暮らしの手帖の編集長と言えば通りが良いだろうか。今や著書も人気の松浦弥太郎氏は実は本屋さんでもあったりする。そもそもの始まりは渡米したが英語ができないために本屋に入り浸ったことがあるようだ。wikipedia情報なので定かではないが旅から帰ってきて本屋をやるだなんて素敵ではないか。
本屋探訪記第58弾は中目黒にある古本屋「カウブックス中目黒」だ。
まとめ
時間の無い方のためにまとめを。
- 品揃え:立地からすると意外なほど文字ものが多い。値段帯は高め。だが、それでもここで買う価値はある。
- 雰囲気:中目黒的素敵本屋。
- 立地:目黒川沿い。歩いていれば見つかる。
03-5459-1747
営業時間 12:00PM-8:00PM
月曜定休 月曜祝日の場合は営業します
URL:http://www.cowbooks.jp/
Twitter:https://twitter.com/cowbooks
目黒川の川沿いで優雅な古本タイムはいかが?
中目黒駅を出る。西側にテクテクと歩いていくとセブンイレブンが見えてくるので奥の道を右に曲がる。すると見えてくるのは目黒川だ。川沿いにはオシャレなショップがポツポツと建ち並んでいる。漂い出るオシャレ感はエベレスト級だ。こんなダウンジャケットで来てしまって場違いではないだろうか。内心は不安になりながらも何食わぬ顔を装って店々を回ると本棚と一緒にベンチが一つ。疲れた足を休めていると気が付いた。そこが目的地「カウブックス中目黒」なのである。
本棚とベンチ
ということで、店内に入る前に外にある本棚の説明を使用。店に向かって左側に置かれたレトロな本棚には文庫と新書が詰まっている。均一本コーナーかなとウキウキしながら物色したのだが参った。そうここは中目黒なのである。外に出しているからといって安売りしているとは限らない。ここはハイソでオシャレな中目黒なのだ。自分の貧乏性に若干の恥ずかしさを感じつつ、本棚に見入る。ベンチがちょうどよい位置にあるので見やすい。
あるのは、文庫中心に海外文学、近代日本文学、エッセイ、岩波文庫、講談社文藝文庫、サンリオSF文庫などで、ヘッセやスタンダール、シェイクスピア、安部公房、山口瞳、開高健、内田百間などの品揃えだ。さすがのカウブックスである。文庫・新書でも気を抜かない。納得のクオリティなのである。ちなみに、横にはマガジンラックがあり雑誌と洋書の大判本が売られていた。
輝け!電光掲示板
さて、ベンチで一服もしたことだし、いよいよ店内に入ることにする。入るとまず驚くのが真ん中の上品な長テーブルとやや奥に広い長方形の店内の上部にぐるりと配された電光掲示板だ。なんだ、これは? 頭に沸き立つクエスチョン・マークがメモをする手を止めてしまう。よく見ると英語のメッセージを回しているようだ。本の一節だろうか。ここまでメッセージ性が前面に出た本屋というのも珍しい。
レイアウト
では先と重複するがレイアウトをざっと書いておこう。まず、真ん中に奥に長い大テーブルである。気が利いたことに脇にはイスが置かれていて購入前にじっくり迷うことができるようになっている。しかもテーブルの上には思わず手に取ってしまいそうな小さな雑貨が配置されている。鉛筆やしおり、眼鏡のしおや、切手などだ。
正面奥はレジで左右の壁には6段の本棚が4つずつだ。入口が属する辺には左側にガラスケースがある。BGMは小さい音でクラシック。アロマの良い匂いがした。なんというオシャレ感。これが中目黒クオリティであり松浦弥太郎クオリティなのだ。
右辺の本棚
右側の本棚から見ていこう。と思って体を右に向けると本棚の前にロゴマーク入りのクッションが置かれていた。もちろん売り物である。本だけではないのだろうか。それは、頭の片隅に置いておくことにして、焦る心を宥めつつ本棚を見ることにする。
手前から日本のサブカル、日本文学、日本の女性文学と古本屋のため厳密ではないがゆるやかにジャンル分けされていた。
日本のサブカルには、稲垣足穂、和田誠、植草甚一、谷川俊太郎、手塚治虫、『赤塚不二夫1000ページ』など。マンガと入り乱れた棚づくりが素晴らしい。
日本文学には、谷内六郎、小島政二郎、池波正太郎、吉行淳之介、串田孫一に見ていて驚いたのは安部公房の「笑う月」の大判本があったことだ。「笑う月」は文庫本でしか知らなかった。単行本ではあると思っていたが大判本があったとは。己の不勉強を恥じるばかりである。
日本女性文学には、武田百合子、宮城まり子、倉橋由美子、白洲正子など。
最後4つめの本棚。レジのすぐ横の本棚は、全て面陳だ。松浦弥太郎氏の著書と『暮しの手帖』が控えめに置かれ、そのほか雑誌『murmur』や『民藝図鑑』、絵本『つきのオペラ』などが置かれていた。
左辺の本棚
左辺に行く前には先ほどのクッションの位置にガラスケースがあるのが分かる。中にはブックスタンドやメモトレイ、Tシャツ、バッグなどすべてカウブックス製のものだ。本だけではこのブランディング。本屋さんを目指す身としては大いに参考になる。
本棚はというとこちらは文学、デザイン、海外がキーワードだ。順に見ていくと一つめは吉田健一、長谷川四郎、小島政二郎、雑誌『ポパイ』など。
2つめは『狂人日記』の単行本、『LSD 幻想世界への旅』、オノヨーコ『ただの私』、三月書房の小型愛蔵本、色川武大、アラーキー、開高健など。
三つめは、寺山修司『アメリカ地獄めぐり』、横尾忠則、バロウズの単行本などビート系、山田風太郎、少年民藝館、ほか民藝系など。
4つめは、ジムキャロル『マンハッタン少年日記』、バラード『死亡した宇宙飛行士』、『太陽の帝国』、ヴォネガットジュニアの単行本、『現代アメリカのポップヒーロー』、晶文社の文学のおくりものシリーズなどとなっている。
テキスト主体のオシャレ古本屋
これで本棚はすべて見た。賢明な本ブログ読者の方は既にお分かりかと思うがデザイン系は少なく読み物が多い。これは驚くべきことである。考えてみて欲しい。周りは若者向きのショップが並んでいるが閑静な住宅街でもある中目黒で本屋さんをやるとしたらあなたならどうするだろうか。少なくとも僕なら絵本や写真集など文字があまり多くない、けど、買って良い気分になれるような品揃えにするだろう。ところが、だ。カウブックス中目黒はあえてそこで文学を中心に文字の多い読むのに時間のかかるある意味では面倒な本ばかり置いてあるのだ。もちろん絵本も写真集もある。だが、それは少しだ。あくまでもカウブックス中目黒の中心は文字にある。ビジュアルではなくテキストなのだ。
それをこの立地でやると決めた松浦弥太郎氏には敬意を持つと同時にもっと氏のことを知りたくなった。そうすれば自分がやりたい本屋さんのヒントになるかもしれないと思うのだ。