疑問「日本にいる僕たちはなぜいまこうなのか?」に紐づく読書。
『「科学者の楽園」をつくった男:大河内正敏と理化学研究所』を3週間ほど前に読み終えた。
内容は「理研がどうやって始まったのか」である。2015年に話題となったSTAP論文捏造事件の当事者であるので、正直な話、あの時からガバナンスの効いていない悪い意味で日本的な組織なのだろうなと勝手に良くないイメージを抱いていた。
しかし、読んでみると、(他の機関や組織のことをあまりに知らないので現時点での感覚だが)日本の基礎科学を拓いた組織であるようだった。
戦争につながる工学が重視される中で直接的には役に立たない化学と物理学研究を重視した機関をつくり、そこではできる限り研究者の自由にさせるという、タイトルにあるように研究者にとっては楽園のような場所だったようだ。
昼日中は実験が捗らないからと敷地内でテニスばかりしていた者も多かったというから驚く。まるでGoogleみたいだ。
それが第一次大戦第二次大戦となるうちに戦争協力的な研究も行ったり、戦時で物資が必要だからとむやみに拡大路線を取ってしまったり。現在から見ると迷走しているように見えるのは当時の事情と、副題にもある3代目所長・大河内正敏の「国のため」という感覚も大いにあったのだろう。
とはいえ、この本で良かったのは、そういう負の部分ではなく、そういった何かを生み出す人々にとって理想的ともいえる環境が戦前にあったということだ。
現状の理研がどうなっているかはどこかで調べてみたいところである。
なお、全体的に理研や大河内正敏など登場人物を事実ベースとはいえ褒めそやす傾向がある文章なのでそこは割り引いて考えなければならないよなーと言うことは覚書として残しておく。