もう何の本か忘れたが一読したときから「ここは行きたい!」と恋い焦がれて1年ほど経ったろうか。自宅が中央線を使いにくい場所ということもありなんだかんだと行けずにいた。そんな中、「茶房 高円寺書林」が2月で閉店になるという情報を仕入れる。ちょうど良いので本を肴にお茶とお酒を飲んでやろうと高円寺に行くことにした。行ったのはいいのだがなんと「茶房 高円寺書林」はお休み。時刻は午後2時。コクテイルの開店まであと4時間もある。どうしたものか。ここまで来ておいて帰るのも癪だ。すると同行していた奥さんが近くにお目当てのアメコミ専門店があるという。そこで時間を潰し日が暮れてきた頃、ようやくお邪魔することができた。本屋探訪記第84弾は「古本酒場コクテイル」である。
まとめ
時間のない方のためにまとめです。
- 品揃え:文学や出版関係、アートも少々。
- 雰囲気:お婆ちゃん家。リラックスできる。
- 立地:高円寺駅から徒歩5分程度
tel/fax:03-3310-8130
営業時間:18:00-24:00(L.O. 23:30)
定休日:火曜、第2・4月曜
URL:http://koenji-cocktail.com/
Twitter:https://twitter.com/cocktail_books
看板がない!
高円寺駅北口を北西に行く。飲み屋街になっている道をひたすら北西に歩くと趣のある古民家が見えてくる。表には古本が置かれている。100円セールで近くにお金を入れる箱がある。古本屋さんなのかと思ってよく見ても看板がない。入り口らしき引き戸が脇にあるが果たして入っていいものだろうか。恐ろしい。中に入って普通の民家だったらどうしよう。しかし、季節は冬。日もくれて寒いばかりだ。できることなら早く中で暖まりたい。ええい! 仕方ない。恥なんてかいてナンボだ。男は度胸。引き戸を勢い良く開けて中に入った。
炭火が暖房
暖かい。しかもどこか優しい暖かさだ。なんだろうと思って見渡してみると足元に炭火が。これが暖房代わりというわけだ。古民家であることも手伝ってまるで今にも明治期の文士が出てきそうである。
レイアウト
軽くレイアウトを説明しよう。カウンターがメインの席で入口目の前に板の間のようなものがある。低めのテーブルで胡座で寛ぐ場所だ。この板の間は本棚に2方向を囲まれておりゆっくり本を読むならもってこいの席でもある。カウンターのそばには古トランクをテーブル代わりにして2席(ぼくらはここに通された)。カウンター含めて10席超である。階段が奥にあったので2階にも席があるらしいのだが、どうもかしこまってしまって見せてもらうようにお願いすることはできなかった。しておけばよかったなあ。
本棚の位置は先程も述べたように板の間の2方向。入り口周辺、というか壁沿いにも逐一ある。さらにカウンター上にもあるのだがここはお客さんが座って話し込んでいたのでよく見れなかった。ちなみに本棚はすべて時代物の家具である。この雰囲気、堪らん!
品揃え
入り口横と板の間周囲2方向の本棚
さて、品揃えに移ろう。ちなみにここの本はすべて購入できる。読む専用ではないのだ。
入口横は飲食に関する本たちだ。『世界の酒』、『味見手帖』、『文学の中の酒』などである。
板の間には江戸・東京に関する本とデザイン系である。『東京路上博物誌』や『江戸幻想批判』、『昭和の子ども遊びと暮らし』、『書物往来』、古い『毎日年鑑』、『作家の文体』、『ウィリアムモリス全仕事』などでデザイン系と言っても出版関係が多かった。
トランクテーブル横の本棚
トランクテーブル横はコミックを始め、カメラや思想、文学系など色々なジャンルの本が並べられている。
コミックで言えば『のらくろ』や『よりぬきサザエさん』、谷口ジローなど。カメラで言えばアラーキーや飯沢耕太郎、『芸術新潮』などアートも若干含まれていたか。思想は『超訳ニーチェの言葉』、『癒しのナショナリズム』などで、文学系はというとボードレールなどである。
カウンター上の本棚
申し訳ないが先にも述べたようにここはお客さんが話し込んでおり、さすがに覗きこむこともできず新書と文庫が置いてあるということしかわからなかった。例えば、ひとりで立ち寄ったとき。何も本を持っていなかったときなど手慰みに目の前の文庫本を手に取るというのはあるのかもしれない。お酒を飲みながら小説なんて素晴らしく贅沢だ。
文学作品からメニューを拝借
ひととおり見終わったので席に落ち着いてさて何を頼もうかと奥さんとメニューを見ていると品名の下に文学作品の名前が書いてある。どうやら文学作品に登場する料理を出しているようなのだ。いくつかあったがぼくは最近読んで好きになった『壇流クッキング』から平成コロッケを頼んだ。生姜醤油が聞いて美味い美味い。炭火にあたりながら文学作品に出てくる料理を食べつつ読書する。最高なひとときである。目の前の奥さんも満足そうだった。
知る人ぞ知る本の秘密基地
文豪が出てきそうな趣ある古民家に分かりにくい入り口。古い作品から最近のベストセラーまで少ないながらも吟味された本棚。文学作品から拝借した選りすぐりの料理。カウンターでは出版関係者と思しき人たちが出版談義に花を咲かしている。一夜の夢の様な濃密な時間だった。もし高円寺にお寄りの際は勇気を出して飛び込んで欲しい。最初は驚くだろうがまず間違いなく満足できることは保証しよう。