ファッションブランドが本屋さんを作るらしい。はじめて聞いたときは驚いた。しかも場所は原宿。超一等地である。下世話な話、本なんか置くよりも他のものを置いた方が儲かるはずである。それでもなぜ作ったのか。今回はそれを考えてみたい。
いや決して写真を撮るのを断られたとかあんまり面白くなかったとかそういうことではない。断じてない。
いやまあ店自体はあまり広くもないし面陳メインだしで本好きのためのお店ではないのでぼくが楽しめなくても仕方ないとは思うが。それにしてもなんとなく感性が追いつけていないような恥ずかしいような気がするのはなぜだろうか(以下は2013年10月11日の記録である)。
まとめ
時間のない方のためにまとめです。
- 品揃え:一流デザイナーの書斎にありそうな本。本にまつわる雑貨が少々。
- 雰囲気:高級ブティック。
- 立地:原宿駅から徒歩8分程度
電話:03-5412-0351
営業時間:11:00~20:00 定休日:不定休
URL:http://www.marcjacobs.jp/bookmarc/
Twitter:https://twitter.com/bookmarconline
本好きじゃない人へ本の魅力を伝える
まず、恥ずかしながら告白させてもらえばぼくはこのマークジェイコブスというブランドを知らない。知らないなら調べてやろうと思ってGoogle先生にお伺いを立てると…
ほー、なるほどー、へー
クラシックな感じ。嫌いじゃないセンスでございました(上から目線)。
それはそうと…そんな有名デザイナーが本屋さんをつくるのです。これを見にいかないファッション好きがいるでしょうか。
つまり普段は本にお金を使わないような人。使ったとしてもベストセラーしか買わないような人にもこの本屋はまだ見ぬ素敵な本を届けることができる!(かもしれない!)ということなのです。
その証拠にオープン日の最後の15分でしたがお客さんは洋書や古書などあまり知らないような人ばかりでした。や、偏見ですしイメージですがw
雑貨も置くとのことでしたが、これが思ったよりも本の数が多い。写真集などビジュアルメインの品揃えで、「本を贈る文化をつくろう」ではないですがプレゼントに打ってつけの本ばかりです。
見た目はポップでライトに。でも、内容はしっかり(お値段もしっかりしてます)。
本が売れない時代にこういう売り方をあえて提唱するということをぼくは褒め称えたい。
ここが成功ですればですよ。ルイ・ヴィトンとかシャネルとかそういったブランドが追随してもっと本は売れるのではないか、と。新しい市場ができるのではないか、と。そういった期待を込めて今後を見守りたいお店であるわけですよ。
デザイナー発本屋さんの極北
さて、「新市場をつくるかも」という点以外にもこのお店の興味深い点はあります。それは最近増えているデザイナー兼業の本屋さん。スノーショベリングさんやnostos booksさん、B&Bさんもそう言えますね。そういった流れにおける一つの極北ではないかと思うのです。
- 本屋探訪記vol.74:松陰神社前の「nostos books」は商店街的コミュニティーに根付くことを目指す(2013.8.11)
- 本屋探訪記vol.65:駒沢大学近くにある「スノーショベリング」は本を中心にしたコミュニティをつくりたい(2013.4.27)
なぜ「極北」かという言いますと、今挙げた本屋さんはどれも「本屋さん」をやりたくてやっています。そのための副業としてデザインをやっている。ところが、BOOK MARCは違います。いや、聞いたことがないので本当のところは分かりませんが、少なくとも違っているように見える。本屋さんではなくあくまでも「ファッションブランド・マークジェイコブス」のブランディングの一環としてやっているように見えるのです。
「世界で有名なブランド(デザイナー)が提案する本屋さんってどんなものなんだろう?」
こういった好奇心を掻き立て、訪れたお客さんを磨かれた感性による選書と雑貨、空間構成で満足させる。そうやって良い気持ちになったお客さんはきっとファッションブランド・マークジェイコブスの世界観にも興味を持ちコミットするはずです。しかも、世界的なブランドの服と比べれば本は安いです。高い高いと言われますが1万円を超えるものは少ない。確かに安いはずなのです。だから、マークジェイコブス的世界への入門としてもこの店は役立つかもしれません。本はパーソナルな商品ですから一度心を掴まれたらそのエンゲージメントは強いものになるでしょう。
つまり、「デザイナーがやる本屋さん」の極北でもあるのです。
やりたいのは本屋さんではない?
そうやって考えると「BOOK MARC」は本屋さんというよりはマークジェイコブスの書斎だと考えた方が良いかもしれません。それとも本が置いてある雑貨屋か。いずれにせよ通常、本好きが考える様な本屋さんではないことだけは確かです。そして、それはこれからの本屋さんのカタチのひとつであるとぼくは思います。
品揃えは良い
ここまでいろいろと言っておいてなんですが、やはり世界的ブランドが選書しているだけあります。これは面白そうという本が多い。
具体的に挙げましょう。
洋書がメインですね。大判の写真集が多めです。面陳が基本の展示なので冊数はそんなに多くありません。デビッド・ボウイなど音楽ものがそれなりにありますね。絵本も一部あり、日本の本は三分の一くらいでしょうか。
『チャタレイ夫人の恋人』や『アメリカの鱒釣り』、『チープ・シック』、『丘の上のパンク』、『ヨーゼフ・ボイスよみがえる革命』、『夜はやさし』、ソンタグ『写真論』、『グレート・ギャッツビー』、ナン・ゴールデン『THE BALLAD OF SEXUAL DEPARTMENT』などです。ソンタグ『写真論』は買おうかどうか迷いましたw
雑貨は店員さんも来ていたショップTシャツ(ネタとして買うのもありかと)やメモ帳、ペン、ブックマーク、iPhoneカバーなどですね。
面白かったのが香水で、なんとインクの香りがします。インク風ではありません。紛うことなきインクの匂いです。文学女子や書店男子にぜひとも湯水のように降りかけて頂きたいですね!
本好きなら一度だけ オシャレ好きなら何度でも
以上のようになんだかんだで品揃えは良いです。ガラスケースの中で展示販売している様な(それなりの)貴重書もありますし雑貨は面白いものがあります。
本好きとしては雰囲気になじめない感じはしますが、それはきっとオープン日だからでしょう。もう少し落ち着くかもしれません。どちらにせよ一度は行ってみて損はないと思います。そして、オシャレ好きならとりあえず寄るべきです。そして、普段は手に取らない様な本を手に取りその魅力に気が付き魔の森のように奥深い本好きの世界に引き込まれてしまえば良いのです!