BOOKSHOP TRAVELLERで間借りをしてくださっている屋号「BOOKS TBD」(そろそろ卒業)の山本さんによる、2020年実店舗オープンとそれからの連載 「ビルトングがくずれても」 もついに最終回です。
1回目は自己紹介と本屋開業の理由について、2回目はブックスモブロとの出会い和氣との出会いに続いて3回目はBOOKSHOP TRAVELLERへの出店について、4回目物件契約と続いて、5回目は内装工事など店の中身について触れられましたが、最終回は店の今後についてです。新型コロナウイルスについても若干触れられています。
- ビルトングがくずれても その1 ~元エンジニア、古本屋を目指す~
- ビルトングがくずれても その2~BOOKS TBD、和氣さんと出会う~
- ビルトングがくずれても その3 ~間借り店主をしながら考えた~
- ビルトングがくずれても その4 ~物件契約はタイミングです~
- ビルトングがくずれても その5 ~内装工事とお店造り~
ビルトングがくずれても 最終回
実は3月に一度原稿を書き上げたのですが、その後のどたばたでそのまま放置していました。ひと月の間にすっかり風景は変わってしまいました。気付けば全国に緊急事態宣言が出され、古書組合も当面休止となり、新刊書店・古書店とも大半のお店が休業を余儀なくされる状況です。当店も現在店舗営業はお休みして、急遽配達サービスを立ち上げました。普段通りの風景が戻ってくるまでにはかなりの時間がかかりそうです。
以前書いた文を読み直していて、SFでいうパラレルワールドの話を読んでいるような気分になりました。全面改稿しようかとも考えましたが、今書き直すと深刻なトーンになってしまいそうで、この春めいた、少し浮ついた雰囲気の文章がかえって貴重な気がしています。この前書きを追加して、あえてそのまま掲載してもらうことにしました。3月の3連休のころの文章だと思ってお読みください。
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すっかり暖かくなりましたね。通勤途中の川沿いの桜もちらほら咲き始めました。残念ながら今年は地元の桜祭りが中止になってしまったので、人ごみのない桜の写真が撮れる珍しい年になりそうです。お休みにはカメラ片手に散歩しようと考えています。
さて、本連載も最終回。1月にオープンして早2か月、オープン後の雑感、今後の予定を書きたいと思います。
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まずは店内レイアウト。スタート直後から大枠は変わっていませんが、頂きものの胡蝶蘭を下げ、観葉植物などの配置をアレンジしなおして、なんとなく配置がまとまりました。まだレジ机周りのスペースが一寸足りない(会計するたびにノートPCにレジのドロワーがぶつってます)ので、もうひと工夫が必要です。月末簡単なDIYでスペース拡大検討中。
友人・知人から開店祝いに頂いた本を随時出していったおかげで、スカスカだった棚もだいぶん充実してきました。そろそろ少しジャンル分けをしようかなと思っています。引き続き、きっちり区分けするのではなく、なんとなくレベルに留めるつもりです。棚をくまなく眺めて、意外な一冊を見つける出会いを楽しんでほしいので。
本の買い取りも、2月以降少しずつアピールしはじめました。今月友人の紹介でさっそく大口の出張買取が入り、記入用紙を作ったり、台帳を準備したりと査定のフローをあわてて整理しました。(古物取引法で決められているのです)
先日店舗とお客様宅を車で2往復しましたが、2階の店舗に本を運ぶのはやはり重いですね・・・まだ1/3も搬出できていないので、あと数回に分けて伺う予定です。
古書組合での仕入れもようやく少しずつ始めることができました。入札市とフリ市という、2種類の交換市がそれぞれ週一回あるのですが、とにかく参加しながら相場観を学んでいます。低い価格の入札でも、競合がいないと思いがけず落札できるなど、ゲーム的な要素もあり結構楽しんでいます。3か月の研修期間を過ぎると、東京の組合にも参加でき、日本の古本屋でのネット販売も登録できるようになるので、こちらも今から楽しみです。
買い取りや組合での仕入れで初めて知った魅力的な本が沢山あり、これらの本は店頭・WEBとも売れ行きがよく、改めて古本屋業は仕入れの充実が重要だと実感しました。古本屋にはユニクロのヒートテックのような、定番売れ筋商品はなく、ほぼすべて商品は一点ものです。多種多様な本を取捨選択しつつ、魅力があると考えた本を棚に並べていくわけですが、すぐ売り上げにつながるのはほんの一部です。
かといって同じ本を売れるまで、と漫然と棚に並べていたのではお客様に飽きられてしまいます。「売れなくても買う(仕入れる)」、そして店内の商品を動かす必要があります。したがって、仕入れ資金の確保が重要ですし、限られたスペースで在庫をどれくらい持つのか、売り上げ機会を最大化するための見せ方・入れ替え方をどうするのかに気を配らなくてはなりません。まさに試行錯誤のただなかのアイテムです。
SNSでの宣伝はまだまだ不慣れですが、Twitterの集客力の強さに感心しています。当店の場合、昔なじみの友人へのリーチにはFBが優れていますが、新規のお客様の集客にはTwitterが優れていて、タイムラインをみてふらっと立ち寄ってくれるお客様が結構います。Instagramがまだ活用できていないので、店舗HPの運営含め各アカウントの強みにあわせた訴求の仕方を考えないといけないところです。
売上は正直まだまだ全然です。お客様ゼロの日もチラホラありますし。折角和氣さんに東京新聞で取り上げていただいたのに、コロナの影響で直近は大きく効果が出たとは言えない状況です。とはいえ、先のSNS経由のお客様や、近所の方が立ち寄ってくれるようにはなりました。再訪してくださるお客様もいらっしゃって、徐々に認知度が上がってくれることを期待しています。休日の夜はそれほどお客さんが来ないので、ここに夏過ぎくらいからはイベントを組み入れられるよう、準備をしていきたいです。
4月からは営業時間を延ばして、来客数を増やしたいと考えています。ネット販売も出点数を増やして、売り上げ規模をもっと引き上げたい。お客様が来ない時間はせっせと出品作業をする予定です。直近の目標は、夏までにイベント開始して収益源を多角化することと、年内に単月黒字化達成です。周囲のお店の方との交流も少しずつ始まったので、きちんと地元に愛されるお店なっていければと思っています。5年後くらいに2店舗目を構えられるくらい発展できたらいいですね。2軒目ではお酒も出したいな、とか、夢は広がります。まずは今の店を軌道に乗せるのが先決ですが・・・
この3月末で会社を辞めてちょうど2年なわけですが、会社勤めをしていたのが遠い昔のことに思われます。個人事業主となり、すべて自分で決めて、多くの部分を自分で作業して、あれこれ悩みながらも、とても充実した日々を送っています。「(ネットで見て)一度来たいと思っていたんです」とか「また来ます」、とお客様に言っていただけるのは、とても幸せな経験です。再訪されたお客様に、前の方がよかったと言われてしまうことのないよう、日々店舗・商品の魅力を高める努力をしていきたいと思います。
最後にビルトングについて。これは、私の好きなSF作家、P.K.ディックの短篇に出てくる宇宙生物の名前です。名前は作品によっていくつかあるのですが、巨大な不定形生物で、物体のコピー能力を持っているのが特徴です。そのうちの一篇、「くずれてしまえ」(短篇集「アジャストメント」収録)という短篇では、文明崩壊した後の地球が舞台です。産業が崩壊してしまい、人々はものを作るすべを失ってしまいました。ビルトングがコピーしてくれる家や家電、車といった文明の利器を使って、かろうじて生活を維持しています。ところが、ビルトングにも寿命が訪れ、コピー能力を失って息絶えようとしています。人々が絶望に駆られる中、ある男が自作の粗末な木のコップを取り出します。いまはこれしか作れなくても、少しずつ自分の手で創り出していくのだ、との意思を込めて。
文字通り、本屋がどんどん無くなっていくこの世界で、手作りの粗末な店でのスタートですが、少しずつ、理想の本屋にしていこうという気概を込めたタイトルだった・・・のは若干後付けなのですが・・・方向性は大体あってます。
長い間お付き合いいただき、ありがとうございました。
皆さんと店舗でお会いできるのを楽しみにしています。
ワグテイルブックストア店主 山本貴史