今春、江古田に本屋をオープンした「百年の二度寝」さんの連載第五回目です。
元書店員がいかにして独立書店になったのか。第五回目はBOOKSHOP TRAVELLERに開店する前後のお話。
その5:開店しています
私と本屋との関わりを回想してきたこの連載だが、ようやく文中の時間が現実の時間に追い付いた。
今日は「百年の二度寝」がオープンして3日目。実は2月28日から「プレオープン」と言う名目で実質的に開店していたので、そこを起点に考えると約半月。28日から今日までの営業日を数えると13日目である。
プレオープンのわりにはたくさんのお客様に来ていただき、合格点と言える程度には売上もあがっている。売れる日と売れない日の差が激しすぎる、というか売上0の日が散見されるなど、不安を数え上げるとキリがないが、まずまずうまくいってると思う。
御来店いただいた方にどこでお店のことを知ったのかをうかがうと、かなりの割合のお客様が「Twitterで見て」とおっしゃる。SNSすげー、と言うほかない。
開店準備を始めた時点から積極的にSNS投稿をするようにしていたが、その際に心がけていたのは、お店を準備する過程をオープンにして、見た人達に二度寝のことを「見守り、育てている」と感じていただくことであった。
床板を剥がされた殺風景極まる状況から、床の塗装をし、本棚をつくり、本を棚詰めしていく、その光景を撮影した動画が思った以上に好評で、最初の動画に至っては一万再生をこえた。それをきっかけにTwitterアカウントをフォローしてくださる方も増え、ちょっとした投稿もリツイートしてくれるのでまたフォロワーも増えるという良い循環が出来ている。
もちろん、炎上のリスクは大変に怖いのだけど、有料の広告を出せるような資本を持たない人間にとって、SNSと言うのは本当にありがたい媒体だと思う。
お店を開くと当然の事ながら(パートナーにかなり助けられてはいるが)全ての棚を自分でメンテナンスしなくてはならない。そんな立場になって初めて気付いたのだが、本屋の棚って、本当にすぐにガッタガタになっちゃうんですね。
お客様が1冊本を買って下さると、本棚には1冊分のすき間が空く。平均程度の売上の日でも5冊は売れる(と言っても、お買い上げいただくのが500円以下の本ばかりだったりするので、売上金額はたいしたことないです)ので一冊の厚みが1.5cmほどと仮定すれば、棚に7cm強のすき間ができる。表紙を見せて陳列(面陳と言います)している本が売れると一冊売れるだけで15cmのすき間が出没。すき間が満遍なく空いてくれればいいけど、お客様の好みはそれぞれに偏りがあるので、一部の分野の棚だけスカスカになってしまうのだ。
棚の本は私なりの文脈に従って並べているので、「人間臨終図鑑」(まさかの再登場)を「ベルばら手帖」の隣に突っ込んで済ませることは出来ない。いくらストックを充実させても、空いたすき間に置くことの出来る本は無い時も多い。結果、「あの分野が足りない」しかし、「あの分野だけは大量にあるのに売れない」と言う悩ましい状況に陥ることとなる。
二度寝はそれなりに広く、品数も多いので「これだけ本を集めるなんてすごい!」とほめていただくこともあるのだけど、口ではお礼を言っていても、冷や汗をかいている。いまのクオリティの棚をいつまでも保つ自信がないのだ。
お客様はいまのところ、Twitterなどで二度寝を知った方、元々やり取りのあった方、オイルライフさんで配布したチラシを見たりたまたま通りがかって来てくれた方、と3分割出来ると思う。
元々二度寝がどんな店なのかわかっている方には、それなりに満足いただいているという手応えがあるのだが、オイルライフさん経由でふらりと入って来てくれたお客様をつかまえるのはあまり上手くいっていない。本の話をしても反応が薄く、雑貨も売ってるという事実はいまひとつ伝わらず、せっかく入って来てくれたお客様にあっという間に出ていかれるので、お客様がお店を出たあとで頭を抱えてしまうこともしばしば。
元々押しの接客と引きの接客を使い分けるのが不得手、と言うよりガンガン押す以外があんまり出来ないタイプなので、ついつい暑苦しいノリになる。そこを面白がってくださる方を確実につかまえつつ、そういう接客が苦手な方にも、せめて余裕を持ってゆっくり店内にいてもらうために何をするべきか、ひたすら試行錯誤を続けることになりそうだ。
SNS投稿がそれなりに好評なのは本当にありがたい。ただ、SNSきっかけで来店したお客様にいかに満足していただくか、もう一度来店したいと思っていただくか、こういった部分を左右するのは、接客にしろ品ぞろえにしろ陳列にしろ、まったくもってアナログな要素だったりする。
結局、よい本屋をつくるためには自前の脳みそを使って思考し、自前の身体を動かしてトライアンドエラーを繰り返す必要がある。大変だけど、面白い、すごく面白い。