以前読んだ『女子の古本屋』で取り上げられていたこと。中崎町『本は人生のおやつです!』の店主の勧めもあって、神戸本町の「トンカ書店」に行ってきた。というわけで書店探訪第28弾は神戸本町の古本屋「トンカ書店」。
まとめ
まず、時間の無い方のために手短にまとめたものを書いておく。
- 品揃え:雑誌と絵本が多い。
- 雰囲気:普通の古本屋。割と雑然としている。
- 立地:元町駅から徒歩10分弱。周囲に古着屋や雑貨屋がたくさんあるので、そこを見て回るついでに寄れる。
- 値段:少し高め。
電話&FAX:078-333-4720
営業時間:12:30-20:00 ほぼ年中無休
URL:http://www.tonkabooks.com/event.html
雰囲気は『女子の古本屋』? だけど
元町駅で下車し、山側に歩を進める。すると、古着屋や雑貨屋など僕好みの店が多あるトーワロードに出る。奥にあるビルの2階にあるのが「トンカ書店」だ。
ビルは普通の雑居ビルの雰囲気だが、薄暗い階段を上がり2階に上ると、トンカ書店の他にも中国の雑貨を扱う店がある。
さて、店舗に入ろうとすると入り口の前に絵本や文庫、新書、絵本、ハードカバー、雑誌、漫画などなど何でもかんでもが雑然と本棚に並べられ、または棚の上に積み上げられている。よく見ると全て百円らしい。内容はというとマンガでは手塚治虫や諸星大二郎、ジョジョ、芸能人の本から夏目漱石集、リリーフランキーのエッセイと、新古本から古書まで幅広い。
『女子の古本屋』から察したイメージではもう少し、オシャレな雰囲気を予想していたが、見事に裏切られた。どちらかというと普通の街の古本屋に近いのだが、但し、なめてはいけない。雰囲気に反して品揃えは面白いのだ。さて、中に入ってみる。
CDコーナー 不思議な什器とデザインアート
店舗は横に長い台形となっており、すぐ右手にレジカウンター、突き当りに窓、左手の突き当りが台形の狭い短辺で、窓の側が広い長辺だ
左周りに見ていこう。入ってすぐ左手にCDコーナーが狭いながらもある。隣から本棚で、『ブルータス』や『ペン』、『チルチンびと』といった雑誌、さらに隣に本を斜めに挿していく不思議な什器がある。
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中には建築やアートの雑誌と大判本。安藤忠雄やレンブラント銅版画集などだ。この什器は裏側に回りこめるようになっていて、そこにはデザイン・アート系の本がある。品揃えはPhotoshopの本や『インテリアコーディネートマガジン』などである。
足元にはなぜかTシャツと大判本の500円均一コーナーが段ボール箱一つ分。書名は忘れたけれども、色々なフォントが書かれた型紙がセットになっている冊子があったのは面白かった。
ソファーとミニギャラリー リトルプレス
さて、不思議な什器から振り返るともう突き当たりなのだが、なぜか黒い革張りのソファーがある。そして周囲には、佐藤悠介という人の絵が飾られている。メッセージブックがあることも考えると、どうやらこの1畳ほどのスペースはミニギャラリーらしい。うーん、狭いのに何でやろうと思ったのかが凄く気になる!
ソファーの正面の壁には本棚があり、中には『別冊sanpo』や『下町通信』、『世界名作劇場』など 3.400円くらいのリトルプレスが並べられている。リトルプレスの横にはこれまたなぜか藤原新也が7冊。この端っこの棚はマニアックな趣向の人にはオススメだ。
ビジュアル重視の棚 デザイン、海外文学、日本文学、雑誌
リトルプレスの棚から右横、レジカウンター正面に至るまでは写真、旅、社会、海外文学、日本文学といった順番で並んでいる。大きさが違ったり、壁に直接取り付けるタイプだったりと多種多様な本棚を使用しているので見ていて面白い。
ここの並びでは、基本的に棚の上や壁に取り付けるタイプの什器には写真やアート系の本が多く(従って、大判本が多く)、棚の中の本は上述したジャンルの本が置かれている。具体的には、「社会の本」として『日本辺境論』や『ローマの歴史』。『海外文学』の本としては、『ムーンパレス』のハードカバー、『たんぽぽのお酒』、『狂人日記』、『悪童日記』。
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「日本文学」の本としてはよしもとばななや江國香織、筒井康隆などである。棚の上や壁取付型の什器の上には、「写真」の本として『空の名前』、『篠山紀信写真集』、『五百万歩の京都』、『世界のデザイン史』などの本が目立つ形で並べられている。
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また、海外文学と日本文学の間には雑誌や大判本が棚の上に積まれていて、内容は『別冊太陽』(五百円)、『芸術新潮』(五百円)、『日本の童画』(絶版本で千円)、『魅惑の広告芸術』(千五百円)などである。
ここまででレジカウンターの前に至り、ということは店の半分を見たことになる。しかし、今までは台形の狭いほうを見ていたので、これからが本番だ。
ここから本番 テキスト重視の棚 幻想文学、アングラ、サブカル
今までビジュアル重視の棚と比べて、ここから先はしばらくテキスト重視の棚になる。少し硬くなるといえば良いだろうか。
窓がある辺まで大きな本棚が三つ並んでいるのだが、左の棚が幻想文学をメインに昔の本が多い棚。真ん中の棚がオカルト系やアングラ系。右の棚がサブカル系コミックといった具合になっている。窓からレジ側にかけて怪しくなってくるイメージの棚並び。
左の棚から見ていくと、内容は、ポオや江戸川乱歩(20冊くらい)、澁澤龍彦(10冊くらい)、稲垣足穂、神戸年代記(これは足穂に絡めていると思う)、京都の本、植草甚一、松本清張、柄谷行人、夏目漱石、紀田順一郎、百年文庫(最近の本だが中身は古典も多い)など。
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明治・昭和文学といった風情だ。エドガー・アラン・ポオと江戸川乱歩が近くにあるのは、ベタだけどこういう並びは嬉しい!
真ん中の棚には、雑学系なのだが、『サイバラ式』や『廃墟の歩き方』などビレバンにありそうな本から、仏教系、呪術探求、写楽、ヤクザ、ノストラダムス、催眠、神学と軽めの本から真面目な宗教の本、さらにはヤクザや催眠などオカルト本まで。
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物語ではない本の中で、怪しい本ばかり集めた「混沌棚」となっている。
一番窓側の棚にはサブカル系コミック。具体的には浅野いにおや藤子不二雄(もちろんドラえもんではない)、吉田戦車など。今までと比べたらかなり軽い並びだ。
窓側の雑貨コーナー
そうやって窓に至ると前にはテーブルがあり、そこにはアクセサリ、器、ブックカバー、レトロ系キーホルダーなど雑貨が置かれている。ようやく『怪しい』雰囲気から逃れて(個人的には好きな棚だけど)、ふーっと一息つくと、窓の辺から折れ曲がり、女性向けの棚となっている。
女性向けの棚
角にある縦に細長い本棚と合わせて三つの棚を見終わるとレジカウンターに戻ってくるのだが、ここにあるのは、今までと違って読みやすそうだ。児童書や絵本、骨盤ダイエットや風水の本、食、酒、刺繍、手相など『これぞ女性向け』といった棚になっている。
内容としては、勝間和代の本、ホリエモンの本、カクテルやワインについての本、茶やチョコレートの本、福音館書店、カラー箱本(あの図書館でよく見かけるヤツだ)のアルプスの少女ハイジや宝島、ロビンソンクルーソー、金の星社の『世界の童話 一年生』などだ。OLから子持ちの女性まで幅広い年齢層に受けそうな棚作りである。
そのままレジに突き当たると、レジの周囲も販売スペースとなっており、雑誌『リンネル』(三百円)、雑誌『スプーン』(四百円)や絵本、『二十一世紀こども百科』などが雑然と置かれている。
充実した雑誌のバックナンバー
この窓の前の空間には棚ばかりでなく平台もある。内容は雑誌と絵本。
窓の前のスペースは、自分用に雑誌を買うついでに、子供用の絵本も買えるという仕掛けが『これでもか』と繰り広げられているのだ(もちろん怪しい棚は除きます)。平台に所狭しと並べられている雑誌と絵本の品揃えはと言えば、雑誌は『セカンド』(三百円)、『ギャッププレス』(四百円)、『流行通信』(四百円)装苑(三百五十円)、『スタジオボイス』(三百円)、『花椿』(二百円)。
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絵本は知らないので書名は挙げられないが、先ほどの「怪しい棚」の側に積まれている。
コミックセットのサービス
窓の前のスペースを通り過ぎると、レジカウンターの前では陶器を売っており、レジの中では女性店主の頓花さんがなにやら作業中。外に出ようとレジ側を見ると、なぜか茶色い紙袋が何個か並んでいる。何かと思えば中にはマンガのセットが。
他のお客が聞いていたのだけれど、「こうしておけば買ったお客さんが持ち帰るときに楽だと思うから」だそう。なるほど、納得です。
一見、普通の古本屋。だがしかし、その正体は!
さて、これで店舗をすべてみて回ったのだが、この「トンカ書店」。冒頭でも述べたが、一見、普通の古本屋だと思ってなめてはいけないのだ。サブカル嗜好が強い若者が集まりそうな立地を理解した品揃えもあり、ミニギャラリーやリトルプレスなど若者を惹きこませる仕掛けも忘れない。さらに、女性店主である強みを活かした児童書や絵本の品揃え。実は扱う店が少ない雑誌の古本が多いところもニクイ!
『女子の古本屋』では『お客さんが教えてくれることが多い』というようなことを述べていたが、僕が行った時もお客さんと良く話していた。きっと固定客も多いのだろう。
そう考えると、神戸にあるのがいかにも遠いように思えてくるのだが、僕としてはいかんせん値段が少し高いように感じた。世界デザイン史は前から欲しかった本だけど結構多めの書き込みアリで400円は高いと思う。ま、好感が持てたので買ったんだけどね。
世界デザイン史 阿部 公正 美術出版社 1995-01-10 売り上げランキング : 73704 Amazonで詳しく見る by G-Tools |
雑誌のバックナンバーを探しているのなら立ち寄ってみるとお目当ての品が見つかるかもしれない。神戸に行った時には是非行ってみて欲しい古本屋でした。