実は当サイトの読者には少ないながらも海外の方がいらっしゃいまして、常々海外書店についても取り上げていけたらと考えておりました。
そんな折、渋谷にある独立系書店SHIBUYA PUBLISHING & BOOKSELLERSにて、こんなイベントをやるではありませんか。これは行かざるを得ないと朝に冗談のように弱いワタクシは葛藤の末、予約フォームに入力したのでありました。
SPBSラボ:グッドモーニングホリデー「ヨーロッパの書店事情を知ろう」 http://www.shibuyabooks.net/commerce/special/lab.cgi
ヨーロッパの本屋はどんなとこ?
そんなわけで、2015年2月21日(土)に訪れましたこのイベント。世界の若者についての雑誌『WYP』の編集長・川口瞬さんによる海外書店レポートであります。
訪れたのはイギリス(ロンドン)、フランス(パリ)、ベルギー(ブリュッセル、アントワープ)、オランダ(アムステルダム)、ドイツ(ベルリン)、イタリア(ミラノ、ローマ)。ずいぶん周ったようですねー。
配布された資料に載っていたのは全部で41店。おもしろかったのがこれらを独断で四種類にまとめていたところでした。
ライフスタイル、アート、大御所、大型
この四種類でございます。日本ではライフスタイル型か大型ばかりで、残りの二つが少ないのではないか、という指摘もありましたが、全くそのとおりだと感じます。特にアートはNADiffや森岡書店、Itohenがあるくらいで他にめぼしいものはないのですよね。知らないだけであるのかもしれませんが(知っていたらぜひ教えていただきたく!)。
調査対象は本とfoursquare
さて、いよいよ現地についてからの話でございます。
どこに行くかはロンドンに着いてから決めたそうですね。あらかじめ決めていたのは『世界の夢の本屋さん』の一巻と二巻に載っているもので、ほかはロンドンでfoursquareを見ながら決めたそうですね。foursquareは海外では何でもありの食べログみたいな存在だとか。
日本ではとっくに廃れていると思うのですが、そういう使われ方をされているとは知りませんでした。
独断と偏見による本屋感想
あくまでも川口さんの好き嫌いでコメントすると言っておりましたが、ヨーロッパの書店事情というもので実はそういう感想でまとまったものは少ないように思うので非常に参考になった次第であります。
ちなみに、川口さんは大御所はあまり好きじゃなくて、ライフスタイルとかアートが好みのようですね。ということは、日本の本屋事情はアートが少ないのでやや物足りないのかな。
本編の面白かったことを箇条書きにしてみたよ!
以下、面白かったことを挙げていきます。具体的な店名は長くなるので避けて。多いので箇条書きで。
- 代官山蔦屋書店には世界のも含めて雑誌は何でもある。
- 大きい本屋に日本語の本はあるかというとない、英訳された日本人著者の本はある
- 有名老舗本屋はどーんとフェアやったりはするのかというとしないがシェイクスピアアンドカンパニーは積極的にしていた
- 独立系書店の場所はだいたい中心地から外れたような場所にある、好きな人はだいたいそこら辺に集まるから?
- マスキングテープは売れ筋らしく、ついで買いを狙っているのか、レジ前に多い
- マグマブックスでエレファントって雑誌をつくっている会社が運営している。リトルプレスやアートブック多く文芸はない。雑誌は充実しており『magazine B』はオススメ。ひとつのブランドにつき一冊つかう特集雑誌である。
- リトルプレスは回った感じでは扱いが少なかった
- ライフスタイル提案型書店については、ヨーロッパだからといって面陳になっている本は品揃えはあまり変わらなかった。①の通り、代官山蔦屋書店に行けばあるものばかり。
- 逆に日本の雑誌は日本でしか売っていないのでもったいない。洋雑誌ではブルータスみたいにジャンルにとらわれないものは少ないので、世界版を出したら売れると思うんだけどなあ。
- パリの「Artazart Design Bookstoreではワークショップでつくったものをそのまま店頭で売る。
- シェイクスピアアンドカンパニーのトートバッグがカッコよかった(本人使用中。欲しかった!)
- 出版社のタッシェンは本屋でもある。ヨーロッパ各都市に出店している。
- 日本のセレクト書店で売っているような雑誌が路上で売られていた
- ベルギー漫画というジャンルが成り立っている
- マンガは男性向けばかり日本のも少女漫画は一冊もない、日本の手塚治虫登場以前の世界になっているのかもしれない。つまり、複雑でないストーリー。勧善懲悪のみ。有名どころしか置いてないことからマンガのセレクトを日本人がしていないように見えた。ここを変えたらまた違う展開があるかもしれない。
- 出版社もやっているゲシュタルテンはお酒雑貨本、全部ハイクオリティ
- 美術館併設の本屋は少ないしクオリティはあんまり高く感じなかった。
出版社がひらく本屋
聞いていて思ったのは出版社が開いた本屋が多いことであります。日本だとあんまり多くないんじゃないかな。
しかも、行ってみたいと思われるような本屋でもある。よくよく考えてみれば出版社。特にあまり大きくはないけれどアートやカルチャー系の固定ファンがいる本を出している出版社はブランド力を高めるためにもアンテナショップをつくるということはひとつの有力な策ですね。
ファッションブランドが「Book Mark」を原宿につくりましたが日本でもできないのでしょうか。例えば、リトルモアとかPIE BOOKSとか。
ヨーロッパと日本では状況が違うので、単純にはいかないでしょうが、ぜひ「出版社が開く本屋」やって欲しいです!
雑誌のない大型書店
上記の中で特におもしろかったことのもうひとつに、大型書店に雑誌が置いていないことがあります。
ヨーロッパでは街中のニューススタンドで売っているようなのですね。それが⑰のことです。
日本の本屋では雑誌が大きな収益源であることを考えると、どうやって経営しているのか。そのバランスが気になるところであります。
これからリアル書店はどうなるか?
ひと通り紹介し終わったあとにQ&Aコーナーです。その中でもこの質問は本質的でよかったですね。やはり土曜日朝から渋谷の外れに集まるような人間はリアル書店の行く先について気になる方が多いということでしょうか。
さて、これに対する川口さんの答えが非常にわかりやすいものでした。
それは「日本の書店はライフスタイル提案型か大型書店かに現在分かれていて、たぶんこの流れが加速していくだろう」というもの。
加えて「日本ではアート系は難しいのでは」とも。実際、先にも書きましたがアート系の本屋は日本に少ないです。アートが根付いていないだからではないか、という意見もありましたが、たしかにそうかもしれません。休日に展示を見に行って「何万円かで手頃だから買っちゃおう」ってことにはなかなか日本ではなりませんからね。
さらに、現状で既にそうなっている土地は多いかと思いますが「街に一店舗は会ったという状況がなくなっていって、本屋というものは上品な生活の世界の一部になっていきそう」とのこと。これがライフスタイル提案型の本屋のことを指しているのでしょうか。まあこれは正直、既定路線でしょうね。
気軽な娯楽としてはスマホがあるわけですから本に時間を消費することを良しとする考え方は、既にある程度お金を持っている年齢を経た方々でしょうし、若者でもあえて本を読むという選択肢を選ぶには家庭環境が大きい。そうなると上級なのか上品なのか分かりませんが、そういった松浦弥太郎的世界観に近くなるのかもしれません。というかもうなっているのかも?
いまの10代がライフスタイル提案をどう受け入れるのか
この流れの中で、面白い問いかけがありました。司会者のSPBS店長・鈴木さんからのものです。
「川口さんの仰る通り、SPBSのようなライフスタイル提案型の本屋は伸びていくだろう。でも、これがいつまでも続くとは思えない。私たちと感性が違うだろう10代の若者たちは現状のライフスタイル提案型本屋さんを受け入れるのだろうか。私はそこに疑問を持っている」
なるほど。これは確かにそうなのかもしれません。
例として挙げていたのが本屋ではありませんがライフスタイル提案型の『KINFOLK』です。実は一時期人気でしたがすでに今売れなくなってきているようなのです。SPBSには土地柄メディア関係の人が多いため次を求めている人が多いのかもしれないですが、スピードがどんどん早くなっているこの世界。すぐに飽きられてしまうのかもしれません。
世代の話に戻しますと、これから世界のスピードはどんどん早くなっていくわけで、この趨勢は当分変わらないだろうと思います。そんな中、ぼくは29歳ですが10年違えばまったく生きている世界が違うわけです。スタート地点が違うわけですから。そうするとぼくが良いと思っているものと19歳が良いと思っているものはそうとう違うわけです(同年代でもそうでしょうが、よりその差が大きいということです)。
そうなったとき共感できない店に彼ら彼女らは行くのか。
当然ですが本屋も常にアップデートが必要なのでしょう。そのことをあらためて気付かされました。
お客さんの違いは特にない
世代論の話のまま行くと、面白かったのがヨーロッパと日本でお客さんの違いはあまりないということでした。というのもライフスタイル提案型の本屋には日本と同じように若者が集まるし、大御所と呼ばれるような老舗書店には年配の方が訪れる。大型書店は当然老若男女問わないお客さん。
これを聞いたときぼくはどこで読んだか覚えていませんし、表現は正確ではありませんが、こういった内容の文章を思い出しました。
「世界に出ると国の違いよりも同世代の人と似ていることに驚く。同じコンテンツで熱狂しているのだ。これはウェブによって世界(西欧文化圏でしょう)がつながったお陰で、国による差が少なくなっったということではないか。どちらかというと、ウェブがなかった世代の人達と話すほうが難しいのではないか。異文化コミュニケーションは異国ではなく異世代の間で起きるようになっているのではないか」
もしかすると「どこ生まれ」よりも「いつ生まれ」のほうがコミュニケーションにおいて大事な要素だということであります。
このことはもっとよく考えなければいけませんが、仕事をする上でも生きていく上でも重要な視点だろうと思いました。
日本の本屋とヨーロッパの本屋
と、こんな感じでイベントは終了しました。
それにしても日本とヨーロッパの違いはやはりその内装にあると思うのですが、最近では日本でも素敵な内装の本屋が増えておりますし、そう考えるとお客さんの年代も含めて両者にほとんど違いはないのかもしれませんね。雑誌以外は。
いやホント雑誌の扱いが大型書店にないというのは相当おもしろいことだと思うんですよね。だって、日本の本屋は雑誌の売上がどんどん落ちてきている中でこれからどうやって戦っていくのかという論点があるわけですよ。それに対して、ヨーロッパの大型書店ははじめから雑誌を扱っていない。ということは、もしかしたらヒントがあるかも知れないじゃないですか。しかもヨーロッパでも独立系書店は雑誌の扱いがあるわけです。この内情はとても知りたいですね。
これに対して、小さい本屋では戦い方がまったく違います。ヒントになったのはライフスタイル提案型だけでは早晩生き残れなくなるだろう論とやはり雑誌の取り扱いがあることでした。ひとつの答えは日本でも小さい本屋が雑インデペンデント系の雑誌を仕入れていくことだと思いますがどうでしょうか。前者については書くと長くなりますので、また今度。
ところで、せっかくなので川口さんにはインタビューか連載を頼む予定であります。いやー楽しみだなー。いろいろ聴きたいことがたくさんであります!
今後、川口さんにはぜひアメリカに赴いてれぽーとしていただきたいものであります。図々しい願いですがw
最後に、『本屋入門実践編」が3/3(火)プレオープン、3/8(日)本格オープンとなりますので、ぜひぜひ白山の双子のライオン堂書店までおいでくださいねー。
http://bookshopseminar.tumblr.com/
最後はなぜか宣伝なのでありましたw