昨日は、先週の土曜日に行ったブリーゼブリーゼ「本の種を植える」というイベント(展覧会の様です)の一環で行われたトークセッション「本の未来を考える」に行ってきた。なにせ18時半開園なので、定時で仕事を終わらせてダッシュでブリーゼブリーゼへ。
7階までエスカレーターを登って、息も切れ切れに会場に着く。すると、既にコーディネーターが話を始めているところ。結構な客の入りで少々驚いたけれど、とりあえず空いている席について話を聞くことにする。
そういうわけで、今日はこのトークセッション「本の未来を考える」のまとめを書きます。まず、メンバーは以下の5人です(イベントについてはこちらを見て下さい)。
メンバー
- 大阪心斎橋と梅田にある注目書店「スタンダードブックストア」のオーナー中川 和彦氏。
- 日本で唯一のzine(ジン)専門書店「Books DANTALION」の店主。堺 達郎氏。
- 関西のローカル誌「IN/SECTS」の編集長。松村 貴樹氏。
- 「本の種を植える」のアートディレクター。黒田 武志氏。
- で、最後にコーディネーターとして、雑誌「関西ウォーカー」の編集長。玉置 泰紀氏。
以下、さん付けで書いていきます。
導入
このトークセッション「本の未来を考える」では、題名の通りのことを考えようというセッションなのですが、いきなり「本の未来」と言われても漠然とし過ぎているので、まず、具体的にどんなことを聞きたいかを玉置さんが話しました。
- 残る本とは・売れる本とは?
- ローカルで生きる本とは?
以上のことについてそれぞれの立場から語ってもらいたいとのこと。そういうことで、それぞれに語ってもらうことになりました。ここから話がお喋りになっていくのですが、前後関係を正確にすると長くなるので、人ごとにまとめて書いていきます。
「スタンダードブックストア」のオーナー中川 和彦氏
一人目は中川和彦さん。「スタンダードブックストア」という雑貨が置いてあって買っていない本が読めるカフェがある本屋という業態をなさっているということで、「「本」をどう思うか?」と玉置さんが質問。
それに対する回答ですが、要約すると、スタンダードブックストアの前は高島屋の中で本屋をやっていて儲かっていたがなぜか充実感がなかった。そこで、自分がやりたいこと=本屋をやろうと思って始めた。今の業態にしたのは、普通のやり方だと大資本に勝てないので人とは違うやり方をしようと思ったから。そして、何よりやるからには好き放題やりたかったから。(←カッコイイ!!)
自分が思うのは、スタンダードブックストアを人と人とが出会う場所にしたいということ。というか認識が「本屋」ではない。あくまで「人と人とが出会う」ための潤滑油や吸引剤として本があるというスタンス。だから、イベントに力入れるしカフェで読み放題にもする。
カフェではコーヒーで濡らしたり、中身を写真で撮っていても基本注意しない。なぜなら「それで売れない様な本を作るのが悪いと思っているから」。それに、そうやって注意し出したらキリないし楽しくない。監視みたいになるのは嫌だ。
品揃えについては、担当者の好み。他店ではPOSデータ使って売上ベスト10とか、データをもとに取次が「他店では売れていますよ」とか言ってくるけど気にしない。なぜなら他店と同じじゃつまらないから。「売れてる」を基準にしないのだ。
「Books DANTALION」の店主 堺 達郎氏
玉置さん:「ジンについて」、「店を始める経緯」などについて聞かせて下さい。
以下、堺さんのコメント要約です。まず、ジンの由来について説明(ここでは説明しませんがこちらなど参考にどうぞ)。
自分は家族が読書家だったので読書が生活の一部だった。で、本屋さんをやりたいと思っていて、でも、普通では大手に勝てないということで、自分も中川さんと同じように「人と違うことをやりたい」と思っていたら、ジンに出会って、これなら誰もやっていないということでやることにした。
なぜ中崎町かというと、今では「本おや」とかアラビクさんとか結構あるけれど、少し前まで本屋がなかった。中崎町にはアーティストが多く住んでいるので、そういう人たちにジンをつくってもらえたら嬉しいなと思ったので中崎町にした。
ジンの良いところはすぐできるところ。この「本の種を植える」でも「1日1zine」と称して当日の出来事を翌日には出版できるし、当日のどうでもよい様な小話もない様にできる。そういう良い意味でのゆるさがジンの強み。だからこそ、ジンを肴にコミュニケーションできたりする。
「IN/SECTS」の編集長 松村 貴樹氏
玉置さん:なぜなぜ紙?ローカル?
以下、松村さんのコメント要約です。
なぜ紙かというと、自分は紙に対する愛着、神聖視みたいなところがあるというのと、紙幅とかページ数とかそういう制限があるからこそ面白いと思っていてwebだと事実上無制限になってしまうから。
ローカルの理由は、関西の雑誌、特にローカル誌が減っていてどうにかしたかったというのと好きなことをやって生きていけないかなと思っていたら今の様な形になった。なので、インセクツは季刊とか言いながら実は年2.5回くらい発行になっている。あくまで無理せず楽しくやるのが基本。
ちなみにインセクツは少しだけれど黒字が出ている。ただ、このギリギリという状態だからこそ、限りある中で自分たちなりに楽しんでどうすれば良いか考える価値があると考えている。あくまで死なない程度に 笑
作る過程は、雰囲気というか熱意というか楽しさというか、会議で「これは楽しい」という雰囲気になったらやる。デザインは企画ごとに合わせて決める。期間と人数の制限の中で。
「本の種を植える」のアートディレクター 黒田 武志氏
玉置さん:自己紹介をどうぞ。
以下、黒田さんのコメント要約です。
昔は有名なカルチャー誌の編集をやっていた。そこが廃刊になって、色々やっているうちにエディットリアルデザイナーになっていた。で、今回は、自分の話よりもむしろ今の新しいローカルの動きについて知りたいので、話を聞いていきたい。
ということで、上述の3人のコメントは、玉置さんからの質問以外にも黒田さんからの質問に対する回答も含まれています。
電子書籍について
ここから電子書籍についての話をまとめます。
玉置さん:電子書籍に興味ある?→堺さん、松村さん
堺さん:興味ある。ただ、端末が高いので若者が買えないだろう。若者が買えないということは面白いものが生まれないのでは?電子ならではの試みができれば良いけど、まだそんな感じはしないので時機ではないかと思っている。
松村さん:興味あるけどアイデアがないのでまだ何かするつもりはない。今の電子書籍の様に「ただの書籍の電子化」だけじゃやる意味ないし。
玉置さん:キンドルではハイパーリンクと言って読書中に気になった単語をネットで調べられたりする。でも、これって既に読書じゃない気がする。自分たちの世代は、古典を読むときはとりあえず一気に読んだし。
堺さん:でも、ハイパーリンクできたらwebと同じじゃないか。それじゃつまらない。唯一、面白かったのはアマゾンがキンドルのネット代を持っていたこと。これは本屋に行かないでさらっと本をその場で買える体験ってことなのでそれは凄いかなと。
玉置さん:その場で買えるといえば、ジンもその場で作れるインスタント性がイイ。ただ、普通の本も今では技術革新で印刷直前まで編集ができるようになったから、作り方自体に違いは少ないかも。
ここから上述の堺さんの「1日1zine」の話になります。
それを受けて黒田さん:でも、その場ですぐ作れて出版できる(公開できる)ってそのままブログじゃない?
堺さん:いや、ネットと紙では流通が違う。ネットで届く人と紙で届く人は違う。今ではその二つの媒介にSNSがある。コミュニケーションのツールとしてネットでもリアルでも紙媒体のジンは機能している。
選書
ここまでのおしゃべりで全く「本の未来」の話になっていなかったので、一応、本の未来というか「これがあるから本はイイ!」とか「この本最高!」という本を持ってきてもらったらしく、その紹介コーナーになりました。
中川さんは以下の3冊
どれも旅についての本でした。あとはここでは画像が出ないけど「鏡の荒野」は「装丁がカッコイイから」とのこと。あえてのペラペラの安っぽい紙を使っているあたりが逆にカッコイイそうです。
堺さんはジン2冊に雑誌が一冊。堺さんも「旅」って感じですね。いや旅というよりも「異郷」でしょうか。特にポートランドのジン「スペクテイター」。中川さん選書の「グリーンネイバーフッド」もポートランドの本みたいなのです。面白い偶然ですね。米国人教師の個人的生活や意見、歴史などが詰まったジン「マザーランド」。DIYの町ポートランドの歴史が詳しく書いてある「スペクテイター」。ヒッピーが作った町クリチャニアの特集をしている「リラックス」。
松村さんは「地球の歩き方 ニューヨーク」と「インセクツ」の既刊全部。昔、ニューヨークに住んでいたことがあるらしくて、その時の思い出の本ということで。とか言いながらトークセッションに来る途中で買って来たものらしいけど 笑
行く前にも行ったときにも行った後にも楽しめるのでイイらしいです。後は宣伝。しっかりしてますなあ 笑
次が玉置さんで、持ってきたのは自分で「「これがあるから本はイイ!」とか「この本最高!」」ってお題を振ったこともあって、紙の良さ、本の良さが伝わるものということでセレクトした様です。
3冊あって、1冊目は「Yellow Magic Orchestra×SUKITA」。これはまず読むのに箱に貼られた紙をはがさなくちゃいけなくて、果たして中身を見てみると、ハードカバーの写真集が出てくる。だが、写真集と言ってもただの写真集ではない。
なんと紙が全部ペラペラの紙で、だからあんまり発色も良くない。その上、最後の30数ページが全くの白紙。ホントに何も書かれていなかったです 笑
あとがき曰くYMOがデジタル音楽の先駆者だったので、逆に本ではアナログの極致を目指したらこうなったってことらしい。紙がぺらぺらなのがカッコイイって中川さん選書の「鏡の荒野」と感覚が同じですね。
で、2冊目は岡本太郎「爆発大全」。装丁は祖父江慎さん。ご期待に漏れずこの本も奇抜な趣向が凝らされまくってます。玉置さん曰く装丁の極致だと祖父江さんが言った作品だそうな。そして、最後の何ページかはやっぱりペラペラの紙。
何でもできると最終的には原点に戻って、あえて安っぽくしたくなるのでしょうか。
3冊目は宣伝です。「関西ウォーカー」。最新号はまだ載せられないので以下の画像付きのを。
最後は黒田さんです。黒田さんも3冊。
1冊目はハマった本「宇宙船とカヌー」。2冊目はモノとしての良さを追求した本「1000億分の1の太陽系―400万分の1の光速」。これは何と書名通りのことを紙面で表現したという本。最後の海王星までの距離が長いために、この本も途中ずっと線だけのページが延々と続いていたりします。これを思いついて実際に作って見せたことが凄い!アホだ 笑 でも、こういうのは大好きだったりします。
3冊目は宣伝で、モノとしての良さにこだわって作った不純物100%。紙の質感とか実際触って確かめてみたいです。
宇宙船とカヌー (ちくま文庫)
それぞれのこれから
途中、質疑応答あったけどあまり面白いやり取りはなかったので、そこは飛ばします。で、最後に、「本の未来」とはいかないけど、「これから自分はどうやっていきたいのか」を玉置さんが4人に聞きました。
中川さん:今後も人と人とが出会って行く場所でありたい。だから、イベントとか店作りとか今の活動を続けて行きたい。
堺さん:以前、70代のおばあちゃんのジン作りの相談を受けたことがあった。そういう相談が今もある。これからそういった高齢者の人たちの本作りを開拓できたら面白いと思う。
松村さん:インセクツの作成がゴールではなくて、インセクツという雑誌を介したコミュニティが生まれたり、インセクツが刺激となって新しいカルチャー誌が生まれて欲しい。だから、今の活動を続けること。
黒田さん:若い人の邪魔をしない。今までの自分のフィールドは心地よいけど、いつまでもそこにいないで席を空けること。次のづ手―時に行くこと。そうやって自分も含めて全体でステップアップしていていければ。
そして、玉置さんが自分のことを話す。
関西ウォーカーは金が目的ではない。あくまで「情報の流通」に興味があってそのための活動。「~のオススメ店100」とかそういうつまらない特集じゃなくて、読者が利用したいと思える情報を発信していきたい。そのためにユーストリーム番組を新たにやったりもしている。どうすればうまく情報を流通させられるか。
感想
長々とすいませんでした。トークセッション「本の未来を考える」。如何でしたでしょうか。題名と違って全く本の未来にはつながっていませんでしたが 笑
印象的だったのが、参加者のほとんどが「自分がやりたいこと」をやっていること。で、それぞれ特徴的な活動をしているので、必然的に話は「自分がやりたいこと=本に関わること」の人たちが、どうやってサバイブしているかのケーススタディーになるわけで。
「本の未来」なんて大層なマクロなことではなく、もっとミクロな個別な出来事の話でした。「これから激変するであろう本の世界でどうやってサバイヴしていくか」本の世界で生きていきたい人には大いに参考になる話だったと思います。
大体、マクロな話はアマゾンのニュースとか東大・長尾館長とかジョブズとか出版クロニクルの人の本とかそういうものに答を求めればよいわけで、ここでしか聞けない話という意味で面白かったです。
好きなことを好きなようにしている人が好きなよう話す話って面白いって僕は思うのでありました。僕は…どうするか。。少しずつでも行動していかないとな。