渋谷東急bunkamuraのル・シネマ2で鑑賞。
田中泯さんとの遭遇は、どこか、そう、たしかテレビの中、とある古民家の床の間で踊っているのを観たのがはじめてだった。
そのときは乏しい知識の中で土方巽の暗黒舞踏に連なる人なのかなーくらいにしか感じられなかった。土方巽と暗黒舞踏については本屋、特に古本屋を追っているとよく目にする名前でどこかのタイミングで調べてみたい観てみたいと思っていたのだが、ようやくそのタイミングがやってきたのかもしれない。それが『名付けようもない踊り』の上映だった。
しかし、他にもいろいろある中でひとつの理由だけではなかなか行動には移せないものだ。少なくとも僕はそうだ。そんな僕を映画館に向かわせたのはNHK『あさイチ』だった。なんと田中泯さんが出演していたのである。朝の忙しい時間でじっくりとは聴けなかったがその佇まい、立ち居振る舞い、言動がとてつもなくカッコよく。自分の手で自分のやりたいことを切り拓いてきた人特有の生気みたいなものを放っていた。
これは観るしかない。と、いうわけで観てきたのが2/9のことである。
(本当はもうひとつ、観に行こうと思えるきっかけがあるのだがここでは省く)
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今まであまり映画を観て来なかった自分ではあるけどもそれでも自分にとって良い映画だなと思える基準みたいなものがひとつあって、それは観ている最中に違うところに想像が行けるかどうかである。
映画の内容に集中はしているのだけれども同時に普段の生活では考えないようなイメージや繋がりやアイデアが勝手に連想される状態、といえば良いだろうか。ハリウッド的な刺激に満ちた映画よりも本作のように余白の多い映画でこそ味わえることが多い。
(ハリウッド映画が嫌いなわけじゃない。マーベルシリーズ大好きだし)
で、本作を観ながら何を考えたかというと、観終わった後にSNSにも書いたが、サバールダンスのことである。
2年ほど前から運動不足解消のために月2回くらいのペースでダンスレッスンに通っているのだけれど(ちなみにド下手である)、そのときの講師RYOさんが教えてくれたダンスだ。
映画と同様、ダンスについても僕は全然知らないがRYOさんのダンスは他の方に聞いても「変わっている」と言われることが多く、たしかに他の講師のレッスンを受けていてもそれは感じる。
振付やステップも教えてくれるのだが、それよりも根源的な「どう動いたらカッコいいか」「どういう風に体を動かしたら伝わるか」みたいなことを重視するというかなんというか。
おそらく教えてくれることは基礎中の基礎(実際リズムトレーニング超入門というレッスン名である)なのだろうけど概念がいきなり超上級というか。守破離ってあるけどいきなり離から始めるみたいなことなのである。
そのRYOさんに「バタバタしちゃってあんまり上手く踊れないんです」みたいなことを聴いたら教えてくれたのがサバールダンスだった。
この動画を観れば分かると思うが、振り付けとかステップとかそういうことじゃなくて、ただただリズムに合わせて(実際にはそれすら違うのだけれどむしろ踊り手がリズムを決めるくらいだし)、身体の赴くままに動くみたいな。
そうかー、踊りには実は決まり事なんてなくて、身体を使ってコミュニケーションするための言語なのかもなあ、なんて思わせてくれる。
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さて、ここでようやく『名付けようもない踊り』の話に戻るのだが、田中泯さんの踊る「場踊り」もサバールダンスと同じようなことを感じさせる。
その場その時に合わせて毎回違う踊りとなる「場踊り」。何を感じて何を表現してああいう踊りになるのかは外からはまったく分からないけれども、それでもなぜか説得力を感じる踊り。
サバールダンスとはスタイルも方向性も違うけど、踊りの根源的な部分を表現しているという意味では似ているのかもしれないなあと思ったのだ。
とはいえそれは直感的なことで、後から冷静になって考えてみると場踊りはもっと理性的なものだとも思うのだけれども(石川淋さんへの指導の部分とか)。じゃあ何が似ているのかというと、なんだろう? ふたつのダンスのいるレイヤーかな。
最後は気になったところを箇条書き的に書いておく。
・映画の終盤、田中泯さんが踊っている最中、よく天を仰ぐ仕草をするその場面だけを切り取って観せるシーンがある。これは田中泯さんが子供時代に「雲が消えゆく瞬間を観た」というシーンと呼応すると思うのだけれど、田中泯さんが踊りをモダンダンスやバレエから始めたということとも関係しているのかなと思った。バレエはトゥシューズまで使って天へ天へと行く踊りだと聞くし。
・子供時代に感じた木には木の、虫には虫の、微生物には微生物の、といった感じですべてのものに違う時間が流れているという体感を踊りに翻訳していくみたいな台詞があるのだけれど、坂口恭平のレイヤー論と似ているなーと思った。
そんな感じで色々なところに連想が飛んでいった刺激的な映画だった。土方巽と暗黒舞踏の本、仕入れてようかな。どうかな。