『新聞記者、本屋になる』のレビュー的な文章を少し前に書いたが、それで聴きたいこともできたので、Readin' Writin'を訪ねて取材することにした。行くのは2年ぶりくらいだろうか。浅草方面に行く用事があまりないのでご無沙汰してしまった。
久しぶりに見る店内には本棚が増えていた。SNSを見ていて分かっていたことであるがやはりフェミニズム関連の本が多くなっている。それに前よりもさらに本を買いたくなるような空間になっている気がする。オープンしたのが2017年4月なのであれから4年半。それだけ店が進化したということだろう。
ご著書出版のお祝いの言を述べたり近況報告をしたりしつつ、開店から今までの店のことを少しずつ聴いていく。話していて思ったのはオープン間もない頃、『日本の小さな本屋さん』で取材したときに話していたことと落合さんが店でやりたいことが変わっていなかったということだった。
何がどう変わっていなかったというと、『日本の小さな本屋さん』にも書いてある。引用しよう。
”落合さんが目指しているのは、17世紀半ばから18世紀にかけてロンドンで流行した「コーヒー・ハウス」。貴族や政治家、商人、文学者、ジャーナリストなどが集い、情報を交換する場所だ。落合さんは21世紀のコーヒー・ハウスをここでつくろうとしているのだ”
『日本の小さな本屋さん』(和氣正幸、エクスナレッジ)31p
人が集い出会い、何かが生まれる場所。実際、僕が取材している最中にも、とある出版社の方がたまたま来店したのでインタビューを中断して本棚を眺めていたのだがしっかり紹介していただいた。同じように通常の買い物のときも、イベントのときも同席した方で合いそうな方がいれば紹介しているという。場のホストとして人を繋ぐ役割を果たしているのだ。
文字にすると簡単だし当たり前のことでもあるが、僕も自分で店を運営している中でそのことの難しさは骨身にしみて分かっている。気が合いそうだなと思って紹介したらそうでもなかったりその逆もあったり。こればっかりは経験値を上げていくしかないのだと思うのだけれど、さすが百戦錬磨のベテラン新聞記者だっただけあって落合さんの紹介は如才ないように思える。
それに加えて「面白そうだ」と思った人に対して臆面なく声をかけるフットワークの軽さというか勇気というか、そこは本当にすごいと思う。本人は「ナンパ」と自重するがそれでこれだけのイベントが開催できるとは思えない。
本の出版についてもイベント後の懇親会がキッカケ(本書に書いてある)と言うし、そのほか「聡子の部屋」や「短歌教室」についても、そうした落合さんの能力……いや能力だけじゃなく人柄や知性、そこに21世紀のコーヒー・ハウスを目指すという意志があってこそ成り立っているのだろう。
インタビューの最後。これからについて訪ねてみた。そこで返ってきたのは「低く、長く、遠く」という言葉だった。続けるために目標は低く、長く、そして新しい景色を見るために遠くを目指す、ということだ。
実は話に夢中になって以前の記事で書いた聴きたかったことを聴き忘れたので、あとからメッセージで聴き直したのだが同じ答えが返ってきた。
低く、長く、遠く
本を読んだ方からすると、子供との時間を確保するため営業時間を17時~18時までにしているなどの制限を踏まえた上での発言と思われる方もいるかもしれない。さらに言えば大手新聞社に長年勤めた退職金があってこそのものだと思うかもしれない。
だが僕はこう思うのである。本屋というビジネスモデルは構造的に利益が少なく、しかし社会的意義ややりがいが大きいものとなっている。であるならば、むしろ続けることを第一義に商売のいろいろなことを組み立てる方が店主として楽しくやっていくためにも社会的にも良いことなのではないか。小商い的な考え方に近いだろうか。
とはいえ、ビジネスというものは前に進めなければ現状維持することすら難しいとはよく言われることで、そこは案外と大変なことではあると思うのだけれど。
変化を受け入れつつ自身も変化するのを前提として道を踏み外さないための道標のような言葉として「低く、長く、遠く」はとても有用なように思ったのだった。
そんなこんなでいろいろ書いてきたがこの記事でいいたいのはそんな落合博さんが書いた『新聞記者、本屋になる』は面白いからぜひ買ってね! ということだったりするので、お近くの本屋でぜひ買ってください。もし良ければReadin' Writin'で落合さんから直接買ったり、下北沢の僕の店で買ってくれるのも嬉しいです。