あるとき信じられない言葉を聞いた。
「無人の古本屋があるらしい。」
そんな馬鹿な。田舎の野菜売り場じゃあるまいしそんなことがあるものか。第一、万引きはどうする? 売上は? お客様は入ってくるのか? 気になることがあり過ぎる!
というわけで話を聴いてきた(2016年6月11日にインタビューしたものである)。
まとめ
時間のない方のためにまとめです。
- 品揃え:ライトな読み物と観て楽しむ本が多い
- 雰囲気:無人でありながら入りにくいということはない
- 立地:JR三鷹駅 北口から徒歩10分
営業時間:24時間
MAIL:bookroad.mujin@gmail.com
URL:http://www.bookroad.jp/
Twitter:https://twitter.com/bookroad_mujin
Facebook:https://www.facebook.com/bookroad.mujin/
緻密な設計と緩い運営
まず、店舗の紹介をしよう。無人古本屋 BOOK ROADは三鷹の三谷通り商店街の中にある。商店街と言っても騒がしい駅前ではなく学校が近くにあるような静かで、でも、ちょうど良く人通りがある場所。店舗はガラス貼りになっており、引き戸をガラガラと開けると左手にガチャガチャ。ここにお金を入れて買うらしい。ガチャガチャの中身はビニール袋で、本を入れて持って帰れるということのようだ。かわいいイラストボードで説明されていた。正面にもボードはあって撮影されているとのこと。防犯効果を狙ってのことだろう。本の数は多くない。が、なかなか面白い品揃えだ。今回は書名をメモしていないのでぜひ直接確かめてほしい。
店舗を見た感想は「ふつう」である。冊数は少ないがそこまで変わった品揃えでもないし防犯もカメラを回しているくらいで、ガチャガチャをレジのように使っているのは面白いが特筆すべきことはないように見える。そう、無人であることを除けば。
店主の話によると、「元々本屋はやりたかったが違う仕事をしているので出来ない中、どうやってやれるかを考えたときに出てきたアイデアが無人古本屋だった」ということだ。気になる防犯対策について聴いてみて驚いた。パッと見ただけでは分からない工夫に満ちていのだ。例えば立地である。
商店街のような人通りが激しい場所でも逆に人通りがなさ過ぎても盗まれる危険は高まる。その点、いまの立地はスーパーや学校の近くで常に誰かがいるけれどもだからと言って騒がしいわけではない。その上、ガラス貼りなものだから向かいのクリーニング店の方から中が丸見えなのだ。カメラだけではない。人は誰かに見られているような状況では盗まないのだ。そういう観点から店内に日陰をできるだけ作らないようにしているとも言った。
つまり、無人である以上、前述したような盗まれないような環境づくりが大事なのだ。そのためには品揃えも重要でマンガは並べないそうだ。イタズラ好きの学生に狙われないためである。
誰もがやりそうでやらなかった無人というアイデアだ。勢いでやったのかと思ったらどうも違う。それもそのはず、店主はインターネット通販店にアドバイスをするような仕事をしているとのこと。普段からお客様のことを考えて「どうやれば売れるのか」と考えているのである。通りで緻密な設計をしているわけだ。
もちろんその設計は防犯だけに留まらない。入りやすさや品揃えなどもちゃんと考えており、でも、最後はお客様の良心に頼る。しかも、それが表に出るわけでもない。見た目は無人なだけで普通の古本屋なのだ。緻密さと緩さのバランスが絶妙なのである(本屋の話をしていて「離脱率」ということばが出てきたのには驚いた)。結果として若干ながらも利益を得られているというのも凄い。
買取はどうしているのか? と聴いたら貰うことがほとんどだという。ブックオフには売りたくないし、古書店もハードルが高い。捨てるには忍びないといっていただけることが多いそうだ。また、「本のある場所」の運営者として相談を受けたときに報酬をいただける場合は本を貰うようにしているとのこと。「それも本当にいらない本じゃなくて好きな本だけど読まなくなった本」が貰えると嬉しいそうだ。「そうすることで本棚が友達の家の本棚みたいに楽しくなってくる」そう言われみるとたしかにBOOKROADの本棚は数は少ないが楽しかった気がする。
目標は全国制覇!
最後にBOOK ROADという名前の由来を聞いてみた。
「全国で本屋が急速になくなりつつある中で、本に触れられる場所を全国につくりたい気持ちを言葉にした。既存のやり方だと難しいがBOOK ROADのやり方であればできるはず。山間地などの採算の取りにくい場所やカフェ・雑貨屋などにも本があるようなそんな状況をつくっていきたい。」
思いもかけず大きな野望を聴くことになった。『本の逆襲』の中で著者の内沼晋太郎氏はこう言った。
出版業界の未来は暗いかもしれないが、本の未来は明るい
この言葉に現実味を持たせてくれたインタビューであった。