「現役の書店員さんが本棚を自由につくったらどうなるか?」「現役の書店員さんが何を考えているのか?」
そんな想いではじめたインタビューだった。一回目ではブクログの本棚を使用して誰かに見せるため本棚をテーマ設定も含めて自由に作って頂き、その解説をして頂いた。二回目では、佐次さんが「好きな本棚」に焦点を当て書店員の目から見た本棚について知ることができた。三回目では佐次さんが「好きな一冊」を聞くことで佐次さんの内面をいくらか知ることができたと思う。そこで、そんな島根の書店員・佐次さんが「やってみたい本屋さん」を聞くことでインタビューを終わりにしたいと思う。さて、いったいどんな本屋さんをしたいのだろうか?
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- 忙しくて本棚がつくれない店先時代
- 本屋さんだけがやりたいことじゃない!
- 「あなたは世界の一部であり、世界はあなたの一部である。」
- 本屋をやるなら人と社会のメディアになりたい
- 「本と本棚を媒介にしてお客さんと社会がつながれるような本屋さんをやりたい」
忙しくて本棚がつくれない店先時代
筆者:では、最後に、こういう本屋さんが良いみたいな話を先にしましたが、もし自分で本屋さんをやるとしたらどういう風にしたいですか?
佐次さん:うーん、まず、ぼくはいま店先には立っていなくて外商部にいるんですけど、店先にいたときは「本棚をつくりたい」っていうモチベーションがあまり出なかったんですね。
筆者:そうなんですか。意外です。
佐次さん:というのも、ぼくは、一番初めにレジ打ちとかの雑用をこなした後に任されたのが資格書とパソコンの本棚だったんですよ。文芸とか人文なら良かったのかもしれないんですけど、まだキャリアが浅かったこともあってあまりモチベーションが出なかったんです。もちろん「この資格が来る!」とか「この本は良い本だから目立たせよう」とかそういうことはやっていましたけれど、本棚全体を編集してみたいなことまでは出来ていなかったんです。
で、そのあとに4つも担当を任されたんですよ。文芸と人文と資格書と郷土本。このときはしんどかったですね。単純に忙し過ぎて。本を本棚に入れるだけで時間が過ぎて行きました。もっと力のある書店員さんだったら違ったのかもしれないですけれど。
筆者:本屋さん、特に大きな本屋さんは忙しくて大変だって聞いたことあります。
本棚は書店員唯一の自己表現である
佐次さん:で、そのあと、外商部に異動となりまして現在に至るんですよ。だから、今まで「こんな本棚をつくってやろう」というモチベーションを持って本棚をつくったことがないんです。ただ、今、店先に立たなくなって本棚っていうのは書店員にとっての唯一の自己表現の場なんだって思うようになって。今は「本棚をつくりたい」っていう気持ちがあるんですね。でも、本棚をつくりたいからってそのままそれが本屋さんを開きたいって訳でもなくて。どちらかというと本を見せたい勧めたいって感じなんですよね。
筆者:本のキュレーションのようなものですかね。
佐次さん:うん、ただ、本棚つくりたいという欲のはけ口としてキュレーションをやっているみたいなところもあるんですよね。今は人に見せる本棚を持っていないので、表現の場所としてネットでやっているんです。それでちょっとリアルの方にも顔出したり、例えば、フリーペーパー作ってキュレーションしてみるとかそういうことも考えているんですよ。
筆者:リアルな場所で作りたいって欲は今はないんですか?
本屋さんだけがやりたいことじゃない!
佐次さん:それはあります。現実的なこととして仕事として食べていかないといけないじゃないですか。でも、今、本屋のバイトだけでは正直なところ言うと食べていけていないんですよ。だから、じゃあ店出すかってこと考えるんですけど。本屋だけがやりたいことじゃないってこともあって。編集とか本を作る側の方も面白いなっていう気もしてますし。本屋をやりたい気持ちは凄く持っているんだけどそれだけに縛られているわけでもない。まだ曖昧な感じなんですよ。
だから、内沼さんの的な発想というか。準備期間が必要なのかなと思っていて。これで食べていくんだみたいなところが見つかるまで実験もやって失敗もしてその中で何らか見つかって行くんじゃないかなって思っているんです。だからこそ、はじめの25冊の本棚の真ん中に「本の未来をつくる仕事/仕事の未来をつくる本」を置いたんですよ。
筆者:なるほど。25冊の真ん中にも入れたその本に行きつくと。
「あなたは世界の一部であり、世界はあなたの一部である。」
佐次さん:内沼晋太郎さんはこれだけ一つのジャンルの中で実験を重ねて今の立場に辿り着いているんですね。だから、内沼晋太郎さんみたいに新しい自由な発想で仕事っていうものを考えることで、もっとぼくたちは自由になれるんじゃないかと思うんです。だから、みんなを自由にする一冊だと思ってこの「本の未来をつくる仕事/仕事の未来をつくる本」を選書しました。今日、言いたかったことはそういうことなんですよ。
だから、これからの働き方でもあり、生き方でもあり、アクティビティでもあり、そういう行動してみようとか人から教えを請うとか生き方から学ぶとか、いろんなところを詰め込んで、自分と社会とつながっていくときにこういう25冊があったら良いんじゃないかなってのを選んだんです。
筆者:すごい。今のお話で「あなたと世界を前進させる25冊」と今までの話がつながりましたね。
佐次さん:この25冊はあなたにも効くし世界にも多分効くよということです。さらに言えば、あなたは世界の一部だし世界はあなたの見ている世界だし。そういうことはリンクしていると思うんですよね。
筆者:「あなたは世界の一部であり、世界はあなたの一部である。」ということですね。なんか凄い上手くまとまりましたね(笑)
本屋をやるなら人と社会のメディアになりたい
佐次さん:はい(笑)で、実際に本屋をやるという仮定に戻りますと、今日作った25冊が一番の柱になるのかなって思っています。どういうことかというと、人と社会を繋げるとか接点を見つけてあげるとか気付かせてあげるとか。「あなたと社会はつながっているしもっとコミュニケートできますよ」ってことを本棚という形で伝えられる。人と社会を繋げるって感じで良いのかな? そういうお店ができたら良いなって思っています。
筆者:お客さんと社会のメディアになりたいということですか?
佐次さん:本棚と本屋さんってメディアたりえるじゃないですか。そういう意味で自己表現でもあるし、これがぼくのメディアに載せたいことでもあるし、マイメディアとして、本棚を媒介にして、本と本棚を媒介にして社会とつながったりとか人とつながったりとかしたいなって思うんですよ。
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「本と本棚を媒介にしてお客さんと社会がつながれるような本屋さんをやりたい」
「本と本棚を媒介にして社会とつながったりとか人とつながりたい」「お客さんと社会のメディア」「あなたと社会はつながっているしもっとコミュニケートできますよってことを本棚という形で伝える、そんな本屋さん」。佐次さんがやりたい本屋さんはそういうお店だ。
出版不況と言われて久しい。中には一日に一軒の割合で本屋さんが廃業しているなんて記事もある。だが、どうだろう。本屋さんというのは社会にとって要らない存在なのだろうか。ぼくにはそうは思えない。これだけ本がたくさん出版される中で何を読んだらいいか分からない人はたくさんいるはずだ。誰かがそれを選んで編集して(または、キュレーションして)行く必要がある。それはリアルな場である必要はないのかもしれない。ウェブを使えば情報を伝えることはできる。では、リアルな場で店舗を構える意味は何のか。ぼくにはその答えは「空間」と「人」にあるように思える。それらがウェブにはないものだからだ。どちらも濃密なコミュニケーションに不可欠なものであるとも言える。
もちろんコミュニケーションはウェブでもできる。メールも電話も、テレビ通話だってできる。だが、同じ空間を共有しながら直接会って話す以上のコミュニケーションはないとぼくは思う。そうでなければ世の中の大半のものはウェブで代替できてしまう。
佐次さんは「本と本棚を媒介にしてお客さんと社会がつながれるような本屋さんをやりたい」と言っていた。ただの本のキュレーションならウェブ上で充分だが、社会とお客さんをつなげるためにはそれだけじゃ足りないだろう。人と人が出会うことこそ「つながる」ということなのだから。
「本の未来をつくる仕事/仕事の未来をつくる本」から始まり、「本の未来をつくる仕事/仕事の未来をつくる本」で終えることになったインタビューだった。この本が述べているように試行錯誤しながら自分の好きな場所で生きていくための方法を佐次さんと共に探していければと思う。今後の佐次さんの活動が楽しみだ。