下北沢B&Bのゼミで知り合った島根の書店員・佐次俊一さんにインタビューをお願いすることにした。目的は「現役の書店員さんや本好きが本棚を自由につくったらどうなるか?」「現役の書店員さんや本好きが何を考えているのか?」を知り、本屋さん、ひいては本棚の魅力を深め広めること。
第一回目の「25冊選書して頂いた本棚の紹介」は本棚を「本棚あそび」という「本棚の魅力を深め広める」サイトに載せた。本サイトは「本屋さんの魅力を深め広めること」が目的の一つでもあるので第二回目以降の「2.好きな本棚、3.好きな一冊、4.自分で本屋を開いたら」についてはこちらに載せることにする。
果たして「あなたと世界を前進させる25冊」を作った佐次さんが好きな本棚とは? 本とは? もし佐次さんが本屋を開くなら?
前回のエントリでは島根の書店員・佐次さんに「好きな本棚」について聞いてみた。すると、本棚は「友達の本棚」と「お店の本棚」に分かれること。「友達の本棚」だったら歳の離れた友人の本棚が面白いこと。お店の本棚では普段は地元の大手チェーン店を活用するが、そして、鳥取県にある「一月と六月」と「定有堂書店」が好きなことが分かった。
では、そんな佐次さんが「好きな一冊」とは何だろう? 「本棚」から「一冊の本」に焦点を絞り込むことで佐次さんの内面に迫れるかもしれない。そう考えて聞いてみた。
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- 佐次さんは一休さんの伝記を子ども時代に読んで諸行無常の精神を身に付けた
- 佐次さんは「あなたと世界を前進させる25冊」の中心にあるあの本を今、一番読んでいる
- 佐次さんは糸井重里さんの「ほぼ日刊イトイ新聞の本」を読んで励まされる
- 佐次さんはこの3冊で歩きだす
筆者:ここで、ちょっと話は変わりますけれど、好きな一冊ってありますか?
佐次さん:1冊っていうか3冊くらいあって迷うんですよね。「子ども時代に読んで影響を受けた本」「今、一番読んでいる本」「元気が無くなったときに読む本」の3つでそれぞれ1冊ずつあるんですけどどれが聞きたいですか?
筆者:それはそれで本棚が一つ作れそうですね(笑) でも、せっかくなので全部聞きたいです!
佐次さん:じゃあ、まず「子ども時代に読んで影響を受けた本」ということで「一休さんの伝記」です。
佐次さんは一休さんの伝記を子ども時代に読んで諸行無常の精神を身に付けた
筆者:凄いの読んでいますね。
佐次さん:いやそんなに凄くなくて子供向けの火の鳥文庫のヤツで「とんち小僧から名僧に」って副題があるのなんですけど。
これは小学校5,6年生の頃に読んだんですけど、一休さんが悟りを開いたシーンがあって、そこを読んだときに「あ、悟りってのはこういうものなんだ」って分かった気がしたんですね。
筆者:マセた子どもですね(笑)
佐次さん:で、この悟りを開いたあとに「人生は一休みなもんだ」みたいな句を詠んで、「お前は一休と名乗りなさい」ってお師匠に言われるシーンがあって、それも面白いなと。
筆者:良いシーンですね。
佐次さん:つまり、これは諸行無常のことを言っているとぼくは思っていて「全ては移ろいゆく、だから絶対的なものなんて無い」っていうのがこれを読んで以来のぼくのポリシーになったんですよ。だから、小学校5,6年生の時からぼくの人生の方向性を決定づけた本なんですね。
筆者:うーん、小学校5,6年生の時にそんな境地に至らせるだなんて凄い本ですね。
佐次さんは「あなたと世界を前進させる25冊」の中心にあるあの本を今、一番読んでいる
佐次さん:でしょう(笑) 次に、「今、一番読んでいる本」ですが、これですね。内沼晋太郎さんの「本の未来をつくる仕事/仕事の未来をつくる本」。「あなたと世界を前進させる25冊」の中でも紹介したので言いませんがこれはおそらくぼくとあなた(筆者)の中では何回も読み直す本だと思っています。
佐次さんは糸井重里さんの「ほぼ日刊イトイ新聞の本」を読んで励まされる
佐次さん:最後に「元気が無くなったときに読む本」ですが、糸井重里さんの「ほぼ日刊イトイ新聞の本」です。糸井さんが「ほぼ日刊イトイ新聞」(以下、「ほぼ日」)の立ち上げから軌道に乗るまでを書いたノンフィクションなんですけど。
なぜ元気が無くなったときに読むかというと、ぼくはクリエイティブに生きたいって思っているんですけどなかなかそうはなれないじゃないですか。でも、実際にやった人がいるので勇気を貰おうと思って読むんですよね。今でこそ「ほぼ日」は糸井さんがそれだけで食べていけるほどにウェブメディアとして成功していますが、公開当初は本当に儲からなくて無料で出来ることは無料でやろうって考えて無料でやってくれる人にしかインタビューとか頼まなかったらしいんですよ。
筆者;それは意外ですね。糸井さんといえば「ほぼ日」をつくった時点で、すでに広告業界で有名だった人だし、「ほぼ日」も公開当初からそれなりに稼いでいるのかと思っていました。
佐次さん:それが違うんですよ。本当に手弁当からスタートしていて。ほぼ日とは関係のない広告の仕事で稼いだお金をほぼ日に還元するとかそうやっていたんです。それが10年やったらほぼ日だけで食べれるようになったんですよ。
それと、公開当初の歴史も書かれていて面白いんですよ。今や一つのウェブメディアとして機能して軌道に乗っているほぼ日でもこれだけ苦労したんだなって。そういうことを読むと元気が出るんですよ。クリエイティブに生きるってこういう感じだよなっていう。現実としっかり闘ってやっていくという。「あの先輩だってこんな苦労したんだから」みたいなことが書いてあるんですよ。
筆者:心強いですね。
佐次さん:この本には「広告に飽きた」ってはじめの方に書いてあって、糸井さんは広告の最前線で働いていましたし「広告」がクリエイティブだった時代もあったんだけれど、消費者も変わってしまってもうそういう時代じゃないということが分かってしまったんですね。だけど、求められる仕事は「すぐ効く風邪薬」みたいな仕事で。売れないものを広告の力で売ってやろうっていう仕事ばかりが来る訳ですよ。だから、そんな仕事はもう嫌だと。
でも、それを乗り越えてウェブに出会ったんですよ。それで「これは凄い」と。パソコンも全然分からなかったんだけど、ウェブに出会った瞬間これは凄いものだってことに気がついて。で、そこからいろんなところに可能性を開いていって、この戦場で自分は何かやるって決めたんですよね。
筆者:うん。
佐次さん:で、そのウェブってことに関してはですね。これは25冊の方には入れられなかったんですが、「インターネット的」って本がありまして。これは糸井重里さんのネット観みたいなものが凄い分かりやすく書いてあるんですね。で、最近、家入一真さんがこれめっちゃ面白いって書いたんですよ。だから、そういう意味で今の時代にもキャッチアップしていると思っていて。だから、これは読んでおいたほうが良いですよ。
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佐次さんはこの3冊で歩きだす
如何だろうか。好きな一冊と言われたときにすぐ応えられる本好きは少ないと思う。気分や状況によって読みたい一冊は変わってくるだろう。聞いているぼくだってそうだ。そんな答えにくい質問なのに佐次さんは応えてくれた。でも、状況を指定しているのがさすが書店員である。本を選び慣れているのだ。
そんな佐次さんが選んだのが「子ども時代に読んで影響を受けた本」として講談社火の鳥伝記文庫 の「一休」、「今、一番読んでいる本」として「本の未来をつくる仕事/仕事の未来をつくる本」、「元気が無くなったときに読む本」として「ほぼ日刊イトイ新聞の本」の3冊だ。
「一休」は諸行無常という価値観を佐次さんに植え付けた本だ。「本の未来をつくる仕事/仕事の未来をつくる本」は佐次さんが考えていてこれからやっていこうと思っている新しい働き方についての参考書で、「ほぼ日刊イトイ新聞の本」はクリエイティブに生きたいと思いながらもなかなか行動に移せなかったり結果を出すことができなかったりする自分を奮い立たせるために読む本だった。
こうやって見ていくと佐次さんという人が少しだけ分かる気がする。諸行無常という残酷な現実を見据えて、そこに適応するために新しい働き方を試し、でも、なかなか前には進めないときもある。激動の時代と言われている今の時代を生き抜くためにもがいている、ぼくと同じ一人の若者なのだ。
だからこそ、その佐次さんがもし本屋さんをやるとしたらどんな本屋さんにしたいのか聞きたい。そう思ったのでそのまま聞いてみることにした(次回に続く)。