日本古書通信 第304号)には栄光社の名前が載っていませんでした。もしかすると1960年代、それ以前に閉店してしまったのかもしれません。また、五橋には萬葉堂書店があったらしい。
地図を見た限り、五橋には萬葉堂書店はすでになく、現在同名の古本屋は仙台からバスで30分くらいの鈎取という地域にあるようです。仙台の市街地に話を戻すと、図南荘、という古本屋があったようですがこちらは『東北の古本屋』では太白区にあるようですが現在休業中。この他にも清水書店という店などもあったようですが今はないようです。
店についてと昔の仙台の古本屋について
さて、ここでもう少し時代を遡るために別の資料を見ていきましょう。見るのはおなじみ(?)金沢文圃閣から出ている『出版流通メディア資料集成-三-地域古書店年表-昭和戦前戦後期の古本屋ダイレクトリー』です。
戦前の仙台には多くの古本屋があったようです。一部を紹介すると、勾当台の博文堂(『古本年鑑』では「伊藤博文堂」)、国分町(後に東一番丁に移転)の友文堂(店主の名字が伊藤のため、もしかすると博文堂と親戚関係か?)、東一番丁の無一文館などがあります。
古書通信の地図に載っていなかった栄光社は、1931年の『古本年鑑』に記載が確認できました。また、熊谷書店についても1931年頃より存在が確認できます。1928年に「熊谷信一」という人物が『古本賣買の實際知識』(昭和6年版)に載っているが、この人と熊谷書店の関係について少々気になるところです。ちなみに自分が持っている『古本賣買の實際知識』が昭和8年版であり、昭和6年版にあった古書店名簿はまるまるなくなっています。おそらく『古本年鑑』発刊が近かったので古書店や業者の名簿は『古本年鑑』に移行したのかもしれません。
他にも戦前からやっている古本屋として、図南荘の名前が1937年に確認できています。ここも少々気になるのが、図南荘店主の名字が熊谷なところです。熊谷書店と何らかの関係があったのか、それとも赤の他人なのか、調べてみたいですが資料、はないでしょうね……。
戦前からやっていた博文堂、友文堂、無一文館の3軒の名前は、戦後には見当たりませんでした。もしかするとこの3軒は終戦直前に店を閉めた、もしくは閉めざるを得なかったのかもしれません。資料がないため憶測ですが、閉めざるを得ないタイミングは、もしかすると1945年7月の仙台空襲、なのかもしれないです(あくまでも憶測であることは重ねて書いておきます)。
ちなみにここ昭文堂は、1933年に記載が確認できました。少なくとも戦前から営んでいることは間違いありません。そして今のところ、店売りをしている仙台の古本屋で一番長く営業しているところとなります。店主に伺うと、「明治33年の奥付の本には昭文堂の記述があった」とのこと。
つまり、明治からやっている本屋であるようです。具体的な書籍については伺うことができませんでしたが、ぜひとも現物を突き止めて確認したいところです。『仙台古本屋時間』や河北新報の記事でも「明治の創業」となっています。昭文堂は大正期に高橋昭文堂の名で営まれた後、関という方に引き継がれたそうです。
『出版流通メディア資料集成-三-地域古書店年表-昭和戦前戦後期の古本屋ダイレクトリー』によれば、1937(昭和12)年の『仙台市古本店分布図』で東一番丁に「関書店」という書店があったことが確認できます。この関書店を営んでいた方なのかそれとも関係者なのか、資料上ではわからないですが、たしかに「関」という名前は資料にありました。
関という方のあとは元警察だった佐藤官兵衛という人物に引き継がれ、その後に店主の父である斎藤温、そして店主に引き継がれる、という流れだったようです。店主曰く、どうやら店主の父は「警察やったのか?」と確認されたことがあるようです。
ちなみに1942(昭和17)年の資料には志田郡古川町(現在の大崎市)に高橋文左衛門なる人物が昭文堂を開いている(1944年組合脱退)のですが、これが大正年間にあったらしい高橋昭文堂と関連があるかは、現状不明です。ただ、似たような店名の古本屋があった、ことは記載しておきます。
「日本古書通信390号」の「宮城県の古本屋」には、昭文堂は「昭和十年の創立」と書いてありました。この記事が書かれたのが1976(昭和51)年なので(もしかすると1976年版の日本古書通信社発行の『古書店地図』もこの記述かもしれない、要調査)、今読んで「間違いではないか」と指摘するのはやや後出しジャンケンな感じが否めませんが……。
店主は宮城古書組合の組合長を20年やっていたとようです。こちらは『東北の古本屋』にも記述が確認できました。組合長時代は、古本屋講座など、新しく古本屋をやりたい人に向けてハードルを下げる施策をやってきていたようです。古本屋講座についてはBook! Book! Sendaiの10周年記念誌である『本があるから』に記載のある「古書店開業講座」(2009年6月、せんだいメディアテークにて実施されたようです)を担当していたようです。
本稿執筆時点で仙台市内で長く続いている古本屋は昭文堂のみとなっていますが、ここ20年で火星の庭を代表とした新しい古本屋が増えてきたり、仙台市内で古本屋の新陳代謝のような現象が見られていました。これももしかすると、店主の行った施策の影響なのかもしれません。
買った本
今回買った本は『葛西氏と山内首藤一族』(仙台宝文堂)。今回については中身というよりも版元が仙台の宝文堂だったので購入。
この版元である宝文堂、戦前(調べてみると1936年)から営んでいた老舗だったようで、販売以外にも郷土資料の出版事業も行っていたようです。本屋や出版は2007年に廃止し、学校や官公庁向けの外商専門となっているようです。現在はヤマト屋書店グループとなっているようです。
この本は1996年発行。帯には宝文堂60周年記念出版の文字が入っていました。2007年の出版事業廃止までに出版された本の目録があれば、一度見てみたいものです。