グンマスター氏と群馬の面白い本屋を巡る連載「グンマーは秘境じゃない」。
- グンマーは秘境じゃない(1) 大人も子供も楽しめるブックフェス「たかさき絵本フェスティバル」
- グンマーは秘境じゃない(2) とにかく落ち着く家のような本屋「ふやふや堂 早政の土間店』
- グンマーは秘境じゃない(3) まだまだ攻める老舗絵本屋「フリッツ・アートセンター」
第4弾は前回も少し触れたsuiranが運営するフリッツ・アートセンター内にある店舗内店舗bookstand レンズを紹介する。
まとめ
時間のない方のためにまとめです。
- 品揃え:カルチャー系を中心に他にない独特の品揃え。
- 雰囲気:フリッツ・アートセンターと同じ。
- 立地:電車:JR上野駅より高崎線にて高崎行き・または前橋行き。高崎駅より両毛線にて前橋・桐生・小山方面行きにて前橋駅下車。上野から各駅停車で約2時間、特急にて90分。長野・上越新幹線にて高崎まで50分、高崎駅より前橋まで15分。
開館時間:11:00am - 8:00pm(月曜7:00pm、金曜9:00pm)
休館:火曜日(祝日の場合は翌日)
Mail:tutiya0606@gmail.com
URL:http://suiranbook.exblog.jp/20561684/
Facebook:https://www.facebook.com/suiranbooks
suiranって何者?
bookstand レンズは群馬県を中心に本の活動をしているsuiranの旗艦店である。そうsuiranである。Facebookで活動をよく見ており前々から気になっていた。それがついに会える! ということでドキドキしながらの取材だった。
一番気になっていたのはsuiranさんが何者なのか? ということだ。各地に出没しているようだが、ネットショップがあるわけでなくその実像が何なのか全く分からなかったのだ。それが、ここフリッツ・アートセンターでsuiran店主の土屋裕一さんと話せたのは、こんなやり方もありなのか! と驚きと発見がある嬉しい出会いだった。
出店マスターsuiran
出会ってまず聞いたのは「どうやって実店舗を持てるようになったのか?」だ。
ここ何年かで自分の本屋を持ちたいひとが増えているとは何度か書いてきたが、それでもやはり実店舗を持つという壁は大きい。確かに東京で出店したときに見たsuiranの品揃えは他に無いものでファンが多いのも頷けるが、それでもやはり実店舗を持てるとは思っていなかった。
ではどうして持てたのか?
土屋さんにこれまでの経歴を聞いてみたところ、2010年に高崎に戻ってきて5年間本屋で修行したころ、店舗を持ちたくなったそうだ。まず、本を使った多くの取り組みをしているブックピックオーケストラに参加。大学卒業後、都内に就職をした2008年のことで、そこで古本の魅力を知る。そして、小さい頃からの「本屋さんになる」という夢が捨てきれず、2010年に高崎に戻りくまざわ書店に就職したとのこと。
ブックピックオーケストラの活動を通して知り合った方が新潟でお店を開業したときに「本があったらうれしいので、店に合わせて選書してくれないか」と依頼される。そのときはまだ書店員だったそうだが、この仕事が評判となってパン屋さんや家具屋さんなど普段あまり本が置かれない場所からも依頼が来るようになった(suiranセレクトの本棚があるのは以下の店舗だ)。
- book stand レンズ
- peace tree
- Wandervogel
- SLOW TIME
- gururi
- 小阿瀬直建築設計事務所[snark]2階
- ふやふや堂
- senkiya
- Vesna!
- cafe あすなろ
- 富士スバル太田店
- ポルシェセンター高崎・前橋
- (詳しくは「suiranの本の置いている場所」を参考」)
凄いと思ったところが、いままで一度も営業をしたことがないこと。口コミで評判が広がって実店舗まで持てるようになるだなんて。選書の腕一本で来たという事例は少ないのではないだろうか。
ちなみに屋号のsuiranは土屋さんが高校のときから好きだった言葉で、高崎高校の学園祭「翠巒祭」から取ったそうだ。馴染みがあったことと「翠色に連なる山々」という意味がまさに活動拠点となる群馬の風景だったから。
フリッツ・アートセンターとの出会い
実は、土屋さん、2015年の夏までくまざわ書店で働いていたそうだ。5年間働き、新刊書店の仕組みがだいたい理解できたので、何か他の仕事をしようかと思っていたそう。そんなとき、毎年5月に開催する本のイベントで面識のあった、フリッツ・アートセンター店主の小見さんとじっくり話をしたところ「2015年夏にフリッツ・アートセンターが30周年迎えるので、心機一転したい」という話だった。
ここに、2人のタイミングがちょうど重なった。
この話を聞いて「新しい本屋づくりに加わりたい」ことを相談した結果、フリッツアートセンターに就職することになったのだ。ひとつひとつの仕事を大切にして、ご縁が繋がって、現在のsuiranがあるということだろう。
(book stand レンズができたのは2013年5月のことで、フリッツ・アートセンターに就職をする前から、suiranの旗艦店として存在はしていた)
大人にも向けた品揃え
さて、suiranとbookstand レンズの経緯を説明したら長くなってしまった。レイアウトはフリッツ・アートセンターの記事で紹介したので品揃えを見ていこう。これが驚いたことに子ども向けかと思いきや違うらしい。
フリッツ・アートセンターだから……というわけではなくお客様の視点に立った選書にしているそう。子どもと一緒に絵本を買いに来た大人にも喜んでもらえる品揃えにしているそうだ(それを許すフリッツ・アートセンターの小見さんの懐の広さも素晴らしい)。
右手奥には新刊が並ぶ。赤々舎や思潮社の写真集に近頃話題の『へろへろ』もある。
右手手前の本棚に囲まれた書斎的スペースには、石川直樹や谷川俊太郎、赤々舎、思潮社、『悲しみの秘儀』、『d design travel』、現代詩文庫、『ユリイカ』の坂口恭平特集、『善き書店員』、『本の文化史』など本の本、雑誌『& premium』、『手仕事』、ブルータス、村上春樹、カラーブックス、山の本、などだ。
基本的にはカルチャージャンルの本なのだが、ときどき見たことの無いような渋い本が差し込まれていたりしてそれが秀逸なのだ。「以前、小学校1年生くらいの女の子が写真集を買ってくれたことがあって、それがとても嬉しかった」と素敵な笑顔で話す土屋さん。
ちなみに土屋さんが好きなのは武井武雄の本。造本作家として名高い武井武雄の本はコレクターがいるほどの人気で、知る人ぞ知るもの。そんな本が好きだなんて、この品揃えにも納得である。
魅力的で懐の広い店主2人の出会いでこんなにも素晴らしい空間が生まれるのだと感動した取材だった。ちなみに、4/1から作家の絲山秋子さんが絲山房と称して、bookstand レンズの書斎スペースを使用している。
おもしろい人のところにはおもしろいひとが集まってくるのだ。
つづく