先日行ってきたブックフェアのセミナー「いま改めて書店について考える」(本の学校出版産業シンポジウム)の第一部メインセッションのまとめを書きますよ。
午前10時からスタートなので、前日に深夜バスに乗って、翌朝7時半ごろに実家に着き、あまり良く眠れなかったので1時間ほど仮眠してそのままの参加である。セミナーが始まる前までは眠かったが、コーディネーターの永江朗さんが壇上に上がると目が覚めた。いつもだったら寝こけてしまうのに、やはりここら辺が楽しんでやっていると違うところである。
それはさておき、このセッション。永江朗さんをコーディネーターに、河出書房の世界文学全集「オン・ザ・ロード」の訳者でもある青山南さん。大学生なら卒論で必ずお世話になっているであろう「Webcat Plus」や「新書マップ」、「BOOKTOWN じんぼう」を作った国立情報学研究所連想情報学研究開発センター長である高野明彦さん。京都を中心に多くの店舗を経営し、今年2月には地方書店の生き残りをかけた会社「㈱大田丸」を興した大垣書店社長・大垣守弘さん。以上の4人が「いま改めて書店について考える」ということで、「本屋の機能を問い直す」座談会となっている。
時間は1時間半。忘れないようにメモを取ったので、本記事ではそのメモを公開する 以下、メモの内容(敬称略です)。
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- 永江=永江朗さん
- 青山=青山南さん
- 高野=高野明彦さん
- 大垣=大垣守弘さん
はじめに永江がそれぞれの紹介をする。リアル書店について語るということで、まずは青山に話を振る永江。
書店観について。
青山
- 普段は近くにある大型書店に行く
- 最近は年食って本が多すぎると目眩がするので中小書店でセレクトしてる感があるとこに多く行くようになった
- 大型書店だと売れてる本を並べているが、中小書店だど店側が売りたい本が並べているのが良い
- どんな面白い本を見落としているのかその発見のために書店に行く
- 新聞もチェックしているが現物を見たいので
- 海外の場合は大型書店は目的買いかバーゲン本
- 海外のセントマークス・ブックショップなんか小書店がセレクトしていていい感じ
- そこはアーティストや作家がいっぱいいる街にあって、そこにいるアーティストが自分の書庫と言っている程
青山の話を受けて、データベース構築の面からリアル書店の問題点を高野に聞く永江。
高野
- 大学図書館の元締めに勤めている
- そこの蔵書データベースを構築していて、これが「Webcat Plus」(最近は国会図書館とか青空文庫とかも組み入れてる)
- 「新書マップ」は「Webcat Plus」にカテゴリー分け機能をプラスしたもの
- 青山が言ったような「驚きと発見」はリアル書店のセレクトやWeb上のリストで得ている
- 神保町などにあるお気に入りの書棚のような「驚きと発見」はWeb上では現状得られないので、それを作ろうとしている
- 大変だった事は後で
高野の話が終わり、次は大垣に自己紹介を兼ねて話を振る永江。
- どんな本屋を見て育ったのか?
- 大型書店とはどんな本屋か?
- 書店経営で思う事はあるか?
- 大田丸って何なのか?
大垣
- 京都の北大路で七十年前から家族経営でやっており、始めは近くのカフェとか学校などを相手に外商のようなことをやってた
- 仕事を始めてから思ったのは、欲しい本が中々入ってこないことで、そのためにどうするかと考えた
- その結果、出版社に聞いたら出版社の売りたい本を売れば良いと言われてそうしたりなど色々対応を工夫した
- 今の様に店舗数が増えたのは、他社との競争に勝つために危機意識をもってやっていたら店舗を増やさざるを得なかった
- 大田丸は、今までにない書店の経営スタイルを模索するために作った
- 「地方書店はそうしていかないと無理じゃないか」という思い、「地方書店を存続するための仕組みを、地方書店という文化の発信源を無くさないために」という思いを具体化する為に地方書店の応援団になれるような会社として作った
これで、立場説明は終わり。永江によるまとめ。青山は、海外のインデペンデント書店とバーゲン本に注目。高野は、散在する吸引力のある書棚をどうするか 現状ではなくなりそうという危機意識。大垣は、地方書店の経験と存続のための活動を行っている。
ここから本題で。「本屋の機能を問い直す」。本屋はこれでいいのか?もっとできることはないのか?問題点の抽出によって知恵出しのきっかけ作りになれば、という意識で進めていく。
永江は本屋をモノ(=品揃え)、ハコ(=空間としての本屋)、ヒト(=人材)、コト(=イベント、コミュニティの核、場としての本屋)という4つの軸に分けてかんがえる。永江は、まず青山にモノという軸から考えて現状の本屋の「品揃えについて、求めていること」を聴く。
- Amazonは海外本を買うのに衝撃的だった
- それまで五、六ヶ月かかるのが今じゃすぐ(欲しいモノが分かっていれば超便利)
- それとクリスアンダーソンによるロングテールも凄いし画期的
- そう考えると、リアル本屋に大量の本は必要ないのでは?
- たくさんの本屋にたくさんの本があるのはアリだけど、一つの本屋にたくさんの本はもう意味が無いのでは?
- 少なくとも自分はセレクトされてる本屋の方が好き(店主による好みとか偏りとかが分かって良い)
高野
- 「BOOKTOWN じんぼう」の経験から、古本屋ではそもそも全部揃えるのは無理(170店神保町の古本屋 全部で一千万冊あるし)
- 新刊書店で新刊を買うときは、新刊の元となるような本、本と本のつながりが分かる棚になっていない(そういう棚があれば新刊の魅力をより引き出せるのに)
- 自分は、それをリアルではなくバーチャルで実現しようとしている
- 青山の言うように目的買いはAmazonで事足りる未来になりそう(これは僕の妄想…著者の新刊を売り出すときに著者に新刊を売るための本棚をバーチャルで作ってもらうのはどうだろう?)
「二人の意見を受けて現場の意見は?」と大垣に聞く永江。
大垣
- 数は力という思いがあって大きな書店を作った結果、ターゲットはかなり広まったし手応えはある
- でも、青山の言うように大きな書店は疲れるとか不満を言われる(店が小さいと品揃えが悪いと言われるけど 笑)
- 専門書店は個人経営だからできる(でも、ふたば書店(特に京都マルイ店)は理想的かも)
- しかし、大型書店は、それだけでなく一般書を買うような一般客の要望に応えるのが仕事だと考えるので、七割方に満足してもらう書店を目指している
- 「専門の前の入り口として機能すれば」、それが地方書店の役割
- しかし、やっぱりAmazonは脅威
- そこで、取次と相談して物流を革命した(在庫管理、補充が六割だったのが、欠本処理しないといけなかったのが、今じゃ九割になった)
永江:やっぱりカッコいい本屋だけだと存立させるのは難しいか?
青山
- 初めはイイけど、維持は難しいと思う(特に棚の質を保つのが難しいし、人を雇えばさらに)
- だから自分たちの役割ではないと思っている
- 自分たちの役割は子供たちに夢を与えるのが役割
- 若者の世界を広げるのが書店の役割
- 本屋はもうからないが、儲けるのだけでは満足できなず、こういった役割のためにやっている
永江:リアル本屋の特徴は、空間を持ってること。非リアルの立場からすると、空間をもっているコトの特性は?
高野
- 「Webcat Plus」は目次と概要のデータベースであるとやっていて思った
- リアル本屋を見ているときの方が頭が動いている気がする(情報量でいったら前者の方が多いのになぜか?)
- その答として利ある本屋の機能一つでもあるジャンル分け機能を足した「新書マップ」を作った
- リアル本棚で頭が動く理由として考えたのは、「背表紙を眺めると問題意識で繋がりができ、さらに気になったときに手軽に中身をすぐに読めること」、つまり、「一覧性と奥行き」
- これはキーワード検索、中身検索での奥行きとは違う
- 著者の意識とかが分かったりしそうな点(すいません、ここは自信ありません)がリアル本屋の方が強い
- 考えたりアイデアを得るにはリアル本屋の方がいいのでは?
青山
- 早稲田生だったので、早稲田古本屋街でよく書棚を見ていて、あまり買わなかった。でも古本屋には良く行って、新刊書店とは違う並びで、店主にクイズを出されてる気分だった(著者やジャンル、研究を学べた)
- こういうことは電子では無理なのでは?
- 実際、Amazonは洋書を買うには割引だし早いし便利
- しかし、日本語だと割引じゃないし物足りない (Amazonで買う理由がない)
- リアル本屋で棚の流れの中で買うことは喜ばしい
- 「本は読まなくても良いが棚を(自分の得意ジャンルの周囲を)見ろよ」と学生に良く言う
- こういった早稲田古本屋街で学んだことができるのはリアル本屋、特に古本屋じゃないのか
いまのを受けて大垣
- 新刊書店は自ら発信する姿勢が足りないかもしれない
- 具体的には、出版者の委託販売をしているだけで受動的、努力不足かもしれない
- ヒト(=人材)という軸の話になるが、本の知識を持っているスタッフが少ないという指摘を良く聞く
- それも書店から足が遠のく一因では?(人材の育成が必要)
- これはイメージだが、海外のように取次に依存しないような人材を増やす(ジャンルごとでいいから書店員ソムリエみたいな制度を大田丸で作っていければ)
- 今まで(本が売れていた時代)は並べるだけで売れたけど、ここで甘えや怠慢ができてしまったせいで現状の人材難があるのかもしれない
- これから出版社、取次と一緒に仕組みを変えていければ…
永江は、ここで「海外と比べて日本の書店員の質はどうか?」と青山に聞く。
青山
- 日本の書店員のはむしろPOPとか書店大賞などを見ていると昔より偉くなったんしゃないか?と思う(でも、書店大賞は「売りたい本」ではなく「売れてる本」をさらに売りたいだけで悪印象←これは僕も同感)
- 海外は店員が少ない
- セントマークス・ビレッジブックショップだってレジに一人と棚整理が一人か二人くらいしかいない
- 既に潰れたバークレーのコーディズブックショップなどインデペンデント系書店は店員が少ないが、聞くと大体分かっている
- ただ、日本との違いはお客さんが少ない(日本はお客さんが多い)
- 読んでいたら「こんなのもあったよ」と色々世話してくれる書店もある
永江が、ヒトの話題になったので「人材面から見ると日本はどう?」と高野に聞く。
高野
- 図書館ではレファレンス(起業案内など)というものがある
- 苦情が多いのは書店の責任ではなく新刊数が多すぎる出版界の責任では?(新刊をとりあえず並べて三日で辞めるとか書店の対応も問題?)
- それに対する反抗、本屋のセレクトショップ化促進の仕組みとして大田丸を作ったと期待してる(そういう本屋が増えると嬉しいし自分は行きたい)
大垣
- 「電子書籍の台頭で街の書店はどうなるのか?」という危機感から今までのやり方では無理だと感じるので新たな仕組みを作りたい(店頭でのダウンロードや発信源としての役割を打ち出すなど)
- 本屋は、電子的にできないところ(=目的買いに至るまでの専門書への緩衝材)として機能できないか?
- 京都では繊維が多く繊維も市場環境がマズイが、その中でも継続している会社があるし書店もそういうことができる
- まずは本を好きな人を増やす仕組み作りや人材育成を頑張りたい
永江が今までの話をまとめる。
- ・「欲しい本を買うだけならリアル本屋じゃなくてもいい」という意識は三人とも持っている
- ・今回はそういった中での本屋の役割の話になった
そこで、最後にまだ語られていないコト(=イベントやコミュニティの核としての本屋)について話してもらいたい。「神保町はそういう場か?」と高野に聞く。
高野
- ・東京堂、三省堂は作家の講演会やってるしサイン本も売ってるし、作家と読者の距離を縮めようとしている(さらに、近くのカフェで読書会とかサイエンスカフェもやっている)
- 本屋は文章だけではない文化的活動の核となるような活動がもっとできる
- 昔は、そういったことを自然にやっていたけど今はもっと意識的にやるべき
- 自分たちは神保町を一つの本屋として扱っていて、窓口も置いている(つまり、人膨張の古書店一店一店の点ではなく、面としての魅力を打ち出している)
- ・もっと本屋は文化的活動の核になれるのでは?
青山
- カリフォルニアのバークレー(アメリカの中でもユニークなリベラルな地域で、バークレー校があることでも有名)にある「コーディーズブックス」
- ここは、小さいけれどアメリカにおけるブックカフェの始めと言われている
- 独自の品揃えでくせが強く、趣旨は「大学の外側にも大学生に負けない空間を作りたい」「アカデミックを外側にも作りたい」という志(具体的には「悪魔の詩」を大変なときに売っていたりした(爆弾投げられたけど))
- 残念ながら2008年に潰れた(歴史を追った映画が作られたくらい有名な本屋だったのに)
- 原因はお客さんが少なくなったことで、その理由が大学生が大学の中から出てこなくなったと言っていた店主へのインタビューがあった
- しかし、客の目線から言うと敷居を高くし過ぎたせいかもしれない
- 講演会とかサイン会とかやっていた本屋=文化的活動の核の一例として挙げた
永江が、「時間オーバーしたので、最後にどうぞ」と言って一言を大垣に促す。
大垣
- 今の話を聞いて思ったのだが、時代によって人の感覚は変わってくるものなので、外部環境に対するどれだけ対応できるか というのが商売人(とらやはもともと京都だけど、今はメインは東京(ニーズに合わせた変化の一例として))
- つまり、書店も文化的活動とかそういった対応が必要では?
- 自分は書店組合の新風会に入っているが、そこで、店頭に読み終えた本を持って行けば被災地に配達するサービスしたが、これが大反響
- 本の持ってる力は物質的ではない心の欲望を満たす大きな力なのではないか?(この「本は心の欲望を満たす」という言葉、素晴らしい!)
- さっきのヒトの話とつながるが、㈱大田丸は人材派遣も考えているが、始まったばかりなので、事業の核は決めていない
- これからも頑張る
最後に永江が一言。
- ネット書店の台頭でリアル本屋が不安を持っていると思う
- しかし、今だからこそ、モノとしての本の力が再確認できたのでは?
- これからどうするかは我々が考えて行動することで、分かることだろう
- まだまだ未来はあることを感じられたと思う
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永江朗さんの「本の贋金化」「本屋の金太郎飴化」など結構前から言われているだけあって、問題意識は共有されているのが印象的だった。実際、この前読み終わった「女子の古本屋」に書かれているような古本屋やスタンダードブックストアやガケ書房など、「セレクト」が良い書店は増えてきているように感じる。
そう考えると、最後の永江朗さんによる締めの言葉の様に、「本屋の未来は意外と明るい」のかもしれない。しかし、それでも出版市場が改善されない所を見ると、「実は90年代の出版市場の規模が以上だけだったのではないか」と僕なんかは考えているのだが、どうなんだろうか?
そもそも出版って儲かる仕事じゃない筈だと思うんだよなー。 まあその話はまた今度ということで。これは僕の意見だけど、書店よりの意見としてはこういうのもあるらしい。確かに現場からすると今回の座談会は、部外者の要望って側面が多かったし得るものは少なかったのかもなー。
僕は部外者なので楽しめたけど…。色々参考になったし、無理を押して出て良かった座談会だった。
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