2014年6月。内装工事も終わり、続々と届く新刊やリトルプレス、せどりで集めた古書、陶器や雑貨などの商品を店内に並べる。10坪程度の広さだけどがらんとしていた空間は、商品が並んだ途端にぎゅっと狭くなり、一気にお店らしくなった。
あとはギャラリースペースだ。店内の一角に作ったは良いものの、どうやって運用するのか右も左も分からなかった。それでも、オープンに合わせて急な展示の相談に応じてくれたのが、広島を拠点に活動している素描家shunshunさん。三方ガラス面の箱型の展示空間に、shunshunさんの作品が並ぶと景色が一変した。準備は整った。いよいよだ。
明日はオープン日。東京から戻ってきて2ヶ月。2011年に本屋をはじめる!と思い立ってから3年が経っていた。ようやくスタートするんだという高揚感。それと同時に、初めて住む広島市内でつながりもほぼゼロに近いなか、どれだけ受け入れてもらえるのかという不安にも包まれていた。
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初めて来てくれたお客さんに「お店はいつごろから」とよく聞かれるのですが、「今年で10年になります」と答えると、とにかくびっくりされます。その表情には「全然知らなかった」というのと、「よく続いてるね」という二つのニュアンスが含まれていて、自分でも改めてそう思います。目立つような看板もなく、古いマンションの二階の一室にある小さな本屋が、10年も営業を続けていること。「10年あっという間でした」とつい答えてしまうけど、やっぱり全然そんなことはなくて、10年という長い時間が自分と店に刻まれています。
そして何より10年のあいだ、お客さんが来てくれたという事実。常連さんはもちろん、進学や就職、転勤で広島を離れたお客さん、仕事や旅行に合わせて来てくれた県外、海外のお客さん。短い時間でも店に来てくれたという事実が、自分にとって大切な物だと感じています。そして、その人にとって、店で買った本や器、展示やイベント、店内で過ごした時間など、何か一つでも良い思い出になってくれたのであれば、これほど嬉しいことはありません。店を始めてよかったと。
…思いがけず閉店の挨拶のようになってしまいました。でも時折思うのですが、個人店はいつしか閉める日がやってきます。別の誰かが継いでくれたとしても、店主の色が濃く反映される個人の本屋は、それはある意味で別の店。だからこそ、同じ時間を共有したお客さんの、良い思い出に残ってもらえるような店にしたいんだと思います。
今回、オープンまでの道のりを連載してくれたBOOK SHOP LOVERにて再び、今度はREADAN DEATの10年を振り返るブログを連載させてもらうことになりました。思い返すと至らなさ、甘さ、未熟さなど、反省点ばかりが頭をよぎってしまいますが、それでも10年という節目を迎えることができたことを素直に喜びつつ、振り返っていけたらと思います。短いあいだですがどうぞお付き合いください。