本が好き!の勝手にコラボ企画2:「ハヤカワ文庫の100冊2015秋」に参加して購入。
なぜ残り99冊ではなくこの1冊にしたのか。読みたい本はほかのレビュアー(本が好き!の登録者)さんが読んでいるからということももちろんあるが、もっとも大きい理由はほかにある。
SFは限りなく通常ルートに近い寄り道である
SFについて知りたかったのだ。
仕事の中で本の情報に接することが多いのだが、いかんせん自分の読書の時間を取ることができない。いや、フリーランスなのだから時間のやりくりはいかようにも付けられるはずなのだが、不安に駆られてどうしても仕事をしてしまう。
そうは言っても、人の体。延々と働き続けられるわけもなく、また、困ったことに寄り道が好きなぼくは寄り道欲がある一点を超えたとき読みたくなる。どうしようもなく読みたくなる。
何を読むのか。マンガとSFだ。
マンガについてはまた別の稿に譲るとして、SFである。世の中にはいろいろなものがあるがぼくの好きな寄り道は未来や空想世界への寄り道だ。それがSFなのである。
とはいえ、ディープラーニング搭載AIが将棋のプロを負かしたり、ドローンが空を飛ぶ世の中だ。その上、世界の第一線にいる頭脳が人間の知能を超えるAIが生まれる技術的特異点=シンギュラリティの危険性を唱えるようになる時代でもある。
SF=サイエンス・フィクションで夢みられ語られてきた世界が現実になるときも遠くない。というか知らないだけで既に実現していることも多くあるだろう。
つまり、SFを読むという行為は限りなく通常ルートに近い寄り道と言える。
ここで言う通常ルートとは世の中に直接関わることであり仕事や家庭に関することだ。それに対して、寄り道は直接世の中と関わらないであろう物事。小説や音楽、映画など娯楽に興じることである。
娯楽のつもりで読んだ本が実はいつの間にか世の中に大きくかかわることになるかもしれない。それがSFの醍醐味なのだ
さて、本書の話である。
本書『海外SFハンドブック』は早川書房編集部による編まれたものだ。
“本書は、海外SFの新たなスタンダードとして、かつての巨匠の作品から最新の必読作までを選定しご紹介しています。”
つまり、SFの入門者・初心者に向けた海外SFの案内図であり、データブックである。巻末に掲載された「完全保存版 ハヤカワ文庫全データ」は今後のSF読書に大きく貢献してくれるだろう(書名索引・人名索引までついている!)。
ただ紹介するだけならウェブの海にいくらでも転がっているが、本書の素晴らしいところは現役のSF作家による推薦エッセイや年代別SF史、さらには海外SF作家についてまで解説してくれているところである。
これ1冊あれば、広大で深遠な海外SF世界を迷わずに進むことができるだろう。
例えば、ハインラインやクラークについては未読だが必ず読まなければ、という気分にさせてくれるしスタニスワフ・レムが映画『ソラリス』の原作者であるとか『シンギュラリティ・スカイ』なんて好みド真ん中の作品を知ることもできた。
これ1冊あればぼくは大丈夫だと思う
ここで話を戻す。
先に「SFは限りなく通常ルートに近い寄り道である」と書いた。
端的にいえばSFには社会の未来につながる可能性が描かれていると思う。あり得たかもしれない未来であり、これからあり得るかもしれない未来なのだ。
仕事でこういったインタビューをした。
そこでインタビュイーの江口晋太郎氏はこういったようなこと言っていた(以下、意訳)。
“SFで描かれたあり得たかもしれない未来を、いま考えることで、現在の技術から解き放たれた発想が可能になるんじゃないのか。”
本書を読めば、現在の技術に縛られないためのあり得たかもしれない未来を覗くための扉を知ることができる。さらに、現在の技術に基づいたあり得るかもしれない未来を知るためのカギを見つけることもできる。
実は、本書はこれからの社会の地図でもあるのだ。