フリー書店員という職業がある。BSL読者の皆様ならご存知かもしれないが久禮書店を主宰する久禮さんが名乗る職業だ。
- 久禮書店サイト
- 青弓社の連載”こんにちは、久禮書店です”
なぜ、本屋ではなくフリー書店員なのか。詳しくは青弓社の連載を読んでいただくと分かるが、つまりは彼の職能に紐付いている。棚づくりに定評のあるあゆみBOOKS小石川店の店長だった表現する久禮さん。「書店員」としてのスキルを伝えたり、書店の選書とメンテナンスをしたり、書店じゃない場所に出店したり。書店員としてのスキルを核に様々な仕事をしているのが久禮書店ということだ。
そんな久禮書店さんが神楽坂にできるブックカフェで本棚を丸ごと任せてもらうらしい。名前は「神楽坂モノガタリ」。これは行かねばと思い訪ねたのは4月も中旬のころだ。
まとめ
時間のない方のためにまとめです。
- 品揃え:神楽坂らしい大人の品揃え
- 雰囲気:上品でいながらも、オープンな雰囲気
- 立地:東京メトロ神楽坂駅1番出口(神楽坂口)徒歩1分
営業時間 : 12:00-22:00 定休日 : 月曜日
電話番号 : 03-3266-0517(FAXも同じ)
URL:http://www.honnonihohi.jp/index.html
Twitter:https://twitter.com/kagurazakamono
神楽坂モノガタリは神楽坂駅前にある。一見、オシャレなカフェ風の建物。コンクリート打ちっ放しの近代的なビルの2階にそこはある。ジャズが流れる店内は思いの外、広い。ブックカフェ形式ではあるが久禮さんによる選書は購入することができる。選書のテーマは? と聞いてみたところ「これと言って決めたわけではないがプレゼントになりそうな本を選んだ」とおっしゃっていた。確かに仕事の後や休日にカフェに訪れてひと息ついたとき、ふと見回すと普段は目に留めないような、でも、魅力的な本が並んでいたら……思わず手に取るだろう。美味しいコーヒーを啜りながら読んでみたら面白くて、ついつい買ってしまうかもしれない。さすが久禮さんである。
時折、開かれるイベントも他にはない楽しい試みがたくさんあり、また来たいと思わせてくれる行き届いた空間が神楽坂モノガタリなのだ。
さて、せっかくフリー書店員が選んだ棚だ。レイアウトとともにしっかり紹介していこう。
オープンテラスでゆっくり読書
入って目の前には緩いカーブの目隠し壁で多用された面陳からオススメコーナーであることが分かる。
この壁を左から回り込むと雑貨屋、バー、カフェとなり右から回り込むとすぐカフェスペースとなる。神楽坂モノガタリの目玉のひとつにオープンテラスがある。入り口から考えるとちょうど右斜め後ろにあるのがそれだ。左斜め前はというとオープンではないが通りに突き出した形をしており、窓から見える景色が開放感を与えてくれる。晴れた日にここでゆっくり読者なんてもう最高である。
神楽坂らしい大人の品揃えの本棚
では、本棚を見ていこう。全体的に神楽坂らしい大人の品揃えとなっている。
入り口真正面のオススメコーナは大きく5つに分けられる。左2つはガールズ向けの品揃えだ。『めくるめく現代アート』、『武井武雄 イルフの王様』、『世界の最も美しい大学』、『フランスのお菓子めぐり』、『考えるキノコ』、『モモ』といった内容だ。
右3つはというともう少し男性に向けた品揃えで、手前から文芸、人文系、街歩きといった様子。『ハザール事典』、『くろいほん』、『あいのようだ』、『不倫の歴史』、『数学教室』『ヒエログリフ』『花森安治伝』、『宇宙の地図』『看板建築モダンビル・アパート』、『残すべき建築』、『銀座百話』、『東京の自然史』など。
後ろを振り返ると先ほども書いたオープンテラスの手前に絵本や雑貨だ。『ながいながいみち』、『百年の家』、本の箱、十年メモなどである。
もっとも目立つ店舗右辺の壁本棚5本を見てみよう。簡単に分けられるわけではないが大まかなジャンルを書いていくと手前から「女性向け」、「自然・暮らし」、「日本」、「日本文学」、「海外文学」となる。それぞれ代表的な書名を挙げていくと以下のとおりとなる。
- 女性向け:『ガール・ジン』、幸田文、『台所漢方』、武田百合子、『野菜の歴史百科
- 自然暮らし:『フランスの美しい鳥の絵図鑑』、『果てしない物語』、『花日記』、『「アルプ」の時代』
- 日本:『日本の土』、『B面昭和史』、『60年代アナザーストーリー』
- 文芸:『長田弘全詩集』、『太宰と安吾』、『東京自叙伝』、本屋の本、出版の本
- 外国文芸:『失われた時を求めて』、『ロンドン歴史図鑑』、『チェーホフ短篇集』、『不思議の国のアリス』
この壁の突き当たりに壁が一枚あり、トイレがある場所へ続く。両側にはアート・デザイン、音楽、映画といった棚だ。『アンリ・カルティエ=ブレッソン写真集成』、『写真は魔術』、『河原者のススメ』、『地域アート』、『トリュフォー最後のインタビュー』、『池袋モンパルナス』、『市川崑の映画たち』、『日本映画100年史』、『バイオリンの謎』、『イスラムと音楽』といった品揃えだ。
さらに、この壁を通り抜けてトイレ前の空間にも本棚がある。右手に2本だ。アート、性、アングラ、学問といった調子で、『寺山修司劇場美術館』、夢野久作、『エロティシズム』、『外科医』、『タコの教科書』、『フリープレイ』、『書物としての新約聖書』などが並べられていた。
そして、振り返るとガラスケースに春画だ。日本人の想像力の豊かさに驚かされた(本記事公開時には展示期間は終了)。
優雅な街の豊かな本屋
神楽坂は良い街だ。小さなお店がそこかしこにあり路地を歩く楽しさがある。夜になれば素敵な飲食店がたくさん。「本屋」という切り口でいけば近頃できたばかりのブックバー「余白」や有名なかもめブックスやla kagu、古くからある街の本屋が残っているのも嬉しい。それでいて街を歩くのは上品な大人が多く、わかものがそこに混じっているような感じなのがまた良い。
神楽坂モノガタリは、そんな街の雰囲気を表しているかのように優雅だ。優雅で豊かな気持ちにしてくれる。神楽坂散歩の休憩場所として、酒席のあとに、イベントを楽しみに。ぜひ訪れてもらいたい本屋だった。