ホンシェルジュというサイトを手伝っている。一言で言うと「本屋のフェアをウェブ上で再現するサイト」だ。
ここの社長である東海林が登壇するというので参加した。半分、運営としてだけどw
せっかくなので、もう随分時間が立ってしまったけれどもレビューを書こうと思う。
(イベント当日に取ったメモに基づいて書いているので、言い方や語尾、もしかしたら発言の意図も違うことがあるかもしれないが、これはぼくがイベントに参加したレビューである。そこをご承知いただきたい。)
テーマは「本と人の幸福な出会いのつくり方」。
登壇者は本のアプリ Standの開発者・井上隆之さん。移動式本屋「BOOK TRUCK」の店主・三田修平さん。そして「ホンシェルジュ」の東海林だ。モデレーターとして編集者の江口晋太朗さんによる仕切りで話が進んでいく。
鍵は企画力
結論を先に言おう。「鍵は企画力」だということだ。
これは実はとてもおもしろくて、以前、BOOKSHOP LOVERとして開いたゼミ「本屋入門 〜あしたから本屋さん〜」でも結論として出た話だ。端的に言うとこれから本を売るには企画力が大事であり、逆に言えば企画力さえあればまだ売れるということだ。
(細かくは以下の冊子としてまとめてあるので見て欲しい。)
とはいえ企画力と一言に言っても何のことだか分からないだろう。
そこで、出てきた言葉が文脈でありストーリーである。
例えば、ホンシェルジュの東海林はミクシの朝倉祐介氏へのインタビューで、競馬本の話をされたそうだ。ちなみに東海林は競馬に興味はない。普通なら興味のないことを熱く語られてもしんどいだけだが、朝倉祐介氏は経営に絡めて競馬本を紹介する。
競走馬は厩舎で大事に調整されるのだが、ここで人間と馬はコミュニケーションを取って育っていく。言葉のない馬が育つなら人間なんて訳はないというわけだ。
まさか競馬の話が人材育成の話に繋がるとは。そこで東海林は俄然、紹介された競馬本に興味を持った。
ここで注目して欲しいのは朝倉氏は本の話は一言もしていないということだ。しているのは朝倉氏の専門である経営と競馬を結びつけただけ。
朝倉氏がその専門分野である経営と結びつけて勧める。それだけで本の紹介だけでは得られなかった興味を得ることができたのだ。
ここにあるのは人に紐付いたストーリーである。
(そのほかブックデザイナーやアートディレクター、編集者から選ぶということもあるのでは、と三田さんは言う。手掛かりは本の見た目と匂いである。)
もうひとつのストーリーに場所がある。BOOK TRUCKの三田さんは、「同じ本でもタイミングと気持ちで楽しみ方が違うと思うのでシチュエーションが大事だ」と言っていた。
例えば、三田さんの前職であるTSUTAYA TOKYO ROPPONGIやSHIBYA PUBLISHING & BOOKSELLERSのようなセレクト書店だと店ごとの定義に基づいた厳密なセレクトで「その場所に来たから買う」というストーリーをつくっていた。
対して、いまのBOOK TRUCKではどこに何のイベントで持っていくかというシチュエーションによって選書を変えているそうだ。前職よりも場所が固定していない分、シチュエーションが違い難易度が高くなる。
それでいながら、「選ぶところだけに気張りすぎない」と言っていたことが興味深かった。
厳密な選書基準のもとではシステムに任せた方が効率的である。
そうではなく人間がやる本屋である以上、「ある種の雑多さが大事だ」と思うそうだ。
これを受けてstandの井上さんがAmazonの機械的直接的なレコメンドが嫌いだと言っていたのが面白かった。一部の本好きに聞くと帰ってくる典型的な答えだが、だからこそ人によるレコメンドをするstandをつくったということだろう。
「誰が」「その場所で」「なぜ」「その本を売るのか」
話は「これからの本屋がどうなるのか」に移る。
答えが出るものではないが、現状では話し合うことに意味がある議題だ。
企画力が鍵であることは、既に述べたが、ここではより具体的な案について言及された。
例えば、江口さんが挙げていたのは小さい書店による試み
例えば、Standの井上さんが挙げていたのは地域のつながりから始まる本屋
例えば、BOOK TRUCKの三田さんが挙げたのは大きな書店の本以外で利益を出すような方向性
規模は違えど、ひとや場所に紐付いた売り方の提案が進んでいるように見える。
そこに更なる弾みを与えるのが、校正・校閲の専門会社「鴎来堂」による新サービス「ことりつぎ」である。
ことりつぎは、今までは難しかった本屋以外からの小規模の仕入に対応するサービスである。ことりつぎの凄いところはカフェや八百屋など、いままで本が置かれなかった場所に本が並べられる可能性ができるということだ。
もしこれが広まればどうなるか。広まる素地はいくらでもある。一箱古本市の盛り上がりを見れば「本を売りたい」人間はたくさんいることがすぐに分かるだろう。
そうなってくると、「誰が」「その場所で」「なぜ」「その本を売るのか」がもっと大事なことになってくるだろう。つまり、文脈づくりであり、そのための企画である。
この状況の先行例として、江口さんが挙げたのが城崎温泉による「本と温泉」だ。
城崎温泉でしか買えない本『城崎裁判』を売ったりするなど、詳しくはサイトを見ていただくと分かるが、「温泉客が」「城崎温泉で」「本を読む理由」を提供している非常によくできた例だと思う。
キーワードは「そこでしか買えないこと」。
発達した流通構造のお陰で日本中どこでも手に入らない本は少ない。そんな中だからこそ、そこでしか買えない本を提供する。
これはひとつの例だが、「読者がその本を買う理由」を作ってあげることこそ、大事なのではないか。
三田さんによる「本棚をコンテンツとして捉える」としたときに、江口さんが「企画力は読者にとっての良いコンテンツをつくるってこと」と言っていたのが、このイベントの白眉だった。
以上。
「本と人の幸福な出会いのつくり方」についてのぼくなりのイベントレビューを書いた。本当はこの後にそれぞれのサービスについての話など、ここには書いていないことも離されているけれど、それについては、以下のまとめを参照いただきたい。