ある日、友人からこんな面白い出版社があるのでイベントをやりたいんだけど……と言われて文芸誌『片隅』を手渡された。少し変わった判型のその雑誌は九州の本屋でしか売っていない雑誌なのだという。そんなトンがったことをやるのはどんな人なのかと話をとても聴きたくなってこのイベントに参加したのだ。
こういったイベントに来ているメンバー(いつもよりは少ない)に挨拶をして開始時間となる。果たしてなぜ九州限定なのか。なぜ文芸誌なのか。そもそも何者なのか。聴きたいことはいくつかあったが気づいたら2時間経っていた。あっという間だった。伽鹿舎の加地さんの情熱に、勢いに圧倒されっぱなしの2時間だった。
イベント参加のキッカケとなった文芸誌『片隅』の版元であり、今回のイベントのゲストである伽鹿舎の加地葉さん。伽鹿舎は熊本に住んでいる加地さんをはじめ福岡東京と各地に散らばる7名のメンバーが全員出版社での勤務経験ゼロの出版チームだ。加地さんの「読みたい本がないなら作ればいい」という気持ちの元にウェブ文芸誌からはじまり、トントン拍子に紙の本の出版ができることになり、あれよあれよと『片隅』以外の書籍も手掛けることになっていったようだ。
九州でしか売らないのは自分が売り場に挨拶に行きたいしその目で見たいから。平日は本業があり自由に動けるのが夜か土日しかないとなると九州の本屋に限定するしかない、と考えたのだという。そうなると流通はどうするのか。九州の本屋にはすべて卸したいとなると委託販売でないといけない。でも日販やトーハンのような大きい取次では九州限定なんて特別扱いはしてもらえない。探していった挙句に見つかったのが熊本ネットという会社。熊本のローカル誌を扱う配送会社らしい。
こんな感しで伽鹿舎がどうやってやっているのかを説明していくのだけれども、これがまたなんとも勢いのある語り口で、やっていることも同様に多少強引なところもあるけれども情熱に任せて他人を巻き込み実現していっているその行動力が本当に凄い。加地さんは「自分はやりたいやりたいと言っているだけで周りが動いてくれるからできている」と謙遜されたいたが、加地さんの情熱と勢いがなければそんなことにはならないわけで、これは大いに参考にしたいところだ。
自分も似たようなところがあってそれでフリーランスとしていまやっていけているとも思うのだけれども、まだ自分の企画で物理的なものをつくるところまでは行っていない。いま企画中の雑誌を進めるためにも、そしてその今後を考える上でも、「とにかく動いてみる」というその姿勢を見習わなければいけないと思った。
最期に、加地さんの仰っていた伽鹿舎のメッセージとも言うべき言葉(メモしましたが意訳なので間違っているところもあるかもしれません)を。
「読者が減っているというが読者に読んでもらえるような魅力的なものを出版社は本当に作っているのか。作っていたとしてそれが本屋で手に入るか(大型書店に行かなくてもという意味)。いまは魅力的な本が本屋で手に入らない。それはいろいろな問題があるのだろうけど、無いなら自分でつくる。そうやって自分で作った本が売れれば他社も真似して(現状のシステムからすると)変わった本を変わった売り方で売ってくれるようになるかもしれない。もっと本の作り方や売り方に多様性が生まれるかもしれない。そのために伽鹿舎をやっている」
熱に当てられた。これからもまたがんばろう。