本屋好きの読む本屋本ということでシリーズ化してみることにした。何らかの参考になれば嬉しい。
紀伊国屋書店の創業者・田辺茂一と経営を支えた原田〜を主人公にした伝記もの。大らかで切符が良く粋だけど経営やビジネスにはとんと弱い田辺茂一を、経営とビジネスに強い原田ーが支えていくのだが2人のやり取りがおもしろい。
ビジネスマンとして有能な原田は、田辺茂一の元を離れ「ウチに来い」とスカウトされることも多々あるのだがそれをことわる。断る理由が、原田が助けた鯨に田辺茂一が似ているからなのだが、原田自身も田辺茂一のどこがクジラに似ているのか分からない(途中で気づく)。だがそれでもついていくのは田辺茂一に惚れているからで、社長とは? リーダーとは? と考えたときに数字云々ではない魅力が必要なのだと思わされた。
ところで、本屋好きとして活動していると、本屋が好きな人にはざっくり分けて2種類いることが分かる。「本」が好き人と、「本屋という空間」が好きな人だ。前者は品揃えを重視し雰囲気などは二の次となる。好きな場所は神保町。後者は品揃えよりも雰囲気を楽しむので品揃えはそこまで求めない。好きな場所は裏原宿や中目黒。もちろん両者が微妙に重なり合っており無限のバリエーションがあるのだが、まあどちらかに分けられるだろう。
さて、田辺茂一である。彼は作中で「ぼくは本屋という空間が好きだ」と言っている。本は当然のように読んでいるけどもそれよりは一流の知や造作、そこから醸し出される雰囲気、そして、それに惹かれて集まる人をこそ田辺茂一は愛したのだ。
もし現在で本でも造作でも一流のもの、となると恥ずかしながらぼくには分かりかねるが、それは本屋にあるのだろうか? 田辺茂一は「時代と寝る」と言った。当時の「時代」は本であったがいまはどうか?
当時の意味とは違うがぼくは「本である」と思うのだ。
本屋好きにこそ読んで欲しい1冊だった。